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お昼は中庭のガゼボで、とクリスタとカーラをエスコートするヴァレリーの手には荷物はない。
「お弁当でしたら、私の魔法で収納してあります。」
クリスタの疑問がわかったのか、ヴァレリーは笑顔で教えてくれた。
「収納魔法の事でしょうか?スターレット様は収納の魔法が使えるのですか?」
ヴァレリーが魔法で弁当を収納していると聞き、驚いたのはカーラだ。
「はい。我がスターレット家に伝わる固有の魔法です。私が収納魔法の使い手であった為に、皇族であるアルトゥール殿下の護衛騎士に抜擢された一因でもありました。」
「収納の魔法が?」
ライムの人の気持ちが見える魔法もそうたが、ヴァレリーの物を収納する魔法はその家系に受け継がれる特殊な魔法で、家系の者以外で使える者は非常に稀だ。ハイスペック当て馬令嬢であるクリスタでも使う事の出来ない魔法である。
何故それがアルトゥールの護衛騎士に任命される事になったのだろうか。ゲームの設定にも収納の魔法の事はなかったと思う。
クリスタが首を傾げていると、ヴァレリーはどこからともなくりんごを取り出してクリスタに渡した。
「収納魔法は魔力で亜空間を作り出し、そこに物を収納する魔法です。こうやって、いつでも欲しい物を取り出せると言う利点に加え、帯剣出来ない場所にでも剣を持ち込め、いつ如何なる時でも万全に護衛対象を護る事が出来るのです。もちろん魔法で取り出すのは、腰に帯剣している剣を鞘から抜くよりも少々遅くなってしまいますが。」
確かに。
皇族の護衛とは言え、帯剣をしてはいけない場所もある。
例えば神殿にある聖域や他国の皇族のプライベートルーム等は、皇族も皇族を護る騎士も帯剣する事は相手を信頼していない証となってしまう為、外交の都合上帯剣は出来ない。
もし、帯剣していない時に襲われてしまったらと考えると、亜空間に収納出来るヴァレリーは非常に有用だ。
「荷物持ちとしてもクリスタ様のお役に立てると思いますよ。私の魔力だと、教室の半分位の大きさの亜空間なら3日間程度維持出来ます。大きさを小さくすれば維持出来る日数も伸びますので、クリスタ様のお好きなようにお使い下さい。」
クリスタの手にあったりんごを魔法で収納したヴァレリー。
ヴァレリーが有能な騎士だと言う事は知っていたつもりだが、ここまでだったとは。
こんなにも優れた騎士をクリスタに縛り付けておいて良いのかと思ってしまうが。
「そろそろガゼボですね。クリスタ様、御手を……。足元にお気を付けて階段をお上がり下さい。」
ヴァレリーの大きな手がクリスタに差し出され、クリスタもその手に手を重ねた。
「ラッキースケベは大歓迎ですけどね。」
「!!」
カーラには聞こえない声でこっそりとそんな事を言うヴァレリーに、クリスタは何も言い返す事が出来ずに悔しそうに睨むだけ。
一段一段を気を付けて上がるクリスタを、ヴァレリーは笑いを堪えながらエスコートしている。
「あら?先客がいましてよ?」
カーラの声にガボゼを見ると、クリスタ達に手を振るライムの姿が見えた。
「実はライム君からクリスタ様に挨拶をしたいお方がいると仰っていました。ですので、お昼にクリスタ様をガゼボにお誘いすると伝えておいたのです。」
クリスタに挨拶をしたい人物など心当たりがない。
不思議に思ったクリスタがライムの方を見ると、ガゼボにいるのはライムだけではないように見えた。
ガゼボの柱に隠れてしまっていて誰かはまだわからないのが、誰かいる。
「ヒィィィッ!キラキラ女子も攻略対象も増えてるでありますぅ!」
クリスタ達がガゼボに到着すると、ガゼボの柱に縛られて身動きのとれないヒュー=エレボスが変な眼鏡をかけてそこにいた。




