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気が付くと周りは真っ白だった。
上も下も前も後ろも白。
「………。」
当然周りの白さに驚く詩織だが、その白さ以上に詩織の目の前にぽつんとあるこたつとこたつの上にあるゲームの機械に繋がれたテレビから目が離せないでいた。
ゲーム機と一緒に置かれたみかんがとても美味しそうだ。
「………。」
そしてそのこたつに分厚い眼鏡でジャージ姿の少女が片足だけ突っ込んでお腹を出しながら眠っている。
「………へっくしょい。」
鼻水を盛大に飛ばしてくしゃみをする少女は、どうやら寒いらしい。
とりあえずお腹に布団を掛けてあげよう。
「よいしょっと。」
こたつの外に出ていた足をこたつの中に入れ、まくり上がってお腹丸出しの服を直してこたつの布団を掛けて上げると少女はニヤリと笑った。
「アル様ハピエン、うひょ〜ん。」
「は?」
この少女は寝ぼけているのだろうか。
眠りながらぐふぐふと気色悪く笑う少女に、詩織はドン引きだ。
「えへへ………。」
幸せそうに笑う少女から離れたいが、周りは一面真っ白でこの少女から離れて真っ白な空間に身を投じるのは正直怖い。
「ぐふぅ、ヴァレリーらぶ。」
アル様、ヴァレリー。
その名に聞き覚えがあった。
「君にオレが攻略出来るかな?」
詩織の口から溢れた言葉はとある恋愛ゲームのタイトルである。
ふとこたつの上のゲームと繋がったテレビを見ると、美麗なスチルと共に表記されたNormal Endの文字。
「ハピエンじゃないじゃん。」
この『君にオレが攻略出来るかな?』通称『オレ攻め』は、ものすごくモテない男がヤケになって作った超高難易度の恋愛ゲームと言う噂だ。
でもものすごくモテない男が作ったにしては、攻略対象である男性キャラクターが魅力的で、乙女心を掴んでいる。
攻略本もなく超高難易度な所が話題に流行したが、超高難易度なため廃れるのも早かった。
詩織はスチルの美しさとストーリーが気に入っていて割とやり込んだ方だが、ハピエンを1回も見れた事がない。どの攻略対象でもだ。
ちなみにテレビに映っているスチルはアルトゥールと言う名の皇子のスチルで、先ほどの寝言のアル様とは彼の事である。
「あれ?」
本来ならこのノマエンのスチルを見れるのは一瞬だけ。すぐに暗転して『やり直し(笑)』の文字が浮かぶはずだ。
しかもこの『やり直し(笑)』の文字がハピエンではなくノマエンでがっかりしている所に地味に苛つかせ、更にバドエンだと文字すらなく┐(´д`)┌の絵文字が画面いっぱいに広がる仕様になっている。
この小馬鹿にしているような演出もこのゲームが廃れてしまった一因でもある。
『やり直し(笑)』の文字が出ない、それは『ゼロからのやり直し』。
それはものすごくモテない男のひん曲がった怨念から誕生したと言われているバグで、ノマエンのスチルのままフリーズし、再起動させると今まで獲得したスチルが全部消えて初期化されてしまうのだ。
何度も何度もやり込んだコアなファンの心をパキッと折り、そしてそのゲームをやる人はごく僅かとなった。