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「お父様!こちらにいらしたのですね!」
フェルナンド子爵に希望の国ゾーンを案内してもらっている最中に、ブロロロォっとけたたましい音を立ててバイクで乗り込んできた女性がいた。
「ジョ、ジョセフィーヌ!第1皇子殿下の前で無礼な振る舞いは止めなさい!!」
フルフェイスのヘルメットにぴったりとしたライダースーツで素敵なボディラインを惜しげもなく晒す姿に、クリスタもリカルドも驚きを隠せない。
「失礼致しました。」
バイクに乗ったままヘルメットを外して首を振ると、ヘルメットに抑えられていた栗色の髪がふわぁっと舞う。
何ていうか……ル○ン○世の峰○二子みたいだ。
「……カッコイイ。」
大人の女性の色香溢れるそのライダー姿に見惚れていると、峰不○子風の女性はクリスタにニコッと笑うとバイクから降りてリカルドの前で跪いて頭を下げた。
「我らが第1皇子殿下に忠誠と敬愛を。私はフェルナンド領当主ジョセフィーヌ=フェルナンドと申します。」
忠誠と敬愛を、とはグラノ帝国の皇族に対する礼の決まり文句だ。
「本来であれば当主である私が殿下のガイドをすべき所でしたが、不測の事態故、お許し下さい。」
「面を上げよ。大方、その不測の事態を起こしたのは我が弟のアルトゥールであろう?正直に申せ。」
いつもの軽い口調ではなく、リカルドの王族らしい威厳ある声に周囲の空気が引き締まる。
「第2皇子殿下は我が領地に昨晩より突然お越しになり、宿泊客の決まっていた最上級の客室に宿泊されました。第2皇子殿下には、希望の国ゾーンよりも激しい乗り物のあるスリルの国ゾーンにて、乗り物に乗りながら魔法具で魔獣に見立てた的を倒すと言う施設を早朝からお楽しみ頂いておりました。しかし、お連れの方々よりも成績が思わしくなく、施設の一部を焼き払ってしまわれたのです。」
遊園地のシューティングゲームの出来るアトラクションなのだろうか。
きっと皇子相手でも手を抜かない、お連れの方々の内の1人はベンヴェヌードだろう。
「愚弟がすまない。宿泊予定だった客に謝罪と、修繕費と彼らの急な滞在にかかった費用は皇室が責任を担う。」
リカルドとジョセフィーヌの口振りから、アルトゥールは約束も連絡もなく宿泊した事になる。
そして今日はこの施設の開園時間を待たずに立ち入ったらしい。
「それから、枯れたと思われた温泉が再び湧き出て来たのです。」
「何と!」
ジョセフィーヌの報告に驚いたのは、ジョセフィーヌの父親であるフェルナンド卿だ。
「まさか…本当に?ラフォレーゼ大公令嬢、貴女が神に声を届けて下さったのですね?」
フェルナンド卿はジョセフィーヌの隣に跪くと同時に、ジョセフィーヌのライダースーツのポケットからピーピーと音がなった。
「失礼します。」
ジョセフィーヌのポケットから取り出されたのは、何とポケベル。
ポケベルに送られたメッセージを見たジョセフィーヌの顔色が変わった。
「申し訳ありません。また何か問題が生じましました。私はこれで失礼します。」
ジョセフィーヌはスッと立ち上がると、ヘルメットを被り直すと綺麗にお辞儀をしてバイクに跨がり走り去って行く。
「あの乗り物、欲しいな。」
詩織の世界の記憶を持つクリスタと違い、バイクを初めて見ただろうリカルドは、ジョセフィーヌの後ろ姿を羨ましそうに見送っていた。




