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レンガ造りの屋敷の前に馬車が停まると、小柄で茶色いくるくるとくせっ毛の女性が猛烈な勢いで馬車へと突進して行く。
その姿は猪の如く、小刻みに地面が揺れているような錯覚さえ覚える。
「んまぁまぁまぁ!待っていたのよ!早く出ていらして!!!」
「お久し振りですね、ガドリン夫人。」
ドアを開けようとする御者を跳ね飛ばした女性…ガドリン夫人に声をかけたのは、自らドアを開いた父だった。
「あらあらあらぁ!ブライト!、久しいわね。でも、ごめんなさいね。今日のお目当ては貴方じゃないのよぉ。」
馬車の中へと侵入しようとするガドリン夫人を体を張って防いでいる父ブライトは、にこやかな表情を浮かべているがかなり必死でガドリン夫人を制止しているようだ。
「ガドリン夫人。家族である私達よりも先に出迎えるなんて貴婦人のする事ではありませんよ?」
「申し訳ありません、ラフォレーゼ夫人それにデリク様。つい、興奮してしまいましたわ。」
白金の髪をきっちり結い上げ、眼鏡の奥から非難の目線をガドリン夫人に投げ付けるのはクリスタ達の祖母レーヌ=ラフォレーゼで、ガドリン夫人の猛攻が激しかったのか疲れている。
「私とレーヌも再会を楽しみにしているのだ。少し遠慮してはもらえないだろうか?」
こちらも疲労が隠せない様子の祖父のデリク=ラフォレーゼ。
銀の髪と碧い瞳は祖父から受け継いだ因子だ。
「えぇ!えぇ!!遠慮させていただきますわよ。クリスタちゃんとお会いしたらね!クリスタちゃんが銀の髪だったら、ぜひお嫁にきていただきたいわぁ!本当は私がブライトのお嫁さんになりたかったのだけれども。幼い頃から貴方の周りには奥様がチョロチョロしていましたからね。」
ガドリン夫人は父よりも少々?年上に見えるが……。
「お気持ちは嬉しいのですが、私は昔からテレーゼ一筋ですので。」
父ブライトと母テレーゼは幼馴染と言う間柄。どうやら母がガドリン夫人から父を守っていたらしい。
「それよりもクリスタちゃんに会わせていただきたいですわぁ!」
「母上、落ち着きましょう。」
フンガフンガと鼻息の荒いガドリン夫人をスッと下がらせたガドリン夫人と一緒にやってきた2人の息子の兄の方。マシューと同じ位の年齢に見える彼は、馬車に向かって手を伸ばし、柔和そうに見える笑みを浮かべた。
「クリスタ嬢……私はガドリン領の領主アドリアーノ=ガドリン伯爵の嫡男、ブルーノ=ガドリンと申します。どうか御手を。エスコートする栄誉を私にいただけますか?」
その伸ばされた手にそっと手を重ね、膝下のスカートに白いシャツにストールを身に着けた少女が馬車から降りてくる。
長い馬車に揺られた疲れか、動きはたどたどしいが、その青い瞳を細めて微笑む顔はとても美しかった。