はじめての買い物なのじゃ!
「私は一郎を学校に行かせるためにこの世界に来たはずじゃ。なのに何故、買い物に行かねばならぬのじゃ」
あなたが勝手に飲み食いしたからだ。
「まあ私にも落ち度はあるのじゃから、潔く買い物をするかの」
ブツブツと文句を言いながらスーパーへやって来た麗華は一郎の母が書いたメモを読みながら、品物をかごの中へ入れていく。漢字やひらがななどは彼女が元いた世界と同じのため、その点は苦労なく適応できた。ただし、問題が一つだけあった。レジに並び、自分の番がくる。
次々にバーコードを機械で押されていく。
「お会計は五千円になります」
「うむ。結構食べてしまったからの。これくらいかかるのは当然じゃろうな」
納得しつつ、制服のポケットに手を入れ、財布を取り出し開けてみると。
「む?」
ニコッと店員に微笑み首を傾げる。財布を下に向けるが、金は出てこない。
そう。彼女は一円も金を持っていなかったのだ。
「うおおおおおお! 嘘じゃ、嘘と言ってくれぬか店員殿!」
目の前の辛い現実が受け入れられず、店員の肩を揺さぶり泣く少女。
だが、そんなことをしても現実は変わらない。
一瞬だけ目を閉じた麗華はクワッと目を見開き。
「店員殿、ちょっと待っていてはくれぬかの。私はいますぐ質屋に行ってくるのじゃ!」
猛ダッシュで店を出てから五分後。がま口に金を入れて麗華が帰ってきた。
「金を作ってきたのじゃ。全部とまではいかぬが、これで少しは物が購入できるじゃろ?」
彼女が取り出した金額は五百円。
「トホホ。我ながら情けないのじゃが、これで勘弁してほしいのじゃ!」
「卵と人参だけになりますが、よろしいですか」
「……」