生か調理か、なのじゃ!
意気揚々と部屋を出た麗華だが、家の者に見つかっては厄介なことになると考え、抜き足差し足忍び足で階段を降り、食卓へと向かう。テーブルの上には何も無い。ならばと冷蔵庫を開けると中には大量の食べ物が。ごくりと生唾を飲み込む。野菜室に入っているりんごでアップルパイでも作って食べようか。いやいや、料理はまずい。火を使う音で自分の存在がバレるのは避けたい。
そこで彼女は冷蔵庫の食料を生のまま食べることにした。調理時間が無ければ味はともかくとして飢えは満たせると思ったのだ。生卵を手に取ると、額にぶつけヒビを入れる。口を開け、片手で割って出てきた身を飲み込む。
「うむ。卵の味がするのじゃ」
当たり前である。
その後も彼女は卵を六つ、人参やセロリ、キュウリなどを生のままボリボリと頬張る。
肉を見つけ、血の滴る生肉に食らいつく。
ガツガツムシャムシャ。
清楚な外見からは想像もできないほど野蛮な食べ方であるが、麗華自身は自分がどのように食べているかなどは問題ではなかった。
テレビでミステリードラマを視聴していた一郎の母は喉の渇きを覚え、飲み物を取ろうと冷蔵庫へと向かう。そこで母は見てしまった。無断で人の冷蔵庫をあさり、食料をまるでリスのように口一杯に頬張っている少女の姿を。
少女は気配に気づき、顔を真横に向ける。互いの視線が合い、そして。
「きゃあああああああああああああ!」
当然の結果と言えよう。一郎の母の絶叫が木霊した。