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他人になるのは大変なのじゃ

黒髪に黒い瞳、どこにでもいそうな平凡な顔をした一郎少年。

だが、今の中身は伊集院麗華というアニメの世界からやってきた侵略者のものなのだ。


「失礼な! 私は生徒会長の伊集院麗華じゃ!」


腕を組んでプリプリしていた彼女だったが、時計を見て慌てだす。


「うむ、もう7時50分ではないか。急がねば間に合わないのじゃ」


急スピードで制服に着替え、教科書の入った鞄を背負って部屋を出る。

階段を下りたところで、一郎の母に出会った。


「あら、一郎。あなたが学校に行くなんて、今日は雨が降りそうね」

「そうじゃろうそうじゃろう」

「喋り方が麗華ちゃんみたいになっているけど、影響されたかしら?」


思わぬ指摘に麗華は心臓が高鳴った。危ない危ない。ここで感づかれては計画が水の泡じゃ。


「ううん、そうでもないよ。じゃあ、行ってくるね」

「いってらっしゃい」


玄関から外に出て、数歩歩いた麗華は盛大に嘆息した。


「危うく私の正体が見抜かれるところじゃった。じゃが、もうミスはしないのじゃ!」


天高く拳を突き上げ、鼻歌を歌いながらスキップで歩き出す。

その姿はどこから見ても滑稽そのものだが、彼女はすっかり忘れていた。

自分が今、一郎であるということを。


元気よく登校し、クラスの皆に挨拶をする。


「皆の者、おはようなのじゃ!」


するとクラスメイト達が少しぽかんとした顔をした。

麗華は方眉を上げた。この反応はどうしたというのだろう。


「私じゃ。なぜ、みんな挨拶を返してくれんのじゃ」

「あ、うん。おはよう」

「これでいいのじゃ」


腰に手をあて、うんうんと頷く麗華だったが、クラスメイトの男子が思わぬことを口にした。


「お前のクラス、隣だけど」

「む、そうだったのじゃな。これは失礼してしまったのじゃ」


自分の頭を叩き、ペロっと可愛く舌を出してそそくさと退散するが、普段の姿ならともかくとして今の姿でそれをやっても1ミリたりとも可愛くはなかった。

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