手段を選んでいる場合ではないのじゃ!
「おとなしく従わなければこやつの命は無い!」
「卑怯な……」
男はデートの帰り道、夕飯の買い物ということで彼女と一緒にスーパーへ行った。
今夜の夕食はカレーライス。日本人の大好物の定番メニューである。それらの材料を一通りかごに入れ、カレールーのコーナーに向かう途中、彼女がこんなことを口にした。
「今日はたまには違うカレーが食べたいと思わない?」
「いいね」
その一言が悲劇に繋がった。同意した瞬間、隣にいたはずの彼女が消えていた。
どこにいったのかと見回すと、彼女は制服姿の少女に人質にとられていた。
制服の上からエプロンを着たコーナー担当のバイトと思わしき少女は彼女の喉元にクナイの刃を突きつけている。
「な、何だ。いたずから何かか」
「悪戯などではない! 私は本気じゃ!」
「君、頭、大丈夫?」
「私は正気じゃ。あなたに何の怨みにも無いが、先ほどの話を小耳にはさんだ以上、見逃すわけにはいかぬのじゃ」
「……そのクナイって玩具でしょ。大人をからかっちゃいけないよ。というか僕の彼女を解放して」
「それが望みならば私のチーズを買い物かごに入れるのじゃ! そして今夜はチーズカレーにするのじゃあああああああ!」
「僕はポークカレーがいいなと思っていたのに」
そして話は冒頭に戻る。
「おとなしく従わなければこやつの命は無い!」
「卑怯な……」
女子高校生らしからぬ殆ど悪役の振る舞いに唇を噛み締めつつも、男性は遂に根負けし大人しくチーズをかごに入れた。
「よし! それでいいのじゃ!」
満足した麗華は約束通り男の彼女を解放。
「これは買ってくれたお礼じゃ」
麗華は男の頬にちゅっと軽くキスをする。
美少女にキスをされて嫌な男はいない。彼も例外なく鼻の下を伸ばす。
「何、いい気になっているのよ!」
キレた彼女に腕をつままれ、男はその場を去っていく。
それから数秒後に麗華はガッツポーズで。
「はじめて売れたのじゃ。これぞ伊集院流の実力じゃ! よし、この調子でバンバン売りまくるのじゃーー!!」
調子に乗った麗華の暴走は、止められない。