093 艦隊戦10
SIDE:キルト=ルナトーク=ザール艦隊 クランド他
俺は今、エルシークの艦橋に立ち敵艦隊の接近を待ち伏せている。
僚艦のルナワルド、ザーラシア、ラーケン、レオパルドも一緒だ。
位置はズイオウ山を迂回しリーンワース王国王都に至る敵艦隊のコースから、陸上戦艦の魔導砲の最大射程距離である20km離れた場所だ。
その場所はズイオウ山山頂の長距離魔導砲の有効射程内だ。
ズイオウ山の山頂レーダー基地にはティアンナがいてレーダー情報の送信と長距離魔導砲による迎撃の任務を担ってくれている。
1時間前、俺は各艦の艦長をエルシークに呼んで作戦説明をした。
「みんなわざわ徒歩で集まってくれてえありがとう。
今後は移動手段をどうにかしないとならないと痛感したよ。
ワイバーンを常時艦に乗せるしかないかと思っている。
では、これからの作戦の説明をする」
俺の言葉にザーラシア艦長のミーナ、ルナワルド艦長ウェイデン伯爵、ラーケン艦長アルタン、レオパルド艦長ムンフが頷く。
「みんなにこうやって直接来てもらったのは、どうやら北の帝国には魔導通信の通信波を傍受しその位置を把握する能力があると思われるからだ」
そうなのだ。今回やって来た大艦隊はなぜかズイオウ租借地を目指して来た。
ズイオウ租借地が狙われる理由を考えたときに、第13ドックと魔導通信でやりとりをしたからとしか思えなかったのだ。
北の帝国は第13ドックのビーコンにも反応して遥々ガルムドで調査しにやって来た。
北の帝国の陸上戦艦が魔導通信を使うところは観測されていない。
しかし、魔導通信機が生きているなら、三角測量で発信源の位置を把握するぐらいのことはやってのけるはずなのだ。
「今回の作戦は敵にこちらの位置を知られたくない。
なので魔導通信封鎖という措置をとらせてもらった」
「了解したました。では、各艦の通信はどのようにしますか?」
ウェイデン伯爵がみんなを代表して問う。
そうなのだ。魔導通信を使わずに情報をやりとりする方法、それを決めなければならない。
「山頂レーダー基地にはティアンナに詰めてもらっている。
その山頂レーダー基地では敵艦隊の位置がパッシブレーダーによって今も把握されている。
こちらが襲撃位置につき、敵艦隊が丁度良いところを通過するタイミングで魔導通信を送ってもらう」
つまり作戦スケジュールを山頂レーダー基地に丸投げして管理してもらうのだ。
タイミングは全て山頂レーダー基地がとることになる。
俺たちはその指示に従って作戦を遂行すれば良いのだ。
「そのタイミングでエルシーク、ルナワルド、ザーラシア、ラーケン、レオパルドの5隻は高度を30mまで上げろ。
高度がそれだけ上がれば、こちらの魔導砲の最大射程距離が22kmまで上がる。
つまり敵艦隊が射程距離に入っているということだ。
各艦は山頂レーダー基地の指示に従い、目標を魔導砲で撃つ。
それぞれ最適な艦を指示してもらえるから目標が重なるということはない。
我々は1発だけ撃ったら高度を下げズイオウ山に向かって後退、敵が誘われて接近あるいは高度を上げたら、山頂レーダー基地から長距離魔導砲が狙撃する。
以上が今回の作戦だ。何か質問は?」
これにより北の帝国の艦隊が撤退に至るかもしれない。
そうなればこちらの勝ちだ。
何も敵艦隊の殲滅だけが戦争ではない。
「ないな。ではこれを敵の侵攻コースに添って3回繰り返す。
最後には敵艦隊13隻全てを撃破または撤退に追い込めばこちらの勝ちだ。
各員の奮起を期待する。以上」
「「「「了解しました」」」」
各艦の艦長のみんなが自分の艦に戻る。
「さあ、作戦開始だ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
SIDE:ガイアベザル艦隊 旗艦デルベック 艦隊司令部
「敵艦見ゆ。数5。9時の方向!」
「なんだと!」
艦隊司令ヴェルナーツが反応すると同時に僚艦を魔導砲の光のラインが襲う。
「僚艦5隻に魔導砲直撃しました!」
一気に5隻が航行不能になる。
「敵艦、地平線に消えました。ライベルク、吶喊します!」
「いかん!」
ヴェルナーツがそう言ったときには遅かった。
魔導砲で反撃しようと試みた陸上戦艦ライベルクは長距離魔導砲の餌食となった。
「バカな! 一瞬で6隻もやられただと? 6/13、約半分じゃないか!」
(どうする? ここで敵艦隊の主力5隻が出て来たとなると、この先には敵艦隊は待ち構えていないはず)
ヴェルナーツはこのまま撤退しては何の戦果もなく大被害を出し、皇帝の前で大恥をかくことになると危惧していた。
そのプライドが判断を誤らせることとなる。
「最大戦速でリーンワース王国王都を目指す。
やつらはズイオウ山に後退した。
ズイオウ山は守ってもリーンワース王国王都を守る気がないと見た。
リーンワース王国王都を落とせばこちらの目的は達せられる。
一気に蹂躙するぞ!」
ヴェルナーツの艦隊7隻はリーンワース王国王都を目指す。
ズイオウ山から離れれば長距離魔導砲の餌食になることもない。
むしろ安全が増すと思っていた。
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しばらく何事もなく進んだ。
しかし、また見張りの声が艦橋に響く。
「敵艦見ゆ! 数5! 9時の方向!」
「回避だ!3時の方向に進路をとり、敵艦と距離をとれ!」
(ばかな! 先回りされた? いや別の艦隊か!)
ヴェルナーツの頭からは敵艦隊の速度がこちらを上回っているという発想が抜けてしまっていた。
敵の戦力は膨大で5隻どころか倍の5隻×2の艦隊が遊弋していたのだと思い込んでいた。
「僚艦3隻、魔導砲直撃、被害甚大」
ヴェルナーツの指示により、今回は4隻が生き残った。
魔導砲が当たった3隻は中破なれど曳航可能な状態だった。
ここに至り、ヴェルナーツは自らの艦隊の敗北を認めた。
「撤退する。僚艦3隻を曳航、帝国に帰還する。
なお最大戦速で西へ向かえ。敵艦隊から離れるのだ」
ヴェルナーツにはもう戦う気力も戦力も残っていなかった。
クランドもそんな敵艦隊を追撃することはなかった。
その頃、同時攻撃で北の要塞に侵攻した調査兵団団長イオリの艦隊も重力加速砲の洗礼を受け陸上戦艦4隻を失い撤退していた。
なお、陽動作戦に従事していた陸上戦艦ダーボンは味方の撤退を知らぬまま航行し続け、後にクランドの艦隊に囲まれて拿捕されることとなった。
ここに延べ20隻(加えて中破3)の陸上戦艦を失ったガイアベザル帝国はリーンワース王国侵攻を断念することとなった。
彼らにとって陸上戦艦は遺跡の発掘品であり補充の効かないものだったからだ。
皇帝ロウガ二世は報告を受けその被害の大きさに手に持っていた王錫を落としたという。




