084 艦隊戦1
ルドヴェガース要塞では、新たに搬入された蒸気砲の設置が急がれていた。
これは敵の飽和攻撃対策で初撃の手数を増やすためのものだ。
数には数で対抗する。それが目的だった。
帝都に持っていかれた時は予定外に蒸気砲を作らされて頭に来たが、今ではその分があって良かったとさえ思う。
俺は土魔法で結構な数のトーチカを作った。
北の要塞では蒸気砲が城壁に露天設置されていた。
これも飽和攻撃に脆かった理由だった。
敵の火薬砲は山なりの弾道軌道で着弾する。
つまり蒸気砲が固い屋根で覆われていれば破損しにくくなる。
簡易型蒸気砲の弾薬装填は人力なので、人や弾薬が砲弾に晒されないというのも利点の一つだ。
いよいよ明日が敵艦隊との接敵予想日だ。
俺は第13ドックに転移するとリグルドをインベントリに収めてルドヴェガース要塞に転移で戻ってきた。
修理は上々。航行可能なうえ、側面装甲には砲架用の開閉窓も設置されていた。
砲架にはゴーレム型蒸気砲と重力加速砲を搭載した。
そして使用可能な魔導砲塔単装1基。
これで陸上戦艦4隻がルドヴェガース要塞に配備されたことになる。
この1隻が加わるのは大きい。
俺がルドヴェガース要塞の前にリグルドを出すと、その舷側に描かれたリーンワース王国の国旗に要塞の兵たちが騒めき立つ。
ついに王国が陸上戦艦を手に入れた。その雄姿に感動で涙する兵が続出した。
士気が上がるのは良いことだ。
だが、乗組員は正直リーンワース王国から出すことは出来ない。
俺がリーンワース王国の軍を信用していないこともあるが、艦隊運用の指揮権を統一したいという思いがあるからだ。
軍にリグルドを渡したら、勝手に暴走する未来が容易に想像できる。
なので今回リグルドには遠隔操作による移動砲台になってもらう。
「ワイバーン偵察隊、帰還します!」
ルドヴェガース要塞の一角で見張りによる一際大きな声があがった。
その声に誘われ上空を見ると偵察に向かっていたワイバーン騎兵が帰って来たとことだった。
俺も急遽要塞司令部に駆けつける。
偵察により敵艦隊の動向がわかったのだ。
「クランド陛下、丁度良いところに来た。
いま、ワイバーン偵察隊が戻って来たところだ。
一緒に報告を聞こう」
俺が司令部に駆けつけると、ブラハード将軍が手招きをする。
そこには小柄なワイバーン騎兵が肩で息をして蹲っていた。
しばらく待つかと思ったが、要塞司令が来たことでワイバーン騎兵は起き上がり直立不動の姿勢をとった。
「報告しろ!」
ブラハード将軍の容赦ない声が飛ぶ。
「はっ! ワイバーン偵察小隊は敵艦隊へと威力偵察を敢行いたしました。
敵艦隊は10隻、全艦ほぼ無傷で南下中。
接敵予定は今夜2時頃かと推察されます」
ワイバーン騎兵は一気に話すと力尽きたのか倒れ込んだ。
周囲の騎士がワイバーン騎兵を抱きかかえる。
「他の者はどうした?」
「敵の対空砲弾で落とされました……」
ワイバーン騎兵が悔しそうに言う。
ほう、対空砲弾があるのか。
つまり時限信管による爆散弾ということだろう。
新型砲を積んでいたガルムドを調べたが、対空専門の砲は積んでいなかった。
ただ、新型火薬砲はライフルを切った砲身で椎の実型の砲弾を撃ち出すものだった。
おそらく蒸気砲の技術が流出し、模倣されたのだろう。
北の要塞が陥落した時にゴーレム型蒸気砲が鹵獲され研究されたということか。
北の帝国の技術侮れないな。
ワイバーン騎兵の偵察報告に司令部はざわついている。
そこには二点の重要な報告があったからだ。
「敵艦隊が10隻とはな……」
「それに夜襲かよ!」
こちらの陸上戦艦はリグルドを加えて4隻、戦力差は単純計算で2.5倍だ。
しかも夜襲。夜陰に紛れて陸上戦艦が襲ってくる。
この世界の砲は目視照準だ。暗ければ照準を付け辛い。
どれだけ戦慣れした連中なのか。
拙い。ゴーレム照準に暗視機能はない。
当然簡易型も人の目が頼りだ。
これは苦戦を強いられるかもしれないな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
敵艦隊との接触予定時間の午前2時が迫る。
俺はエルシークに座乗し開戦に向け待機していた。
この世界には地球のような明るい月がない。(小さく暗いのは2つある)
夜は闇の世界だ。
暗闇対策で俺に出来たことは陸上戦艦と城壁に『サーチライト』の魔道具を設置するぐらいだった。
しかし、これは諸刃の剣だ。敵にライトが丸見えということは敵も照準が付け易くなる。
使わないに越したことはない。
こちらの艦の布陣は横陣にて舷側砲を敵に向け全艦がルドヴェガース要塞の前に並んでいる。
最大限の火力を敵に向けるためだ。
敵は移動して来るからには艦首をこちらに向けて来る。
つまり、舷側砲を使うためには目の前でターンしてこちらに舷側を向ける必要がある。
そこが隙になる。
俺たちはタイミングを計って一斉に敵艦隊を攻撃しようと待ち構えていた。
「魔導レーダーに反応。未確認艦隊、数10接近します」
システムコンソールからソプラノの声が聞こえる。
陸上戦艦のシステム音声は、なぜか艦ごとに個性がある。
エルシークは若い女性の声だ。
「敵艦隊と認定。ゴーレム照準は魔導レーダーに同調可能か?」
「未確認艦隊を敵艦隊と認定します。
レーダー照準はゴーレムとの通信タイムラグのため敵艦が止まっていなければ不可能でしょう。
敵艦の動く先を予測するソフトが必要です」
俺のアイデアはあっさり否定された。
「敵艦隊が射程に入ったらターンするはずだ。
その時に一斉射撃だ」
「了解しました」
艦のシステムはゴーレムと通信でつながっており、艦のシステムはゴーレムをコントロールできる。
俺が製造しているゴーレムも基本ソフトは同じなので、その機能を持っていた。
なので魔導レーダーとの同調を試みたり、ゴーレムへの司令をシステムに任せるという芸当が出来るのだ。
「敵艦隊、加速します。
ターン予定地点通過、なおも加速しています」
「なんだと!」
俺たちはこの世界のセオリーに毒されていたらしい。
北の帝国の艦隊は、俺たちの常識を覆す攻撃に出て来た。




