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083 戦闘準備

 ガルムドを伴いルナワルドはズイオウ租借地に帰還した。

ザールの民は新たな陸上戦艦の奪取に大いに喜び、ガルムドをザーラシアと改名した。

”ザールの翼”という意味だそうだ。


 俺はクラリスを迎えにリーンワース王国へと転移して来た。

リーンワース王国に設置した転移陣には王城警備の騎士が詰めている。

俺が転移して来たのを確認すると直ぐに伝令の兵が走る。

ここは他国の王城内なので、俺は案内されるまでその場でじっと待つ。

まあ王城の城郭内へ直結している転移陣なんて悪用されたら最悪だからね。

当然警備は厳しくなる。

なので案内されるまで動かないのがマナーだ。


「クランド陛下、丁度良いところに来た。

直ぐに我が王と会ってもらいたい」


 慌てた様子で俺を迎えに来た近衛騎士団長――ブライアスという名だそうだ――が俺を強引に引きずっていく。

他国の王、しかも国王の娘婿に対しては不敬ととられかねない行為だが、緊急事態らしく引きずられるに任せた。

まあ俺は今も一般人のメンタルしか持ち合わせていないから、気にならないだけなんだけどね。


「クランド陛下をお連れしました!」


 ブライアスが王国議事室の前で大声を張り上げ、そのまま有無を言わさず室内に俺を連れ込んだ。


「おう、婿殿、良い所に来た」


「これは義父上(ちちうえ)、ご機嫌……よろしくないようですな」


 円卓の奥の席――所謂誕生日席――に座る義父上ことリーンワース王オドリアスの顔色が良くない。

何か良からぬことが起きたのは明白だった。

円卓にはリーンクロス公爵(おおおじどの)や国の重鎮たち、各騎士団の団長クラスもいる。

俺は厄介毎に巻き込まれることを確信した。


「今朝がた早ワイバーン便がボルダルからやって来た。

北の要塞が抜かれた」


 北の要塞はガイアベザル帝国とリーンワース王国の国境の要塞だ。

一度は蒸気砲との相性が悪く陸上戦艦リグルドによって陥落させられたが、後に蒸気砲を改良することでルドヴェガース要塞にてリグルドを撃墜、その後奪還され改良型蒸気砲で守られていたはずだ。


「改良型蒸気砲でも守れなかったのですか?」


「うむ、ボルダルからの報告では複数の陸上戦艦による飽和攻撃を受けたそうだ」


 飽和攻撃とは、こちらが対処出来る上限を遥かに超えた攻撃を加えることにより、劣る兵器でも高性能兵器を圧倒することが出来るという攻撃方法のことだ。


「ああ、物量で来ましたか」


 蒸気砲の欠点は速射力だ。

いくらゴーレムがやるとはいえ次弾装填に多少の時間がかかる。

そこを物量で攻められたらさすがの蒸気砲でも次弾を撃つ前に破壊されてしまう。


「たしか人力装填の簡易型も多数配備してあったのですよね……」


「うむ」


 安い廉価版にしたことが更に装填速度を遅くさせ攻撃力低下につながったか。

しかし、そこまでの物量、北の帝国はどれだけの数の陸上戦艦を揃えて来たのか。


「敵の陸上戦艦は何隻ぐらいで攻撃してきたかはわからないのですか?」


「北の要塞陥落の一報から次報は無い。おそらくボルダルは既に占領下にある。

敵の数など、情報は潤沢ではない」


 数や戦力はわからないと。

となると次に狙われるのはルドヴェガース要塞か。


「早ワイバーン便だと、侵攻を受けたのは2日前ぐらいになりますか?」


「そうなるの」


 補給に1日使ったとして、北の帝国の陸上戦艦が時速40kmほど出せるなら、明後日にはルドヴェガース要塞で戦端が開かれる感じか。

ルドヴェガース要塞が抜かれたら、リーンワース王国の王都より先にズイオウ租借地が戦場になってしまう。

ズイオウ租借地はルドヴェガースと王都との中間に位置するからね。

うーん。どうもこの位置、俺を王都の盾にするために決められたっぽいんだよな。

まあ俺が農園艦を着陸させたのが発端なんだけどね。

今はリーンワース王国とは縁戚だし友好関係を保っている。

国を守るため全力を尽くしますよ。

それにしてもぜんぜん戦力が足りない。


「そうだ。今のうちにリグルドを回収して来よう!」


 多少修理すれば魔導砲が使えなくても多少は戦力となってくれるだろう。

固定砲と移動砲では敵の砲に狙われた時の損耗率が違う。

いや待て。インベントリを使えばルナワルドとザーラシアを収納してルドヴェガース要塞まで転移で運べるじゃないか!

第13ドックのエルシークも運んで来れる。

リグルドの修理も第13ドックで出来る。

やばい。転移で乗り組み員も別に運べるよな。

これって今までの用兵術の定石を覆すことになるんじゃ?


 ズイオウ租借地を戦場にしないためにも決戦はルドヴェガース要塞でするべきだろう。


「義父上、ルドヴェガース要塞にて防衛戦を行います。

こちらの戦力増強のためリグルドを私にお預けください。

それ以外に陸上戦艦3隻を投入し迎撃します」


「おお、やってくれるか!」


 リーンワース王が涙を流して抱き着いて来る。

王国最大の危機であると自覚していたのだろう。


「ルドヴェガース要塞の次はズイオウ租借地が狙われます。

やるしかありません」


 猶予は丸2日ないぐらいか。

忙しくなるぞ。



◇  ◇  ◇  ◇  ◆



「まず王都の蒸気砲をルドヴェガース要塞に転移で運びます。

運用するための兵も準備してください」


 俺の指示に第3騎士団長が答える。


「既に派遣軍を編成中だった。

そいつらを運んでくれ」


 さすがにリーンワース王国も黙って見ているわけではなかった。

既に派遣軍を編成し出撃準備を整えているところだった。

リーンワース王国の王都に配備されていた蒸気砲の一部も増援として運び込むつもりだったらしい。

ただし、その派遣軍がルドヴェガース要塞に到着するのは馬車を使っても1週間以上後のことだった。

それが転移を使えば一瞬で兵を送ることが出来る。

まあ俺の魔力が消費されるのだが、魔導の極さんのおかげで使う側から回復するので、ほぼ無限に魔法が使えてしまうので気にならない。

彼らを転移で増援物資と共にルドヴェガース要塞に運んだ。



 転移先はルドヴェガース要塞転移陣。

まだルドヴェガース要塞は敵の攻撃を受けていなかった。

ブラハード将軍が慌ててやって来る。


「ブラハード将軍、増援を運んで来た。状況は?」


「おお、クランド陛下。助かります」


 ブラハード将軍は挨拶もそこそこに状況を説明する。


「北の帝国の陸上戦艦は複数、北の要塞、ボルダルの街は陥落。

明後日にはここも戦場になるだろう」


 敵の侵攻速度は見込み通りか。

それにしても敵の陸上戦艦の数が不明なのは嫌だな。


「時間がないな。リグルドを修理して使う。

回収するがかまわないな?

リーンワース王からは許可を得ている」


「構いません。リグルドが使えるのですな?」


「間に合えばな」


 ブラハード将軍が嬉しそうだ。

陸上戦艦の所持はこの世界ではステータスになるのだろうか?



◇  ◇  ◇  ◆  ◇



 俺はリグルドを回収、その足で第13ドックに転移した。

執事のセバスチャンが慌てて桟橋に現れる。


「クランド様、いかがなされましたか?」


「セバスチャン、これも修理してくれ。

1日半で稼働状態に仕上げて欲しい。

完璧な修理より動くことが重要だ」


 インベントリから出したリグルドをドックに入れ修理とメンテナンスを頼む。

ただし時間が無いので1日半で実現できる最低限の戦力化に留めることにした。


 セバスチャンが目の前の空間に魔法で巨大スクリーンを表示する。

そこにはリグルドの図面が表示され故障個所に赤いマーキングがなされていく。


「はい。最大の損傷は重力制御機関と魔導砲塔ですな。

幸い建造中の戦闘艦から重力制御期間や魔導砲塔が流用出来るので2時間ほどで交換出来るでしょう。

他は、例の穴ですが、これも開閉式にいたしましょう」


「間に合うのか?」


「はい。問題は墜落による艦体の歪みですが、時間がかかりますので、これはこのままでもいいでしょう。

航行に支障はないかと思います。後できちんと修理いたしましょう。

その他メンテナンス含めて1日半でやってみせます」


「あ、こいつ(リグルド)には、この国旗を描いてくれ」


 セバスチャンにリーンワース王国の国旗を渡す。

一応リグルドはリーンワース王国のものだ。

修理費はいくら取ろうか?

あ、戦争が終わったら魔導砲は外してしまおう。

危なくてしょうがない。


「はい。畏まりました」


「頼む」


 言うが早いかゴレームがわらわらとリグルドに取りついた。

これでリグルドも間に合うだろう。


「ああ、そうだ。エルシークも貸してくれ」


「はい。出撃準備いたします」


「いや、インベントリに収納して持っていく」


 よし、戦力が増えるのは助かる。



◇  ◇  ◇  ◆  ◆



 俺はそのままズイオウ租借地に転移で戻った。


「全幹部召集!」


 俺はズイオウ租借地の運営に関わる全幹部を集めて事の次第を説明した。


「なんということなの。北の帝国がまた……」


「ここも戦場になるのね……」


「いや、そうならないようにリーンワース王国と共にルドヴェガース要塞で戦うのだろう」


 喧々諤々、様々な意見が飛び交う。

こういった時、王制は楽でいい。

俺の意見が絶対だからな。


「ルナワルドとザーラシアをルドヴェガース要塞に運ぶ。

その運航要員を選抜し連れて行く。

まずルナワルドの艦長はウェイデン伯爵。

戦略に関してはヴェイデン伯爵の右に出る者はいないだろう。

戦局を読んで指示を出してもらいたい。

艦橋要員の部下の選抜は任せる。

続いてザーラシアの艦長はミーナ。

弓の腕は誰もが認めるところだろう。

その腕で艦砲を扱え。

部下は好きな傭兵を連れていけ」


 俺は有無を言わさず命令した。

二人には管理者権限を一部譲渡することになる。

それによって音声での操艦が可能になる。

いまはそれで凌いでもらうしかない。



◇  ◇  ◆  ◇  ◇



 ルナワルドとザーラシアをインベントリに収納してルドヴェガース要塞に転移した。

ヴェイデン伯爵と部下の騎士団、ミーナとザール用兵団を、この2隻の運用をしてもらうべく一緒に連れてきた。

ティアと指揮下の特殊部隊もエルシークの運用要員だ。

エルシークには俺も座乗する。


「状況は?」


「敵の艦影まだ見えません」


 ルドヴェガース要塞の兵が答える。

俺はルドヴェガース要塞の外に出ると陸上戦艦3隻をインベントリから出した。

ルナワルド、ザーラシア、エルシークの勇姿に要塞の兵がため息をつく。

舷側にはキルト=ルナトーク=ザールの国旗が描かれている。


「この艦へは誤射しないでくれよ?」


 俺の冗談に要塞の兵から笑みがこぼれた。

ブラハード将軍だけは顔が引きつっていたが。

部下がやらかしたことは忘れていないようだ。


 敵の侵攻が予想通りなら、ここにリグルドが加わる。

陸上戦艦4隻での迎撃だ。

そうそう負けはしないだろう。


「はあ。やっと一息ついたな」


 余裕が出来た俺はあることを忘れていたことに気付く。


「やばい。クラリスをリーンワースの王城に置いて来てしまった!」


 まあ、戦場から遠いところに居てもらうのも安全のためには有りだな。

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