008 遺跡探索
翌日。朝から家畜の世話。放牧はプチが牧羊犬モードで先導してくれる。
チワワのままだと羊に舐められるそうだ。
羊は大きさで犬を見るらしい。
俺は水桶と牛舎内の掃除をする。
糞を自動拾得でインベントリへ。これは諸々の廃棄物と一緒にして肥料化へ回す。
あとは生活魔法の『クリーン』が威力を発揮する。魔法のおかげで重労働から解放される。
生活魔法『ウォーター』で水桶に飲み水を満たして終了。
水桶は丸太を半分にして中をくり貫いたあれだ。
今後この作業をゴーレムにさせるわけだが、魔法、使えるんだろうか?
家畜の餌は放牧地の牧草が良い感じで生えている。
これは牧草専用魔法『牧草ループ』のおかげだ。
毎日広大な放牧地に『促成栽培』をかけるのは大変だと思っていたら魔導の極さんが良い仕事をした。
どうやらイメージ通りの魔法創造が出来るらしい。
前日に食べたところも、翌日には程よく成長して無限ループが成立している。
成長しすぎて藪になるということもないので便利だ。
あれ、これゴーレムいらない?
いや、今後は遺跡探索で何日も戻れないこともあるだろう。
生き物の世話は毎日必須だ。
家畜の世話の次は畑の管理。ついでに塀の上を歩いて破壊されていないかをチェック。
畑の作物を自動拾得で収穫し、『農地耕作』『農地回復』『種召喚』『広域種蒔』『促成栽培』をかける。
今回は小麦を収穫したので、次は大豆にしてみた。小麦→大豆→米→大麦→トウモロコシ→小麦とループさせようかと思う。
1日で収穫できるのは大きい。もし不足するものがあったらその日に植えて翌日収穫が可能だ。
この作業だけは俺でなくては出来ないので、遺跡探索中は畑を放置せざるをえない。
魔導の極さんで自動化できそうだが、そこまでするとスローライフの楽しみも無くなってしまうので自重。
塀の上から果樹の採取と『ハイパー肥料』かけをしていると、塀の外の空堀に落ちている巨大イノシシを発見した。
俺の知識では魔物なのか獣なのかもわからない。
あ、鑑定魔法使えるかな?
大賢者のJOBを持っている俺だが、全てを知っているはずなのに、それを全て把握しているわけではない。
だから、このように必要だという認識をしない限り、その知識を手にすることが出来ない。
何かしたいなとか、何か出来ると便利だなとか、きっかけが無いと知識が浮かんで来ないのだ。
だから俺の常識の範囲外のことは意識出来ないので情報も得られないのだ。
なので大賢者とは名ばかりでイノシシの名前すら浮かばないわけだ。
『鑑定』をかけるとイノシシの名前がわかった。
『ワイルドボア。獣。肉が美味しい。瀕死』
レベルやスキルなど必要と認識していないものは浮かばない。
考えてみてほしい。
全てを知っている大賢者の知識が延々と説明を始めたらどうなるか。
逆に必要な知識が埋もれてめんどくさいことになる。
ワイルドボアは空堀に落ちて瀕死状態のようだ。
とどめを刺して新鮮なお肉にしよう。
そこで俺は自重する。火系統の魔法ではワイルドボアを消し炭にしてしまう。
一番無難なのはウインドカッター単発だろう。
ウインドカッターはプチが使ったのを見ているのでイメージしやすい。
だが、おそらく単発を意識しないとウインドカッターの嵐でボロボロになる。
単発なら威力がありすぎてもワイルドボアが半分に分断されるだけだろう。
『ウインドカッター』
ワイルドボアの首が飛んだ。
自動拾得でそのままインベントリに収納。自動解体でお肉になった。
朝ごはんはワイルドボアのソテーと野菜サラダにパンだ。
小麦粉でパンが出来た。収納の極さんが焼いてくれた。
インベントリ内でなんでも出来る。
チーズがあれば石窯焼きピザが出てきたことだろう。
塩とマヨネーズも使えるので充実した朝食になった。
そしてついにカレー粉が手に入った。
米、小麦粉、肉、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、カレーを作る材料は全てそろった。
あ、プチに玉ねぎは食べさせないよ。
塩分も過多にしないように気を使っているし、カレーもだめ。
プチにはプチ専用でごはんを用意している。
異世界生活でドッグフードがここまで完全食だったと気付くとは思わなかった。
栄養のバランスが難しい。
実は牛乳がまだ手に入っていない。
乳牛を飼ったから即牛乳が得られるというわけではないのだ。
乳牛が乳を出すのは子供を産み育てるためだ。
つまり妊娠、出産を経て初めて牛乳が出る。
人間はそれのおこぼれをいただいているというわけだ。
うちの牧場のジャージー牛はまだ妊娠していない。
つまり牛乳が出ないのだ。
こればっかりは魔法でどうこうできるものではない。
(作者注:主人公は牛乳でもカレールーでも何でも召喚出来ることに気付いていません)
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
午後から日帰りで遺跡探索に出る。
不測の事態で日帰り出来なかった場合を想定して家畜は自由に出入り出来るようにしておく。
もしものことがあっても水の心配以外は牧草もあるしなんとかなるだろう。
探索準備でロープ、土、食料はインベントリに確保した。
「プチ、行くよ」
「わん」
いよいよ遺跡探索に出る。目標は備品倉庫。
といっても今日は斜めの床を降りていくための階段を土魔法で作るという地道な作業をするだけだ。
『ライト』の魔法を先行させ、体の周りにも纏わせると、モバイル端末の指示に従い斜めになった床を下る。
建物的には横倒しになっている隣の部屋に行く感じだ。
扉を開けると廊下だった。隣が部屋だった場合はその広さが罠になる。
そのまま落下すると落とし穴の底と同じになるのだ。
俺は土魔法で階段が作れるから登れるが、登る手段が何もなかったらそこで餓死することになるだろう。
つまり初日に落下した穴は生死を分ける危険な罠だったわけだ。
生きていてよかった。
廊下の先に下の階へと降りる階段が見える。
階段ホールになっていてかなりの深さまで降りていける。
建物の非常階段のように階ごとに扉がある。
互い違いに下へと行く階段の半分は頭の上にある。
土魔法で階段を作りながら登りまた降りていく。
ダンジョンと違って階段探しをする必要がないのは有難い。
モバイル端末の指示によるとかなりの階数を降りる必要があるようだ。
どうやら俺が塒にしている部屋は塔の最上階らしい。
この様子だと、俺が初日に落ちた穴はエレベーターシャフトだったのかもしれない。
一気に底まで行った感じだったからね。
塔らしきものを降り切ると、左右に廊下が広がっていた。
メイン回廊だろうか。建物が傾いているせいで上下に扉が見える。
これは魔導機関を直して早く水平を取った方が良いかもしれない。
上になっている部屋なんて入るのがめんどくさい。梯子がいるだろう。
案内に従い廊下を進むとまた階段があった。
二階ほど降りると上下に分かれた十字路に出る。
本来はただの十字路だが傾いたため上下への道になっているのだ。
ロープで体を固定し、土魔法で梯子を作りつつさらに下ることにする。
プチに梯子は無理だろうと抱きかかえようと横を見ると、プチが宙に浮いていた。
「プチ、なんだそれは?」
「れびてーしょん?」
プチが重力補法で浮いてました。
もしかして、これを使えば今まで階段を作っていたのも無駄だったということ?
俺は一気に疲れが増した。
レビテーションで宙に浮くと移動がとんでもなく楽になった。
竪穴の途中で横の廊下に入る。
しばらく進むと俺たちは行動不能になっているというゴーレムの場所についた。
下になっている部屋の底で身動きがとれないようだ。
俺は慎重に扉を開けると中を覗く。底が見えないぐらい広い。
そのままレビテーションで浮きながら底まで降りる。
そこは車庫だったらしい。
何台かの車両が底に落ちて壊れていた。
車だ。この世界が俺が神様に望んだ通りのラノベ的中世レベルの異世界ならば、車があるのは異常だ。
まあ装甲車みたいな車だけどね。
これを修理すれば町まで行って買い物が出来るかもしれない。
サクッと収納に入れる。
周囲を見廻すと明らかな戦闘車両も見える。
上部に砲塔を備えた戦車だ。
「これがラスコー級戦車だったりして。あ、鑑定すればいいのか」
『鑑定』
『ラスコー級戦車。中破』
うん。これも収納しておこう。
しばらく残骸を捜索するとゴーレムをみつけた。
落下して動けなくなっていたやつだ。収納する。
目的を達したのでレビテーションで浮くと頭上の扉から廊下に出る。
そのまま廊下を進むと備品倉庫に到着した。
「この中もぐちゃぐちゃなんだろうな」
扉を開けて中を覗くとあら不思議。
倉庫の内部は理路整然と整理されたままだった。
全ての備品が棚にそのまま乗っている。
時間停止倉庫だから止まっていて動かないのか?
いや、それなら人が中に入ったとたんに時間が動き出して落下するはず。
つまり何等かの魔法により倒れようが逆さになろうが倉庫の中はぐちゃぐちゃにならないってことだろう。
その理由や仕組みを詮索するより、今は便利だなで済ませておこう。
俺は目的の燃料石を箱ごとインベントリに収めると塒に戻ることにした。
「ご主人、ご主人。他のももっと持っていこう」
プチの言う通りだ。
何かが足りなくてまたここまで来るより、丸っとこのまま備品をインベントリに収納しておけばいいんだ。
俺はプチの賢さに感謝しモフモフしつつ、備品をインベントリに収納した。
さあ、これでゴーレムを二体確保したぞ。




