076 第13ドック
ルナワルドを1日中航行させ続けて4日目(1日は王都滞在)の朝、いよいよ第13ドックがあるという蛮族が治める未開の地にやって来た。
ここは王都の南西遥か先、西の大河を越えたさらに西の地だった。
リーンワース王国からは西の大河の対岸であるため、わざわざ統治することなく放置されていた荒れ地だ。
蛮族という敵対勢力がいるのに、川で隔てられた飛び地を統治し続けるのは人的物的両面で負担が大きいということなのだろう。
俺は毎朝の日課で農園屋敷へと転移し、アイにズイオウ租借地に何か懸案事項が発生していないか等の報告を受けていた。
まあ、何かあれば魔導通信で緊急連絡出来るのだが、そこまで行かないちょっとしたトラブルはこの朝の報告だけで済ませていた。
「以上、領地の運営は順調です。
解放奴隷も到着していませんので、ご主人様必須の仕事は発生しておりません」
アイからの問題ない旨の報告を受け、俺は早々にルナワルドに帰ることにした。
『ご主じーーん!』
突然茶色い塊が俺の胸に飛び込んで来たと思ったらプチだった。
『ご主人、ベッドいない。プチ寂しい』
ああ、そうか。いつもプチは俺の枕元で寝ていた。
それがここ3日は一緒に寝ていなかった。
『そうか、そうか。寂しかったか』
俺はプチを延々とモフモフして可愛がった。
『ご主人。嬉しい』
プチは尻尾をブンブンして喜んでいる。
俺はプチの体をワシャワシャしてやる。
『でも、プチには家畜の世話の仕事があるから、残すしかなかったんだ』
プチは俺の言葉に困り顔だ。
『プチ一緒に行く。嫌な臭いする』
嫌な臭い? いやこれは本当の臭いじゃなくて、「悪い予感がする」ってことだろうか?
『しょうがないな。一緒に行くか』
しかたない。俺はプチを連れて行くことにした。
『わーい』
プチの尻尾が一際ブンブンと振られる。
「すまない。ナラン。プチが一緒に行きたいそうだ。プチの分も家畜の世話を頼む」
「わかりました。プチちゃん、大丈夫だから行ってきなさい」
プチはナランの言葉はわからないけど、言っている雰囲気はわかるようで、喜んでいる。
『ありがとう。ナラン』
さてと、ルナワルドに戻るか。
俺はプチを抱いてルナワルドへと転移した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
「帰ったぞ。プチも一緒だ」
艦首の魔法陣から中央塔に入り、三階に上がるとティアが待っていた。
『ティアだー』
「お帰りなさいませ。プチ様もようこそいらっしゃいました」
プチを離してやると、プチはティアの周りをぐるぐる走り回る。
丸3日会わなかっただけだが、再会が殊の外嬉しいようだ。
「プチちゃん、おやつ食べる?」
『おやつ! 食べる』
プチは3文字ぐらいの単語は人語を理解出来るのだ。
さてプチの世話はティアに任せて任務に戻るか。
俺はコンソール前の椅子に座ると、進捗を確認した。
『システムコンソール、第13ドックは見つかったか?』
俺の質問にシステムコンソールからは男性声のシステム音声が流れて来る。
『誘導ビーコンを確認。第13ドックは、1時の方向直ぐ近くです』
『そうか、蛮族の地に入ってから案外近かったな』
『しかし長年の放置により入り口が確認出来ません』
ああ、長年の放置で埋まってるのかもしれないな。
どうしよう。魔法で掘るか?
そう思っていた所、システムコンソールが警報を鳴らした。
『未確認艦接近。2時の方向、距離20kmです』
未確認艦?
この世界で陸上艦と言ったら、俺のところか北の帝国のものだろう。
蛮族の文明度は低いそうなので、陸上艦など持っていないし運用も出来ないだろう。
『なんでこんな所に陸上艦が?』
『第13ドックのビーコンを受信されたのかと』
ああ、そうか。俺達を誘導するためのビーコンが、北の帝国も呼び寄せたということか。
技術体系が全く同じのガイア帝国の遺物だからな。
方向的に北の山脈の西側を迂回して来たな。
唯一の近道である渓谷はリーンワース王国が蒸気砲を装備した要塞で守っているからね。
『ビーコンが出始めたのは、俺達がニムルドの修理をしようとしたちょっと前か?』
『いえ、キルトタルからの情報によれば、もっと前ですね。
第13ドックと魔導通信でやり取りをして、受け入れ準備が整うまでは管理者様には伝えていなかったようです』
『つまり、迂回してまで来る時間が充分にあったということか』
『はい』
第13ドックの遺物を北の帝国に渡すわけにはいかない。
あそこにはキルトタルのために準備された魔導砲塔がある。
あれを北の帝国に渡してしまったら、世界が終わる。
『戦闘準備だ。第13ドックを渡すわけにはいかない』
これがプチが言っていた「嫌な臭い」だったか。
さすが神獣プチ。




