065 危険な奴隷
「キャー! 泥棒!」
平和なズイオウ租借地に悲鳴が上がった。
配給制度の所謂社会主義経済から自由経済に移行しようとしていたズイオウ租借地では、自らの才覚で商店を営む者も現れていた。
その店先の品物を複数の人物が一斉に手に取り別々の方向に逃げ出していた。
平和なズイオウ租借地では滅多に見られない集団窃盗だった。
その現場に一陣の風が吹き去った。
「ぎゃっ!」「げぼ」「ぐげ」「がっ!」
「くっ。来るなだがに!」
「ギャー」
「警備隊にゃ。現行犯にゃ。おまえらちょっと来るにゃ」
風は高速で走り抜けたミーナだった。
窃盗犯はミーナの一撃を受けて皆蹲っていた。
ミーナの部下の獣人警備員達が遅れて現れ犯人を捕縛していく。
窃盗犯たちは警備隊の詰め所に連れていかれ事情聴取を受けることとなった。
「にゃんでこんにゃ事件が?」
今までは平和だったズイオウ租借地には珍しい事件だった。
「はぁ? 配給が止まって働かにゃければにゃらにゃくにゃったせいにゃと?」
取調室で犯人たちが逆切れしていた。
働かなかったために給料がもらえず、今まで配給されていた食事が出来なくなった。
だから盗んだという論理らしい。
「働けばいいにゃ」
「働いたら負けだがに!」
にゃんだ? こいつら? 本当にザールの民にゃのかにゃ?
目の前の机には全員の身分証が並べられていた。
全員が奴隷から解放されたザール連合国の民という身分証を所持していた。
だが、ミーナには”だがに”などという方言を使う国の記憶がない。
「ちょっと痛い目を見てもらおうかにゃ?」
「何をするだがに! あーーっ!」
「話すだがに! 止めてだがにーーー!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
役人に丸投げしていた奴隷受け入れ業務に問題が発生した。
「ザール連合国の民ではない?」
「そうにゃ。本人たちはザール連合国の民だと言っているにゃ。でもザールにあんにゃ民族の国はにゃいにゃ」
ミーナによるとその連中は窃盗事件を起こし捕まったのだそうだ。
そして、よくよく調べたらザールの民ではなかったのだという。
ザール連合国は連合国家だったために、所属の違う連合国の民のことを別の国の出身者はあまり知らないのだそうだ。
確かにザールには人間国家であるザール王国や獣人の国であるガルフ国があり、その他にも5つの小国がある。
獣人の役人の所に自己申告でザール王国や他の国の出身だと言って来たら鵜呑みにしてしまっても仕方がない。
「俺の『鑑定』を使えばその正体がわかるということだな?」
「頼むにゃ」
俺はミーナと共にその窃盗団を捕まえている留置場に向かった。
ここは街はずれの洞窟内に作られた留置場だ。
真っ直ぐ伸びた洞窟の左右に部屋を掘り、鉄格子を嵌めて牢屋としていた。
「こいつらか」
その牢屋は雑居房のようだ。中には7人ほどの犯罪者が一緒に入れられているだろうか。
俺の声を聞きつけ、牢屋の中に入れられた偽ザール国民が騒ぎ出した。
「出来心だったんだがに。助けて欲しいだがに」
「許してほしいだがに」
そいつらの言葉には変な方言があった。
俺は直ぐに『鑑定』をかける。
俺の『鑑定』は、人物にかけると相手のステータスが全て見えてしまうのだ。
ガベロン 種族:亜人 所属:ガ二族 JOB:詐欺師 犯歴:詐欺 窃盗 殺人 婦女暴行
ガブス 種族:亜人 所属:ガ二族 JOB:山賊 犯歴:強盗 窃盗 殺人 婦女暴行
ガボル 種族:亜人 所属:ガ二族 JOB:盗賊 犯歴:強盗 窃盗 婦女暴行
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「こいつら全員犯罪歴があるぞ! なんでそんな奴らが紛れ込んでいたんだ!?」
「クランド、何者だったのかにゃ?」
ミーナがこいつらの正体を問う。
「こいつら人間じゃなく亜人だ。ガ二族というらしい」
「!」
俺の説明にミーナが息を呑む。
「ガ二族にゃら知っているにゃ。こいつら人よりゴブリンに近い奴らにゃ。
息を吐くように嘘をつくので有名にゃ。悪知恵が発達していて遵法意識が希薄と言われているにゃ」
「亜人なのに、外見がほとんど人間と区別がつかないな」
「その外見を利用して悪事をするのがガニ族にゃ。人の皮の被ったゴブリンと言われているにゃ」
なんてことだ。となると他に何人も潜入された可能性があるな。
「警備隊に連絡を! ”だがに”という方言のある人物を捕縛するように。
俺も『鑑定』と『探索』でガ二族特定に協力する!」
◇ ◇ ◇ ◆ ◇
「73人!」
捕まえたガ二族は73人もいた。
全員に犯罪歴があった。
警備隊があらゆる手を尽くして事情聴取したところ、受け入れ担当の1人がガニ族と人間のハーフであったことが判明した。
そいつが犯罪歴を隠し、ガニ族をザール連合国民として引き込んでいた。
一応身分証作成のために簡易鑑定の出来る魔道具を配備していたのだが、それを使う側が不正に加担していたらそんなチェックも機能するはずがない。
役人の審査が意図的ににザルにされていたから犯罪歴が有る者でもスルーされ入り込めたというわけだ。
受け入れ担当は身元を偽装し犯罪歴もなく完全にザール連合国民を装っていたそうだ。
それと、この地を去った物の中にも大量にガ二族が含まれていた。
去る者には身分証の発行と生活物資に金貨一枚を渡していた。
やられた。偽奴隷なんだからボロ儲けだ。
身分証も他人に売ることが出来る。
中には何度もループした者もいるようだ。
残った連中はただ飯が食えると居座り、後々魔道具なり金目の物を盗むつもりだったそうだ。
「それにしても、どうやって奴隷に紛れ込めたんだ?」
この理由についてはダンキンが説明してくれた。
ザール連合国の奴隷はダンキンとは別の奴隷商が半分担当していたそうで、そのルートから入ったということだった。
「この度は申し訳ありませんでした。同じリーンワース王国の奴隷商として謝罪いたします。
今後は私共でダブルチェックをした者のみを連れて来ることにいたします」
ダンキンが平身低頭で謝罪する。
当然のとこながら、当該奴隷商は出入り禁止。
リーンワース王国にも詐欺として通報することになった。
奴隷を直接買ったのはリーンワース王国なんだから、奴隷商は王国を騙したことになる。
ここで処罰するよりリーンワース王国での処罰の方がやばいんじゃないかな?
俺も奴隷解放を惰性でやっていたところがある。
そこで俺が細かく『鑑定』をかけていれば、こんなことにはならなかっただろう。
元々ガイアベザル帝国のスパイの侵入は警戒していた。
だが、犯罪歴のある者などというくくりではチェックしていなかったのだ。
魔導の極による『鑑定』は優秀なスキルだからこそ、情報過多のためそのままでは処理しきれなくなってしまう。
そのため欲しい情報を選んでその他を自動的に排除してしまっていた。
その排除した中にこのような重要な情報が隠れていた。
幸い、被害は金銭的なものだけだった。
人的被害が出なかったことを良しとしよう。
ガ二族は犯罪奴隷としてダンキンに引き取ってもらった。
この国での犯罪による処罰ではなく、今までの余罪による処罰だ。
ここで奴隷として使う手もあったが、品性下劣なため放追することにした。
今後もキルト、ルナトーク、ザールに該当しない国の人間が混ざってくるかもしれない。
その時は犯罪歴を基準に受け入れるかどうかを考えよう。
ガ二族の方言は作者が存在しないと確信して勝手に作った物ですが、もしも実在していた場合はご一報ください。
直ぐに変更いたします。
なおガ二族はフィクションであり特定のモデルは存在しません。
たまたま似たような種族が存在していたとしても全くの無関係です。




