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053 国民

 ルナトーク・キルト臨時政府が樹立され俺が国王になり、リーンワース王国と同盟関係になった。

その友好関係の印として、俺からは蒸気砲を提供。リーンワース王国からは奴隷として売られていた両国国民の返還を行ってもらうことになった。

俺はそれからの毎日を蒸気砲作りに費やしていた。


「これで初期注文分の蒸気砲100台、砲弾各100発は出来たな」


 俺はリーンワース王国からのガイアベザル帝国との開戦近しという報告を受け寝る間も惜しんで蒸気砲を作っていた。

完成した蒸気砲は完成する側から国境要塞へと運ばれ既に100台中80台は納入済みだった。

ちなみに何故単位が台かというと蒸気砲が簡易ゴーレムだからだ。

命令により自律して歩き、弾を込め、照準を合わせ撃つ。これらの動作が可能だった。

これは農場が人手不足だったせいで、人を使わないようにと当たり前のように与えてしまった機能だった。

作ろうと思えば人が動かし、弾を込め、照準を合わせ撃つ簡易版を作れなくもない。

自動照準機能が無くなるので命中率が下がるだろうけど、それでも面制圧には有効なはずだ。

うっかりしていたが、既に80台も納入した後なので、今更言えない状態だ。


 その納入した蒸気砲の代金として、ルナトークとキルト両国の奴隷落ちした国民が解放され、今日から農場に届けられ始めた。

最初に納入した蒸気砲20台分の4千人と砲弾2000発分の2万人の一部でざっと4千人だ。

ちょっと待て。今簡単に計算したけど、20台分で2万4千人? 100台分だと12万人ですか?

追加注文が200台来ているんですが? そんなに奴隷いるの?


「アイリーン、サラーナ、君たちの国の人口って何人ぐらいいるの?」


(わたくし)の国ルナトークは200万人ほどでした。戦いで半数は亡くなっていると思います……。

なので、奴隷として生き延びているのは……40~50万人ぐらいだろうかと思います」


「わらわの国キルトは140万人ぐらいかな? わらわの国は劣等民族だと言われてほとんど殺されていると思う……。

10万人残っていれば良い方かな……」


「辛いことを思い出させてしまって悪かったな」


 俺は二人の頭を撫でた。

するとプチも撫でて撫でてと寄って来た。

疲れていたのでプチをモフって癒しとする。


 だが、胸糞の悪い話だ。民族浄化というやつか。

ナチスのアウシュビッツみたいなことが行われたということか。

キルト国は劣等民族とされたので特に酷かったのだろうな。

それで奴隷として売られていたサラーナがあんなに荒れていたのかもしれない。


「でも、その残った命たちを救おうとしてくれたのは、あなた様ではないですか♡」


「そうだぞ。わらわも感謝しているんだからな♡」


 俺が落ち込んでいると思ったのか、二人が慰めてくれた。

とにかく今後奴隷から解放され国民が万単位でズイオウ(瑞凰)租借地にやって来ることになる。

受け入れ態勢を整えなければ、俺が国民を不幸にしてしまう。

とにかく農地拡大と食糧増産、あ、住む家も作らなければならない。

場当たり的にやれる事じゃないな。

都市計画を作らなければ……。


「そういやアイ、君のJOBは参謀――所謂軍師――だったよね?

都市整備は俺とゴーレムがやるから都市計画を頼む。

ここに100万都市を築くぞ」


 俺は都市計画をアイに丸投げした。

さてこれからどうするか。

とりあえず理由(わけ)もわからず連れて来られた人々に説明することから始めるか。



◇  ◇  ◇  ◇  ◆



 蒸気砲を出荷するための保管ならびに荷運び用に作った広場の一角に奴隷解放された元ルナトーク、元キルトの国民が集まっていた。

元奴隷達を連れて来たのは、あのダンキンだった。


「これは、これはクランド様、国王就任、またルナトーク・キルト臨時政府樹立おめでとうごさいます」


 ダンキンはリーンワース王国内で手広く商売をしている奴隷商だ。しかしあいかわらず情報が早い。


「ダンキンか。なるほど奴隷解放なら奴隷商が関わるのは当然か」


「では、奴隷契約の解除を行いましょうか」


 どうやら、ここに連れて来られるまではまだ(・・)奴隷契約をしたままのようだ。

戦で奴隷落ちさせられた恨みもあるだろうし、奴隷商での扱いに不満を持っている者もいるかもしれない。

それを理由もわからないうちに解放してしまったら、大きな騒乱に発展するかもしれない。

あいつは解放されるのに、どうして俺は解放されないんだと、ただの順番なのに疑心暗鬼になってしまったら、そこで暴動になりかねない。

なるほど、ズイオウ租借地(ここ)でもその危険は同じか。


「待て、まずここに連れて来られた理由を説明しよう」


 俺は土魔法で皆から注目を集めるための台を作った。

全校集会で生徒を校庭に整列させ、校長が上って演説する朝礼台のようなやつだ。

そこにアイリーンとサラーナと共に上がる。


「皆の者聞け! 俺はクランド=ルナトーク=キルト=ササキだ。

見ての通り、ルナトーク王国第一王女アイリーンとキルト王国第一王女サラーナの夫となった者だ」


 俺の言葉に続けてターニャがキルト語で同時通訳して奴隷達に伝える。

奴隷たちがざわつく。

姫の顔を見たことのある者たちから「本当に姫だ」という声が上がっている。


「諸君らの国はガイアベザル帝国により滅ぼされた。

だが、ここに正当なる血筋の姫を迎えルナトーク・キルト臨時政府を樹立した。

ここはリーンワース王国より租借した我が国の領土だ。

今後、両国復興のための礎となる土地である。

諸君らをここに招いたのは王国復興のためだ」


 奴隷たちは不安気な顔で話を聞いている。

王家が存続し国を復興しようとしていることは理解したようだ。

だが、戦争に駆り出されるのは御免だという顔も見て取れる。


「諸君らを奴隷から解放する。去りたい者は去っても良い。

両王国の身分証を臨時政府が発行する。これがあれば捕まって奴隷に戻されるということも無いだろう。自由にせよ。

残るものはどうか王国復興に協力して欲しい。

戦ってくれというわけではない。

国として国民救済は義務である。ここで生活出来るようになるのが第一目標だ。

これから奴隷契約魔法を解除する。その後一人一人と係が面談する。今後どうしたいか伝えてほしい」


「国民の皆様、辛い思いをさせました。どうか協力をお願いします。

あの豊かなルナトーク王国を再興させましょう」


 アイリーンが元ルナトーク王国の民に沈痛な表情で訴える。


『民よ。わらわ第一王女サラーナのの(めい)である。(あるじ)様に従い、キルト王国を取り戻すのだ!』


 サラーナが元キルトの民を鼓舞するように訴える。



 俺からの言葉が全員に行きわたったところで、ダンキンを呼ぶ。


「ダンキン、奴隷魔法の解除だが、俺がやっても構わないか?」


 ダンキンが片眉をピクリと上げる。


「やはり出来るのですね? 姫様達の奴隷魔法が解除されているのでもしやと思っておりました。

そうですな。ここはルナトーク・キルト臨時政府の治外法権地域です。

王が法であるからには、他国であるリーンワース王国の法は適用されませんな」


 この法とは奴隷契約は公選魔法使いが行うものというリーンワース王国の国内法のことだ。


「今後解放される奴隷の内訳はどうなっている? 男女比年齢層、見たところ女が多いようだが」


 ダンキンが連れて来た奴隷は若い女性が多い。


「はい。まずリーンワース王国に流れて来る奴隷は若い女性が多いということがあります。

北の帝国は純血主義のため、一部の二級市民を除けば混血を避ける傾向があり、お金にもなることから女性が売られることになります。

男は元々戦で死に少ないうえ、北の帝国で過酷な労働に従事させられることも多く、使いつぶされてしまうため必然的に女性が多くなります。

次に多いのが老人、子供と労働力にならない層。そして戦で追った怪我による部位欠損のある奴隷ですな」


 確かに女性に交じって老人や子供も多い。

老人の知識、子供の未来は宝なのに……。劣等民は別ということか。酷い扱われようだ。

部位欠損の奴隷もいるのか。もしや有能なJOBやスキル持ちが居るもしれないな。


「それでは、これより奴隷契約の解除を行う。奴隷魔法を使うから集まってほしい。

その後で係の者が聞き取りをするので自由にするか残るか決めてくれ」


 ターニャの通訳が行き届くのを待ち、奴隷たちが集まるのを確かめて、俺は奴隷魔法で奴隷たちを解放した。

全員を一度に解放する大魔法に元奴隷たちが驚愕の表情になっている。


『ターニャ、ナラン、アリマの三人は、キルト族の話を聞け。キルト族は左側に集まれ』


 俺はキルト語で指示を出す。


「リーゼ、ティア、シャーロ、アンの四人は、ルナトークの民の話を聞け。ルナトークの民は右側に集まるように」


 俺の指示で大移動が始まった。

だが、それに付いていけない集団があった。

部位欠損の人達だ。


「それから、部位欠損のある者はその場に居ろ」『部位欠損のある者はその場に居ろ』


 俺は彼らに近づくと一人一人に『リカバー』をかけて行った。


「俺の足が!」「凄い、欠損部分が元通りに!」『あなた様は神なの?』


 奇跡の御業に驚きの声が上がる。

ここで自重は出来ないもんな。ありったけのMPを使って治しますとも。


「治った者は、手続きの列に並んでくれ」『治った者は、手続きの列に並んでくれ』


「主君、感動いたしました。

姫様の夫となられた方を失礼ですが我らが忠誠を示すに相応しいのかと疑心暗鬼で見ておりました。

高潔な人格、高レベル魔法、姫様が選んだ方は本物でありました。

私は元ルナトーク王国伯爵ウェイデンと申します。

今後は、クランド王をルナトークの王として忠誠を誓わせていただきます」


 そう言うとウェイデン伯爵は膝を付き臣下の礼をとった。


「そう言ってもらえると助かる。

伯爵は専門は軍事ですか?」


「はい。領軍を率いて戦いましたが、この座間です。

それと臣下に敬語は不要です。ウェイデンと呼び捨てにしてください」


「わかった。ウェイデン。ここも人が多くなる。

警備の長を頼む。後の国軍となるものだ。経験者を集めて組織してくれ」


「ハハッ! (うけたまわ)りました」


「あ、武器が無いか。後で作っておく」


「は?」


「こうやって作るのさ」


 俺が錬金術を使って目の前で剣を生成すると、ウェイデン伯爵は感動の目を向け納得してくれた。

その剣を恭しく受け取ったウェイデン伯爵は、剣を腰に履こうとして奴隷服だったことに気付き恥ずかしそうにしていた。

しまった。彼らの服を用意しなければならないな。

この農場ではまだ服は生産出来ないから、ダンキンにでも仕入れを頼もう。



◇  ◇  ◇  ◆  ◇



「主君、キルト族1205名、全員傘下に入りました」


「全員!?」


 ターニャの報告に俺は驚きの声を上げてしまった。

全員って……。そりゃサラーナも命令していたし、わからなくもないが、これはキルト族の民族性なのだろうか?


「内訳は全員女性です。12歳以下が143人、老人が47名、後の1015名は13~28歳でした」


 なんともまあ偏った分布だ。

一番売りやすい若い女が主体で老人と子供は厄介払いということか。


「何か特殊技能を持った人材はいたか?」


「部位欠損だった者の中に元戦士が57名おりました。

他は農業と牧畜を行って来た一般市民です」


「よし、元戦士はターニャの下に付ける。キルト軍を編成しろ。まあ当分の仕事は農場警備だがな。

老人には子供の世話をさせろ。残った者たちは俺が魔法で農地を開墾するから農業に従事させろ。

とりあえず明日には収穫できるだろうから、食事は自立して出来るようにするんだ。

今日の食事は備蓄した果物を支給しろ。主食はバナナだ。」


「はい。そう指示いたします」


「ああ、くそ。料理をする鍋やら食器もいるじゅないか。家も建てなければならないし寝るのに寝具すらない」


「ご主人様、遺跡の部屋をとりあえず使えば住居建設は後回しに出来るかと」


「それだ、アイ」『システムコンソール、舷側に搬入口はあるか?』


『あります。搬入口解放と同時にタラップ(階段)を展開します』


 その音声と同時に舷側が開きタラップが降りて来た。

タラップの幅は装甲車が走れるほどのものだった。

やれやれ。これで仮の住まいは準備出来たか。


「主君、続けてルナトーク王国の民の報告を致します」


 続けてリーゼが報告する。


「ルナトーク王国の民は総勢3128名居りました。

そのうち263名が身分証明書の発行を希望し、ここを去るとのことです」


 1割弱か。まあ理由は人それぞれだから聞かないが、ルナトーク王国の民の方が言葉は通じるし、リーンワース王国でも生きやすいのだろうな。


「ダンキン!」


 俺は一つ考えがあったのでダンキンを呼んだ。


「何用でございましょう」


「奴隷を連れて来た馬車はあるな?」


「はい」


「この地を去る決意をした者たちが263名いる。その者たちを最寄りの街まで馬車で連れて行って欲しい。

代金は俺が払おう。それと現金は持っているか?」


「連れていくのはかまいません。どうせ空荷で戻るのですから。それと現金ですか?」


「ああ、うちには現金が乏しい。ギルドカードにチャージはあるのだが、金貨100枚ほど今欲しい」


「わかりました。ご用意しましょう」


 その俺の要請にダンキンは何一つ理由を聞かずに応えてくれた。


「すまない。それと大量の服と大量の靴、毛布や寝具がいる。タオルや食器、調理器具など生活に必要な物資もだ。手配を頼めないか?」


「こんなこともあろうかと、生活物資一式を人数分手配済みでございます」


 そう言うと、ダンキンは奥の馬車を手で指し示した。

さすが、ダンキン。出来る男だ。

俺はギルドカードを出すと即決で支払い、取引が完了した。

金貨100枚分の100万Gも同時に払う。


「これが金貨100枚でございます」


 これでダンキンから渡された金貨100枚と手持ちの金貨を合わせて263枚を用意できた。


「シャーロ、ティア、去り行く元ルナトーク王国の民に金貨1枚と生活物資一式づつを支給しろ。

身一つでは生活もままならないだろう。金が無くなった後は、すまないが自力で生きてもらう」


 それも個人の選択だ。尊重しよう。


「リーゼ、残る民の内訳は?」


 話が脱線してしまったが、リーゼの報告の続きを聞く。


「残りは2865名です。男739名、女2126名です。

12歳以下が男231名女583名、老人男性が157名、女性が274名です。

つまり働き盛りの男性が351名、女性が1269名です」


「ウェイデン伯爵は確認したか?」


「はい主君。彼のお方が生き残ってくれていたのは僥倖です。

主君の指示通り、男女問わず戦歴のある者を束ね警備隊を組織しております。

その数260名です」


「その他の者は何が出来る?」


「男は職人が多いようです。鍛冶や革職人、服飾職人など、やはり高く売れる人材を奴隷として売ったのでしょう。

女はほとんどが若い女性です。職業経験がない学生だったり、農業、服飾の職についていた者もいます」


「経験のあるものは職種で集めてその経験を生かしてもらう。

何が出来るのか道具として何が必要なのか聞き出して後で報告して欲しい。

何も経験の無い者達は、まず希望を聞いて訓練するしかないな。

訓練期間中は農作物の収穫でも手伝ってもらおう」


「はい。指示いたします」


 しかし、そうなるとターニャやリーゼ達をいちいち動かすのも手間が多すぎるな。


「ウティデン伯爵のようなリーダーとなれる人材は見当たらないか?

その者に仕事を割り振った方が後々面倒にならないだろう。

今後も人が増えるんだし、いちいち俺達でやっていたら身が持たないぞ」


「早急に各部署のリーダーを選抜いたしましょう」


 アイがそこは引き受けてくれたようだ。

さて、俺がやるべき仕事は……。


 農地の開墾と作物の作付けは今日中にしないとならない。

家やトイレ、上下水道、風呂、倉庫などの生活環境の整備も随時していく。

服や小物の生活物資一式はダンキンが用意してくれたものを支給して……。

あとは食事を作るための竈や食堂の設置が急務か。


「ああ、リーゼ。食事を作れる人を集めてくれ。全部で4070人の料理を用意しなければならない。

この人数じゃ料理人は専従になると思う。人選をよろしく頼む」


 何か忘れていることが多々ありそうだが、俺は今日も眠れそうにない。

明日も増えるんだよな……。

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