046 宝石採取
失敗作の時計石をサラーナとシャーロに指輪にしてあげたことで、嫁達からの指輪クレクレ圧力が凄い。
時計石なら、その場でいくらでも作れるので、それをあげようとすると、他の石が良いとのこと。
指輪の地金もサラーナとシャーロにあげたような金ではなく銀色系が良いらしい。
金なら金貨を潰せば簡単に材料に出来るというのに、困ったものだ。
あ、銀貨があるから銀で作れば良いと思うかもしれないが、銀は空気中の硫化水素と反応して黒くなってしまうので、いまいちなのだ。
となるとプラチナか白金、異世界で有名なミスリル銀かということになる。
プラチナとミスリル銀は、鉱山で採取できるかどうかにかかり、白金は合金なため金に混ぜる白色系金属が必要になる。
これは銀でもいけた気がするが、表面にロジウムという金属でメッキをしないとキレイな白色で光沢感がある白金にならない。
そもそも、ロジウムってどこで採れるんだ?
俺は、それらの希少金属や宝石を採取するためにズイオウ山に入ることにした。
「シャーロは、宝石に詳しいんだよね?」
「はい。川で宝石探しをするのが趣味です」
「ん? 川?」
俺はその単語に引っかかりを覚えた。
「はい。川の流れによって、物が溜まりやすい場所があって、そこに宝石たちが集まっているので、それを拾うのです」
「山じゃなくて、川だったのか!」
「クランド様、山はドワーフの管轄ですよ? 私はエルフなので山や土を掘っての採取はいたしません」
ああ、そうか。鉱山を掘って金属や宝石を採取して加工するのはドワーフの管轄だわ。
それならドワーフの奴隷を購入しに……。
俺がそう思案すると。嫁達からの視線が突き刺さった。
目が「また奴隷を増やそうとしてるな」と突っ込みを入れている感じだ。
「ドワーフを増やすつもりはないからね?」
俺は言わなくても良い言い訳を口にした。
その焦りが嫁達にも伝わったようで、生暖かい目で見られてしまった。
「いや、本当だよ? ドワーフって背が低くて横に広くて女性でも髭が生えているという外観のアレでしょ?」
俺の認識に嫁達が何を言っているんだという反応をする。
「え? ドワーフの女性は大人でもずっと背が小さくてカワイイ感じですよ?」
たまらず、シャーロが訂正する。
そっちか! この世界のドワーフ女性は、ちみっこタイプか!
いや、それもロリコンと思われるから拙いでしょ。
「主君、ニルを抱ける主君ならドワーフ娘も余裕かと」
俺の表情から察したのかターニャが余計なことを言う。
ニルに手を出した時点で説得力がないのは、俺だって自覚してるよ。
ターニャは放牧民の国の近衛騎士だったため、王族は側女を多く抱えて子を沢山作るのが務めだ、と思っているふしがある。
王族は嫁のサラーナとアイリーンなんだがな。
その夫となったから、自動的に俺を王だと勝手に思っているようだ。
それは俺を主君と呼ぶリーゼとティアにも通じるところがある。
「ふ、増やさないからね?」
俺は断腸の思いで誘惑を断ち切った。
ダンキンの奴隷商に行っていたら危ない所だっただろう。
そういえば、ダンキンは領兵の捜索を受けて大丈夫だったのだろうか?
他の街にも支店があるらしいから、一度覗いて来ないとならないな。
「気を取り直して、今日は川に宝石を採取しに行こうか。
必ず採れるというわけではないから魚釣りもしよう。
行きたいメンバーは?」
俺は皆に挙手を促す。
魚釣りと聞いて魚大好き釣り大好きのミーナが真っ先に手を挙げる。
続けてアイリーン。彼女も前回の魚釣りが楽しくてハマったようだ。
宝石採りで当然シャーロも手を挙げる。
アイリーンが参加するならとリーゼとティアが護衛として付いてくる。
サラーナが行きたそうにしているが、水による冷えやワイバーンによる移動はお腹の子に良くない。
泣く泣く諦めてもらった。となると世話役でナランも行けなくなる。
プチも護衛として留守番だ。
アイ、アン、ターニャ、アリマは買い物に出かけるそうだ。
残りはニルか。
「ニルはどうする?」
「ん。宝石採る」
これで全員の予定が決まった。
「よし、まずは買い物組を街まで転移で連れていく。準備次第集まれ。
ミーナは釣り道具の準備を。アイリーンとシャーロは昼用の軽食を用意。
ニルはブルー、オレンジ、パープルとピン子に鞍を付けてくれ」
こうして第一回宝石採取遠征が始まるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
パリテの街の南側、街道を少し離れた草原に、俺はアイ、アン、ターニャ、アリマの四人と共に転移して来た。
四人の背には魔法鞄偽装用の大きな背嚢が背負われている。
当然デザインは二種類ある。別々に行動するのに同じ背嚢デザインでは何のための偽装かわからないからね。
時計の指輪は俺、アイ、ターニャが嵌めていて、今は橙(八時)になったぐらいだ。
実はこの時計の指輪は改良型だ。
以前のものは、二時間経って急に色が変わるのも不便だという意見が出たのだ。
確かに短針が突然二つ進むような時計は不便だ。
変わる予兆みたいなものがないと変わったことにすら気付かず、いつ変わったのかで悩むことになりそうだ。
そこで失敗作と思われた秒ごとに色が変わる時計石を、そのまま秒針として使うことを思いついた。
となると分ごとを表す長針用の時計石も用意すれば分も表現出来る。
二時間毎もあれなので、短針も一時間ごとに色が変われば時分秒を表す時計になる。
これら三つの時計石を指輪に嵌め込んだ。
三つの色を見比べることで、そろそろ一時間経つなという感覚を得ることが出来るのだ。
「時計の指輪は橙だな? 緑(四時間後)になった頃には迎えに来る。
またこの草原に転移して来るので集合してくれ。
それと変化の属性石に魔力をフルチャージしておこう」
俺はターニャとアリマの変化の属性石に魔力をチャージした。
属性石は含まれる魔力を使い切ると壊れてしまうのだが、魔導の極さんにより『チャージ』の魔法で魔力を充填できることが発覚した。
誰も知らなかったのでロストマジックらしい。
これで四時間フルに変化したまま行動が出来る。
俺の感覚では四時間半ぐらいはいけるはずだ。
「それじゃ、買い物を頼んだよ」
「任せてください」
代表してアリマが答える。
彼女達はアリマ、ターニャ組とアイ、アン組で別々に買い物に行く。
ターニャとアンが護衛役だ。
ターニャとアリマも王都ギルド発行の本物を使った偽造身分証明書を持っている。
変化で奴隷だともわからなくなっていて、主人がいなくても街へは普通に入ることが出来る。
俺は彼女達を見送ると、転移で農場に戻った。
◇ ◇ ◇ ◆ ◇
「これから宝石採取兼魚釣りに向かいます。
初めは上空から宝石の集まりそうなポイントを探します。
宝石採りは水を汚し気配で魚が逃げますので、魚釣り組は少し離れた上流で釣りをしてください」
シャーロからの行程予定と注意に皆が頷いている。
ここは専門家に任せるのが良いからね。
「俺がブルーに乗る。俺の後ろにはアイリーンが乗れ。
ニルはピン子。オレンジにシャーロとミーナ。ミーナが後ろだぞ。
パープルにリーゼとティアだ。
よし、全員ワイバーンに騎乗。ズイオウ川に向かう。
シャーロ、先導しろ」
「「わかりました」」「ん」「「「了解!」」」
オレンジを先頭にワイバーン達が飛び立つ。
パリテの街から遠ざかる形でズイオウ川を南下していく。
宝石はズイオウ山をズイオウ川が削った土砂の中に含まれていて、それが下流の淵などの淀みに流れ着き、比重の重い宝石などがそこに堆積する。
そういったねらい目の場所をシャーロが探していく。
「ここら辺が良さそうです」
シャーロが蛇行するズイオウ川の一角を指し示す。
俺達はワイバーンを河原に降ろし、拠点として装甲車を出した。
この装甲車にはエアコンがあるので、暑くなったら涼むことが出来るのだ。
俺、ニル、シャーロはここで宝石採り。ブルー、ピン子も待機だ。
ミーナがオレンジの騎手となりアイリーンを乗せて、リーゼとティアのパープルと共に上流へと釣りに出かける。
さあ宝石採りの始まりだ。
◇ ◇ ◇ ◆ ◆
河原の石は2~3cmサイズの小石だ。
これらの小石が流れの緩やかな淵の部分に堆積している。
「まず透明感のある石を探すのが宝石採取の簡単な目安です。
浅い川の中の方が色付きの宝石は目立ちます。
川に流されないように気を付けて採取しましょう」
シャーロから宝石探しのコツと注意事項が伝えられる。
俺もニルも初めての経験なので、シャーロの言葉に従って探し始める。
「ん! これかも」
ニルが何か見つけた。
くるぶしぐらいの水深の川に入って小石を探っていたようだ。
ニルが手にしたのは緑がかった透明色の小石だった。
「どれ」
俺は『鑑定』をかけてみた。
『エメラルドの魔宝石』
「凄いぞニル、エメラルドの魔宝石だってよ」
俺は驚いた。普通の宝石を探していたら魔宝石を見つけてしまったのだ。
魔宝石とは宝石の生成過程で魔力を含有したものを指す。
魔道具に使われていてとても高価なものだ。
しかもニルが見つけた石は宝石としても綺麗で価値がありそうだ。
ニルは満足げな、少し得意げな表情を浮かべている。
「良かったな。まだまだありそうだぞ」
エメラルドは花崗岩のマグマの産物だ。
水晶とかアクアマリンなんて宝石もあるかもしれない。
と考え事をしているとと、俺がニルのために発動した『鑑定』がとんでもない仕事をした。
河原の石の鑑定結果が目の前にAR表示されているのだ。
無駄な『ただの石』みたいな表示は出ず、宝石のみの鑑定結果がポップアップしている。
「やばい。チートだ……」
俺は『鑑定』結果のまま歩いては拾い歩いては拾いとしているうちに、ふと自動拾得スキルが使えるかもと思ってしまった。
一瞬でインベントリに入る宝石たち。エメラルド、アクアマリン、ルビー、サファイア、ガーネットなど結晶化する場所の違う宝石も拾得出来た。
これは楽しんでいるニルとシャーロに申し訳ないな。
幸いニルとシャーロが探している川の中は鑑定をかけていない。存分に楽しんでほしい。
「ニル、シャーロ、俺はちょっと釣りをしようかと思う。
見えるところにいるから宝石採りは任せる」
俺は釣れない魚釣りをすることにした。
「ここら辺は未開地か?」
ニルとシャーロが川を騒がせているにも関わらず魚が釣れまくる。
魚が人に擦れていないとよく言われるのはこの事だろう。
俺は宝石採りも魚釣りも存分に楽しんだ。
「そろそろ時計が緑になる。街の買い物組を迎えに行く。ニル、シャーロの護衛を頼むぞ」
ニルも魔の森でパワーレベリングしている。
既にオークや熊ぐらいなら一人で倒せる。
「ん。任せて」
俺は転移でパリテの街の南側に設定した集合場所に転移する。
少し早めに着いた。
しばらく待つと買い物に向かったターニャとアリマ(変化した騎士メイド姿)が現れた。
少し経ち、アイとアンも戻って来た。
これはわざと時間差を作ったということだろう。
背嚢のデザインまでわざわざ変えたんだから、一緒に帰って来られても困る。
「お待たせしました」
「いや、そんなに待ってないよ。それに別行動を強調するには仕方ないことだ」
「はい♪」
アイは自分の配慮を俺が理解してくれたことに嬉しそうだった。
「それじゃ、農場に戻るか? それとも宝石採りに合流する? 穴場だったぞ」
俺はインベントリから宝石を出して見せる。
それを見て女性陣が目を輝かす。
「宝石採りをしてみたいです!」
アンが食いつき、全員がうんうんと頷いている。
「よし、それなら採取拠点に転移だ」
俺達は装甲車の脇に転移した。
「皆を連れて来たよ」
俺が採取拠点に戻ると、装甲車の中にはアイリーン、リーゼ、ティアの三人が涼んでいた。
皆で昼食をとり、一休みした後、ニルが珍しく長文を話した。
「主人、ニルは十分楽しんだ。先にワイバーンと帰る。皆とは転移で帰って」
そう言うとニルはピン子に乗ってワイバーン達を引き連れて飛んで行った。
なんて良い子なんだ。買い物組が長く楽しめるようにワイバーン移動の時間を省いてあげようという心遣いだ。
「ミーニャはまだ釣りまくるにゃ」
「だったら、ここも魚影が濃いぞ」
「罠を仕掛けてるにゃ。それを回収しに行くにゃ」
「ワイバーンいないぞ?」
「ニャー!! しまったにゃ。走ってくるにゃ!!」
ミーナが慌てて走って行った。
ワイバーンを連れていくと言われたときにスルーしたのが悪い。
皆、夕方まで釣りに宝石採取にと楽しんだ。
趣味と実益を兼ねた良い息抜きになった。
また来よう。




