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004 遺跡

 森の中にポツンと広がる小さな草地、それが俺と愛犬が転移して来た、この世界で唯一知っている場所だ。

空はどんよりと曇り、今すぐにも雨が落ちてきそうだ。

原因はわかっている。俺がぶっ放した『ファイア』の魔法による火柱のせいだ。

火柱により上昇気流が発生し、上空の冷たい空気に冷やされて水蒸気が水になり雲になり、はい、雨が降ります。

自業自得というやつだ。


 材料を集めて家を建てるにはもう時間がない。

土魔法一発で家を建てられるかもしれないが、イメージが重要な魔法において俺自身のイメージが貧弱で、構造的なものや強度に全く自信が持てない。

ここは魔物が住む森だ。巨大な魔物から守れる家を建てるというのも簡単には無理な気がする。

あまり酷いものを建ててしまうと、その日のうちに崩壊した家の下敷きになって異世界生活終了という未来も想像に難くない。


「洞窟! それなら穴を掘って壁に強化魔法をかければいい」


 洞窟なら岩盤さえ選べばそのまま内部を守ってくれるだろう。

辺りを見回すも、森と小さな草地のみ。

洞窟を掘る崖や岩すら見当たらない。


「時間がない。どうすれば……」


「ご主人、ご主人。穴あるよ?」


 プチがダンジョンへと落ちていった穴に前足を向けている。


「そうか、この穴を利用すればいいんだ」


 まずダンジョンへの大穴に土魔法で階段を設置し、固い壁部分の中へと侵入出来るようにする。

元々この壁部分は固い構造物なので、強度的にも丸々利用できるはずだ。

続いてダンジョン最下層へと落ちていくスライダー(ただの傾いた床だが)の入り口を土魔法で封鎖し水平な床を形成する。

そして天井に空いた大穴部分を壁と同じ強度になるようにイメージして修復する。

斜めの構造物がそのまま片屋根のようだ。


 続いて階段周りを人ひとりが通れるサイズで同じ材質で覆って強化。

階段の地上部出入口に四方を囲む構造物と屋根を設置し、おそらく南と思われる面にドアをつける。

屋根の軒下には通気口を設けた。密閉空間で酸欠になっては目も当てられない。

これぐらい小さな構造物ならがっつり強度をつけても魔力切れにならないと当て込んだが、やはり問題なかった。

どのぐらいで限界に達するのかは安全を確保してから今後試す必要があるな。

とりあえずこの程度ではMPにはまだまだ余裕があった。


 そして大穴は土魔法で埋めて出入口の構造物の下部まで土を盛った。

ここは今後農地になる予定なので、埋め戻しが必要だったのだ。

客観視すると草地の真ん中に簡易トイレが建っているようにも見えなくもないが仕方ない。

何と言っても雨が降るまでの間に合わせなんだからな。

いやマジで間に合わせだからね。


「プチ、(ねぐら)が完成したよ。仮のだけど雨は(しの)げるよ」


「わん!」


 プチも喜んでいる。俺は扉を開くとプチを(ねぐら)へ招き入れた。

上を塞いでしまったので真っ暗だが『ライト』の魔法で明かりは確保できる。

そういえば『ライト』っていつまで点いているんだろうか? MP消費は?

今後の調査課題としたい。

もし効率が悪いなら魔道具を作る必要がある。


 階段を降り、ダンジョン部分に入るとそこそこ広い空間であることがわかる。

ほんのり明るいのはなんらかの魔道具が生きているのだろうか?

元々遺跡だったものがダンジョン化したから、ダンジョンの崩壊が起きなかったのかもしれない。

スライダーとなっていた穴部分の他にも扉があって別の部屋になっているようだ。

そちらは追々探索しよう。

なんと言っても床が斜めなので滑り落ちてしまったら戻ってこれない。

過去に見た豪華客船沈没の映画で、斜めになった床を滑り落ちて死んでいく乗客を思い出してしまった。

間違いなく危険な現場だ。

今は水平をとった所に生活の基盤を作るのが先だろう。


 とりあえず『ライト』の魔法で光源を4つ作り四方に飛ばす。

そして部屋の中心となる真上に『ライト』でメインライトを灯す。

このメインライトを点けたり消したりする予定だ。

床が固いので直に座ったり寝たりはきつそうなので、インベントリから魔物の毛皮を出して敷いてみた。

虎系の魔物の毛皮らしく、尻尾を含まないで体長5mはある。

頭としっぽがついていて、腹ばいでべたっと伏せているような、あの金持ちの家によくあるような毛皮だ。

頭の牙が巨大でサーベルタイガーってやつかもしれない。

魔物の毛皮なので剛毛かと思ったが、殊の外(ことのほか)肌触りが良い。

皮の(なめ)しや加工が良いのかもしれない。収納の(きわみ)様々だ。

これなら10人ぐらい寝転がっても余裕だろう。


 地上部分の屋根に設置した通気口が機能しているのか、遺跡の奥へ向かって空気の流れが出来ている。

これで酸欠の心配はないが、どうやら遺跡の空調も生きているようだ。

風が少し冷えるので豹柄(ひょうがら)の白い毛皮を毛布代わりに出す。

俺はプチと一緒に毛皮に(くる)まって雨が止むのを待った。


『か……の……おね……ます』


 微かに聞こえる人の声に俺は微睡(まどろみ)から目を覚ました。

プチの体温が心地よくついつい寝てしまったようだ。

雨はどうなったのだろう。それより今何時なのだろう。

この地下では外の様子がわからないのが難点だな。

階段上のドアを開けたら魔物と鉢合わせなんて可能性もある。

今後の課題だな。いや、それより声だ。


 (わず)かな声を探って行くと一つのコンソールパネルにたどり着いた。

部屋の中がボヤっと光っていた原因はここの光だったようだ。

そこには文字が映っていた。


【管理者空席により機能不全。早急な管理者の登録を望む】


 同時に声が聞こえる。


『管理者の登録をお願いします。魔力反応確認。管理者権限所持者と推認します。管理者の登録を~』



ドカン!



 その時、大きな衝突音と共に部屋が揺れた。


「まさか地上出入口が破壊された?」


 その時システム音声が変わった。


『魔力パターンを登録しました。管理者名の登録をお願いします』


「は?」


 ()れて転びそうになり手を付いた先がボヤっと光っていた。

どうやら魔力パターンのスキャン装置だったようだ。

仕方ないだろ。床が斜めだから少しの揺れで足元を(すく)われたんだから。


『管理者名の登録をお願いします』


 もう自棄(やけ)だった。


蔵人(くらんど)


『クランド様。登録が終了しました。魔導機関の調整をお願いします』


 俺は何だか知らないが遺跡の管理者になったようだ。

そしてシステム音声は次の要求を突き付けて来る。

俺は延々と遺跡の管理をしないといけないのだろうか?


「それにしても、このパネルの文字、異世界標準語とは違うな。

そうか、金貨に刻まれた文字と同じだ」


 俺はインベントリから金貨を出して文字を読む。


「ガイア帝国皇帝金貨。10万G。『立てよ国民! 世界は皇帝と共に』か……」


 背中に冷や汗が流れるのを俺は感じた。


「これって軍事帝国の遺産じゃね?」


 そこにはトラブルの匂いしかしなかった。

金貨を使うのは自重しよう。


「あ、これでまた一文無しだ……」

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