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035 決戦

 ダンキンのメモにはこう書いてあった。

北の帝国の狙いはクランド自身であること。

クランドが黒髪黒目であることから北の帝国に目を付けれたのではないかということ。

またクランドがガイア金貨を持っていたことから、その遺産を手にしていると思われその遺産も狙われていること。

魔の森の魔物素材を持っていたことから、住み家が魔の森ではないかと推測されること。

出来るなら避難してほしいとのことだった。


 今から避難するとして、転移でいけるのはミンストル城塞都市とロージアボンの街しかない。

簡単に追われる距離しか離れられない。

ここは塔の防御力を信じて籠城するしかない。


「皆は塔に上れ。家畜やワイバーンは搬入口から遺跡の中へ。遺跡の壁なら少しは持つだろう」


 その時、森の木々をなぎ倒しながら、北の帝国の陸上戦艦が農場までやって来た。

以前用意した農場用地の塀の手前に陸上戦艦が止まる。

そのまま陸上戦艦は横腹を見せ農場に舷側の砲を向けた。


「もう来たのか……。俺が交渉してみる」


 まだ避難誘導が出来ていない。

家畜とワイバーンにかかりきりになっているターニャ、ナラン、ニルが逃げ遅れている。

プチも牧羊犬モードで羊を追い立てている。

時間を稼がないとならない。

俺は魔法で声を拡大し地上戦艦に問いかけた。


『何の用だ。ここはただの農場だぞ』


 すると陸上戦艦から返事があった。


『俺はガイアベザル帝国の第五皇子アギトだ。お前は俺達の同胞だろう?

優秀な血脈を引き継ぐ同胞として俺達はお前を保護しに来たのだ』


 第五皇子だと? また大物が出て来たな。


『俺はこの生活が気に入っている。一緒に行く気はない』


『なら同胞として顔だけでも見せてくれないか?』


 あともう少しでターニャとプチが避難できる。仕方ない俺が顔を出すか。


『ちょっと待て』


 俺はエレベーターで展望室に降りると屋敷の二階を通って屋敷の玄関から外へと出た。

丁度、その時、ターニャとプチが屋敷の中へと入った。

俺は塔の上へと行くように目で促し歩を進めた。

だがプチは俺に従ってついて来た。

仕方ない奴だ。まあ俺とプチは魂で繋がった一心同体みたいなものだからな。

小さなプチの援軍が心強かった。


『どうだ? 見えるか?』


 その時ゾワリとした殺気が俺に吹き付けられた。


『おい、お前、黒髪でないではないか!』


 押し殺した声が聞こえると同時に嫌な予感がした。

砲弾がこれ見よがしに時間停止貯蔵庫に直撃する。

いつでもお前を殺せるんだという意思表示だろう。

続けて羊の畜舎が破壊される。


「わん(どうして!)」


 羊はプチが一番かわいがっている家畜だ。

いつもプチが羊を追いかけまわしているが、そこには信頼関係が生まれていた。

羊もプチが羊に危害を加えようと追っているとは思っていない。

群れのリーダーの如く、行先を指示しているだけなのだ。

その羊の家が破壊された。

プチにとって、それは我慢できないことだったのだ。


 敵艦に向かっていくプチを弄ぶように砲弾が炸裂する。

プチは風のようにそれを避けるが、砲弾の爆発による被害範囲は大きく次第に行き場を失って行った。


「プチ、戻れ! 退避だ!」


 俺の言葉も虚しく、プチが爆風に飛ばされ倒れる。


「プチーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 俺は怒りで攻撃魔法『火炎嵐』を敵艦に撃ち込んだ。

しかし、敵艦は防御魔法陣を展開し攻撃魔法を防いでしまった。

俺は何発も『火炎嵐』を撃ち込む。

相手に被害を与えられなくて良い。

プチへの攻撃を妨げ、プチの側に転移し、プチを救出する時間が稼げれば良いだけだ。


 俺はプチの側に転移するとプチを抱きかかえ再び転移――キャンセル―ー塔の中には転移できなかった。

再び『火炎嵐』で敵艦をけん制、今度の屋敷前に転移した。転移成功。

そうやら塔の中は転移が阻害されるようだ。


 俺はプチに回復魔法をかけつつ屋敷に戻ると階段を駆け上がり、展望室へと転がり込んだ。

その時、陸上戦艦から光がしたかと思うと、俺が立っていた場所に砲弾が直撃。爆発し後ろの屋敷を含めて吹き飛ばした。


『おい。これはどういうことだ!』


 とうとう俺を直接狙って来たアギトに俺は抗議の声を上げた。

顔を見せろと言って無防備な状態にさせて直接砲弾で狙ってくる。

そんな下衆な行動を皇子ともあろう者がプライドもなくやるなんて信じられなかった。


『チッ!』


 アギトの野郎は舌打ちを返して来た。


『騙し打ちとは卑怯だな。アギトよ』


 俺の言葉にアギトも応じる。


『黙れ。貴様の髪色は黒ではない。穢れた血が混ざったお前など同胞ではないわ!』


 なるほど、そういう理屈で動くのね。

俺が髪を染めてるなんて気づきもしない文明程度で血を語るか。

どうせお前のDNAだって調べれば穢れているはずだぞ。


 敵の砲弾が塔に直撃する。敵の砲の命中精度は高いようだ。

兵の連度が高いのだろう。

だが、こちらの塔も遺跡だ。特別性の壁は硬い。火薬砲では撃ち抜けないだろう。

エレベーターに乗り塔の最上階に付くと、俺は今後の身の振り方を嫁達と協議しようと口を開いた。

幸い、塔の壁が俺達を守ってくれているからね。


「これからどうする? 転移で逃げようか?」


「それより、何か言ってるんだけど、わからないの」


 そのサラーナの言葉に耳を澄ますと、システムコンソールが言葉を発していることに気付いた。

ガイア帝国語なので、誰も言葉が理解出来なかったのだ。


『攻撃を確認。陸上戦艦ニムルドを敵と認定。管理者に反撃を具申します』


『ゴーレム部隊出動! レーザーで敵を排除しろ』


 俺の命令で700番代の戦闘ゴーレムが出撃する。

固定武装のレーザーで敵艦の艦砲を狙わせる。

相手は火薬砲だ。レーザーが火薬を誘爆させれば攻撃力を奪えるだろう。


 700番代ゴーレムが農場の城壁に上りレーザーを撃ち始める。

精密射撃に敵の艦砲が誘爆する。

敵艦はゴーレムを脅威とみなし、城壁ごと破壊しだした。

ゴーレムは壊せないが、城壁を破壊すれば落ちたゴーレムが戦闘不能になる。

そんな消耗戦がお互いに展開した。


『ゴーレムの損耗率50%を超過。全滅とみなします。管理者に直接攻撃の許可を具申します』


『ちくしょう。反撃出来るならやっちゃってくれ!』


『管理者の許可を確認』


 その俺の言葉にシステムコンソールの色が変わった。

俺は慌てる。システムコンソールは何をする気なんだ?


 システムコンソールの色が変わってから、動きはまだない。

その間もせっかく作った農場が敵の砲弾で破壊されていく。

すると地の底より鈍い振動が伝わって来た。


『魔導機関臨界。戦闘時出力解放』


重力制御(レビテーション)機関、第一、第二、第三、第四戦闘時出力で作動』


『艦体浮上します』


 また地震が起きる。

農場周辺の地面が裂け、遺跡が浮上して来る。

農場の塀は丁度遺跡の上に乗るようになっていた。

そういや、また遺跡が動いても大丈夫なようにしろって俺が指示したんだったわ。

農場全体が遺跡に乗り浮上していく。


『隔壁解放。第二魔導砲塔上昇』


 果樹園の隣、ワイバーン厩舎の西の地面が割れ隔壁が開く。

その中から戦艦の砲塔のようなものがジャッキのようなもので上昇して来た。

上昇が止まると隔壁が閉じ、砲塔の基部を塞ぐ。

第二魔導砲塔が砲身を上下させ動きを確かめる。


『レーダー始動。第二魔導砲塔敵艦(ニムルド)に照準』


 第二魔導砲塔が旋回し敵艦に砲身を向ける。


『発射のタイミングは管理者クランド様に一任』


 どうすればいいのこれ?

もしかして、これも陸上戦艦なのか?


「ここ掘れわんわん」


 プチのスキルが発動した。

ここは撃っていいってことだよな?


『発射!』


 俺の命令に魔導砲塔の砲身の先にいくつもの魔法陣が浮かぶ。

魔力ストレージからエネルギーが魔導砲に流れ超高出力の光魔法が発動する。

太い光の矢がビーム砲の如く敵艦に向かっていく。


 火薬砲を撃つために横腹を見せていた敵艦に光の矢が直撃。

敵艦の展開した防御魔法陣を貫き、大爆発のキノコ雲が上がった。

爆発が消えた後、そこには二つに折れた敵艦の残骸だけが残っていた。

その時、こちらの魔導砲塔からも爆発が起きた。


『魔導回路破損。第二魔導砲塔大破。管理者は修理してください』


 システムコンソールからシステム音声が虚しく流れていた。

どうやらこの遺跡は陸上戦艦、しかも飛行甲板を備えた戦闘空母らしい。

その飛行甲板には綺麗に俺の農場と牧場が乗っかっていた。

魔導砲塔は大破。こちらの攻撃手段はもう無さそうだ。

このままここに残れば、北の帝国から更なる攻撃を受けてしまうだろう。

塔から飛行甲板の農場を見て、ふと俺は気付いた。


『なあ、農場ごと移動出来るんじゃないか?』


 俺はシステムコンソールに問いかけた。


『はい。このまま移動可能です』


 俺はこのまま陸上戦艦でエスケープすることに決めた。

俺は転移すると落下したゴーレムを回収していく。

こいつらが敵に回収されて敵として目の前に立つのはしのびない。



「北の帝国に主君の情報が渡らないように、敵の生存者は殺すか捕虜にするべきだ」


 リーゼが厳しいがもっともなことを具申する。


「そうだな。出来れば敵艦も修復されないように手に入れたいな」


 生物がいるとインベントリに入れられない。

逆に生物がいたらそれを排除してインベントリに収納することは出来る。

その機能を思い出した俺は、敵艦をそのままインベントリに入れた。

生存者がいれば、その場に残されているはずだ。

そして解体の分離機能で敵艦内の遺体を一か所に出した。


 その結果、生存者なし。

火薬の誘爆と光魔法の直撃が全乗組員に死を与えていた。

俺は証拠隠滅ではないが、追手の情報を遮断するため、穴を掘りその中に遺体を入れ『火炎嵐』で荼毘に伏した。

そのまま土魔法で埋葬する。


「お互い殺し合いだったんだ。悪く思わないでくれ。安らかに眠れ……」


 帝国人の宗教など気にせずに仏教式の合掌で弔う。

そして俺は異世界で初めて降り立ったこの地をとうとう捨てることになった。

俺はこのままこの世界の放浪者になるのかもしれない。


「主様、大丈夫。わらわ達がついてる」


「そうです。あなた様は(わたくし)達がけして一人にはしません」


「わん」


 俺が悲しい顔をしていたのか、嫁達がこぞって慰めてくれた。

俺はプチをモフモフしながら嫁達の存在に感謝した。

彼女達と一緒なら、この後に待つ苦難も乗り越えられるかもしれない。

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