003 ごはん
プチは顎下の毛をモフモフされたのが気持ち良かったのか、突然巨大化を解いて元のチワワに戻った。
細かく言うと毛の長いロングコートチワワだ。
その顎下から胸にかけての毛をモフモフするのがお互いに気持ち良いのだ。
プチの名前はフランス語のPetit(小さい)から来ている。
ブチシューやプチトマトのプチだ。
元々は両親がポチと付けそうになったのを、チワワにその名は無いと俺が頑なに拒否して落ち着いた名なのだ。
ポチはフランス人が飼っていた犬の名がプチだったのを、日本人が聞き間違えて広まった名だと言われている。(諸説あり)
花坂爺さんの童謡の歌詞に出て来るポチも間違った名なのだ。
あれは江戸時代の話だからフランス語はないしょと思うかもしれないが、実はあのポチという名前は後世の創作なのだ。
古い文献では花咲爺の犬の名はシロらしい。(諸説あり)
「ああ、それでここ掘れわんわんなのか」
俺はここ掘れわんわんが神様がプチに与えた特別なスキルなのだと気付いた。
そういや、プチのステータスって見れないのかな?
「プチ、ステータスって出せるか?」
「出せるよ? 出す?」
「頼む」
プチが首を傾げるカワイイポーズで答える。
当然モフる。
だが、俺の目にはステータス画面は見えない。
「俺に見せることは出来るか?」
プチは真剣な顔をしてうんうん唸っていたが、何かを決意した顔で俺の顔を見つめて言う。
「わかんない」
そう言うと草原を走り回りはじめてしまった。
真剣な思考は長続きしないようだ。
そうなると、今後プチに何が出来るのか一つ一つやってみてもらうしかないだろう。
今後の課題だな。
「ご主人、ご主人。お腹すいた」
走り回るのに飽きたプチが俺の前に走り寄るとお座りをして頂戴のポーズをする。
滅茶苦茶カワイイ。
プチをモフりながら、俺はプチの倒したオークをインベントリに収納する。
オークといえばファンタジー世界では解体して肉にするのが定番だ。
俺のインベントリは収納の極のスキルにより、自動解体が出来る。
これはダンジョンでレベルアップした時に把握済みの機能だ。
インベントリに放り込まれたオークは皮などの素材と食材としての肉に解体分別されて収納される。
ログに解体終了とそれぞれ分別された物の量が数値でAR表示される。
そこには肉という表示が出ている。
たぶん異世界語の表現は別なんだろうけど、俺にはそう見えている。
うん。食えるってことは間違いない。
俺はポークを1kgほどインベントリから出す。
1kgぐらいと頭にイメージするだけで切り分けられて出て来るとは便利だ。
もしかしてスライスしてとか、ロースをとか部位指定や切り方も指定出来るかもしれない。
やってみる……。簡単にできた。
1kgの塊を収納しロースの薄切りスライスを出す。
プチは体重2kgぐらいの小さな体なので薄切りの方が食べやすいはずだ。
さて調理をと思って気付いた。
「あ、包丁いらずで忘れていたけど、調理器具が無いわ」
とりあえず俺は周囲を見回して石を探す。
表面が平らな石を見つけると生活魔法の『クリーン』で綺麗にする。
その石の上に薄切りロースを乗せると魔法を放つ。
「ファイア」
ちょっと炙るつもりだったんだ。
だが、目の前には炎の柱が天高く立ち上っていた。
その炎が消えた後には、消し炭になった薄切りロース肉が黒くこびりついた石があるだけだった。
自動で展開された『シールド』の魔法で俺とプチが火傷をすることがなかったのが救いだ。
「魔導の極で何でもできるはずが、力の制御が出来なくて何にも使えないいっ!」
俺は絶望した。攻撃魔法系は自重しよう。
気を取り直して俺は竈を作ることにした。
土魔法で土を盛り上げ三方向の壁を形成し、上に薄い板状に加工した石板を置いた。
自重なしの土魔法は火魔法より普通に使えた。
広範囲魔法でなければ土魔法は余計なことが起きないのが良い。
後は薪を拾い、生活魔法の『乾燥』をかけ生活魔法の『火種』で着火した。
地球の着火ライターのような使い心地で簡単に火をつけることが出来た。
「生活魔法は威力が制限されていて使いやすいな。(自虐)」
熱くなった石板に薄切りロース肉を菜箸で並べていく。
作ったさ。生産の極で木を加工して。俺用の皿もプチ用の食器も。
生産の極は便利だ。好きなものが好きに作れる。
自重しなくてもクオリティが上がるだけで変なものにはならない。
焼きあがった薄切りロース肉をプチの食器に入れてあげて調理ハサミで一口大に切る。
土魔法は自重しなければこんな物も作れる。
ただし土から作ったセラミック製の間に合わせなので、今後は鉄などの金属を見つけて作り直そうと思う。
(作者注:主人公はセラミックが金属より高性能なことに気付いていません)
宝物庫の剣から作ろうかと思ったけど、オリハルコンやらミスリルやらの希少金属製だったので自重した。
生活魔法の『ウォーター』で水を出し、もう一つの食器に入れてプチの前に置く。
プチはお座りをすると俺の顔を見つめてハフハフしている。
待ての姿勢だ。
「よし」
物凄い勢いで食べ始めた。待てが出来る良い子なのだ。
俺もロース肉を箸でつまむ。
調味料がないので何ともいえない味だ。
素材の味がダイレクトに来るのできつい。
塩を探さないとならないな。
野菜などでビタミンも取る必要があるな。
いや町に出て買うか。
一応金貨を手に入れたからな。
今後の目標、鉄の探索、岩塩の探索、食える植物の探索、町の探索かな。
「ご主人、ご主人。雨が降りそうだよ?」
しまった。今日の塒がない。
歌詞の引用がヤバイらしいので自主的に修正しました。
花坂爺さんの歌詞の著作権は古くてもう切れてる気もするし、引用も短いから普通なら問題ないはずなんだけど、某団体は常識の範囲外の行動をするからなぁ。