029 リカバー
「姫様! 再びご尊顔を拝することが出来た光栄、歓喜に堪えません!」
「姫様。良くご無事で……」
どうやらリーゼロッテとティアンナはルナトーク王国の騎士だったようだ。
ティアンナに肩を貸したリーゼロッテがアイリーンに傅こうとして少し困った顔をする。
片脚の無いティアンナの支えを放すわけにはいかなかったからだ。
「良い。リーゼ。ティアも。私は今はあなた――旦那様の妻でしかありません」
その言葉にリーゼロッテとティアンナが殺気の凝った目で俺を見つめる。
「妻だと? 貴様、まさか姫様の純潔を散らしたのではないだろうな?」
ごめんなさい、やっちゃいました。
「やめよ! 私は心から旦那様をお慕いしているのです」
リーゼロッテとティアンナは納得しかねているようだが、嘗て仕えた主君すじの姫君の命を受けて口を噤んだ。
だが殺し屋のような目で俺を睨み続けるのはやめて欲しい。
「リーゼ、ご尊顔と申しましたが、この顔にはワイバーンに付けられた大きな傷があったのですよ。
ティア、無事ではありません。私の右腕も失われていたのですよ。
そんな私を引き取って下さったのが旦那様なのです」
リーゼロッテとティアンナはアイリーンを見て信じられないというような顔をしている。
顔に傷は無く、右腕もしっかりあるからだ。
その視線に気づいたアイリーンが畳みかける。
「顔の傷と右腕ですか? 旦那様が『リカバー』で治してくださいました。
その奇跡を目の当たりにすれば、あなた達も私の言葉を信じるでしょう」
アイリーンが「さあ、やっちゃってください」とばかりに俺の方を見る。
いやでも、アイリーン。ここはまだダンキンの奴隷商の応接室だぞ。
ここでやるってことは秘密をばらすってことだよ?
アイリーンが俺に穢れ無き目に期待を込めて向けて来る。
その目が眩しい。
「仕方ないな。ダンキン、このことは他言無用だぞ。
それから部位欠損の奴隷は今まで通りの値段で売ってくれよ?」
「承知しました」
どうやらダンキンは俺が何らかの手段で『リカバー』をかけられるのを委細承知の上で二人を売ってくれたようだ。
俺は少し躊躇した。俺が『リカバー』を使えるのを見せてしまった方が良いのか、光と聖の属性石で『リカバー』をかけるのを見せた方が良いのか。
うん。回数制限があると思わせた方が良いか。
俺は属性石で『リカバー』をかけることにした。
『リカバー』パリン。
『リカバー』パリン。
光と聖の属性石が二つ砕けた。
すると見る見るうちにリーゼロッテとティアンナの部位欠損と火傷が治っていった。
「「え? そんなまさか」」
「うおおおお!」
驚くリーゼロッテとティアンナ。
別の意味で驚くダンキン。
「腕が治っていくよ。ティア!」「リーゼ、火傷もよ。私の脚も治る!」
リーゼロッテとティアンナは抱き合って泣いた。
「これが私の偉大な旦那様です。理解しましたか?」
「「はい」」
二人が臣従した。
「それより何ですか! その属性石は!」
ダンキンが興奮していた。冷静な男が冷静さを失っていた。
「光と聖の複合属性を持つ属性石だよ。風と水の属性石はオークションに出しただろ?」
「その(光と聖の)属性石がオークションに出れば、億から競りが開始されますぞ!」
「これはもう無いから」
俺は嘘をついておくことにした。
「「そんな貴重なものを私達のために……」」
二人の俺に対する心酔度が急上昇したようだ。
ごめん。嘘ついて。
そこはダンキンに対するけん制だったんだよ。まだ有るとなると売ってくれとか面倒だろ?
「じゃあな。ダンキン。この事はくれぐれも内密にな」
「ハハッ。取り乱して申し訳ございません」
「よし、洋服を買いに行くぞ。二人の服と靴を買うぞ。皆も好きなものを買っていいからな」
俺は洋品店でお大臣さんになった。
「そこの二人、下着は沢山買っておくように」
俺が沢山買うせいか、この洋品店は新品の服が多くなった。
そのほとんどをうちの嫁が買いあさっていく。
サイズとか完璧に合わせてきている気がする。
店主、出来るな。
次からはこの高身長コンビの服もよろしくお願いします。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
某艦内
「よろしいのですか?」
「あん?」
部下と思われる者の問いかけに男は不機嫌に答えた。
「リーンワース王国とは不可侵条約を締結しております。越境行為は戦争行為とみなされかねません」
「はっ! 笑わせる。戦争をしたくないのは向こうの方だ。この程度で文句を言ってきたら望み通り戦争だ」
男は部下の正論に暴論で返した。
国の命運を左右する決定事を独自に裁可できる権力が男にはあるのだろうか?
「しかし、戦争なら陛下の裁可をいただきませんと……」
「馬鹿かお前は。戦争は陛下がお望みなんだよ。俺達にはガイア帝国の純血を守る使命がある。この黒髪黒目の血を守るという使命がな」
黒髪黒目の保護。それも彼らの任務だった。
リーンワース王国に放ったスパイにより、某城塞都市で黒髪黒目の男の目撃が報告されていた。
その男がガイア帝国の末裔か調べなければならない。
その男が現れた某城塞都市の付近で魔導機関起動の干渉波を観測している。
男にとって手柄を立てるには好都合だった。




