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021 ミンストル城塞都市

 翌日、私物の一部を失ったナランとニルを買い物に連れていくことにした。

ニルは自分のワイバーンに乗れるので、俺とナランもワイバーンに乗れば、高速移動が可能だ。


(あるじ)様~。連れてってくれなきゃヤダヤダ!」


 サラーナが我儘を言い始めた。


「旦那様、買い出しには生活担当の私も行くべきです」


 アリマがもっともなことを主張する。

となると、装甲車で行くことになるな。


「主君、ワイバーンをもう一頭召喚すれば良いのでは? サラーナ様もワイバーンに乗れます故」


 ターニャ、それは言うな。サラーナは置いていきたいんだよ……。

ターニャを置いていくと護衛役が一人になるからサラーナを連れていくと負担なんだよ。

だが、今後の事を考えるとワイバーンを増やすのは有りだ。


「ニル、ワイバーンが増えても世話は大丈夫か?」


「ん。まかせて」


「よし、ワイバーンを二頭(・・)増やす」


「主君、二頭とは?」


 ターニャの頭に疑問符がわき、訊ねて来る。


「ターニャも連れていく。護衛が一人じゃサラーナの面倒は見れない」


 ターニャが物凄く納得した。

結局俺は大型ワイバーンのブルーとレッドの二頭を召喚し、タンデムの鞍を生産の極で製作し取り付けた。

騎手は俺、ニル、サラーナだ。

俺がブルーのワイバーンに、ニルがレッドのワイバーンに、サラーナが元から居た白のワイバーンに乗る。

ちなみにニル専用の小型ワイバーンは淡いピンクだ。

こいつは家畜を襲わないので放し飼いになっている。

いざとなればニルの呼びかけに応じて飛んでくる。

俺の後ろにアリマ、ニルの後ろにナラン、サラーナの後ろにターニャが乗る。

プチは俺の服の胸に入って顔を出している。


「全員乗ったな? 出発」


 俺が召喚したワイバーンなのでブルーは俺の言うことを難なく聞く。

ニルはワイバーン騎乗に優れていて、初めて乗るレッドでも御して見せる。

サラーナは慣れたいつもの白いワイバーンだから問題ない。


 農場からミンストル城塞都市まで1時間半で飛ぶ。

さすがに魔の森は深く、プチでも移動に1時間はかかるので、その速さがわかるだろう。

そこに平原の移動時間がプラスされる。

ワイバーンは高低差や邪魔な樹木によるロスが無いので多少早く来れた。

これが装甲車なら3時間近くかかっただろう。


 ミンストル城塞都市とは、以前から頻繁に訪れている街の名だ。

しばらく街、街と呼んでいたが、通っているうちに名前が判明した。

街の手前の厩舎にワイバーンを降ろす。

ワイバーンは騎獣として一般的で偽装工作をする必要が無いのだ。

厩舎に三頭分の預け賃、銀貨6枚を払って城門へ向かう。


 城門に辿り着くと、衛兵にギルドカードを見せ、銅貨六枚を払って街に入る。

奴隷には身分証明書はない。俺のギルドカードに所有奴隷として列記されるだけだ。

人数分銅貨を払えば街に入れてもらえる。


 まずは失った私物を求めるために洋品店へと向かう。

あの店の前で強盗に襲われた店だ。

下着や普段着を購入する。

続いて家具屋。家具やベッドは俺の生産の極と森の木で製造出来るので、マットや寝具だけを買う。

買ったものは俺のインベントリに収納する。


 次に市場に向かい、アリマが生活用品や農場では手に入らない食材を買う。

天然塩などは必須なのだ。


「旦那様、魚があります」


 アリマの言葉に俺は目を見開いた。

魚を売っている店があったのだ。

だが、ちょっと待て、ここは内陸部だ。

東西に流れる川までは馬車で4日以上はかかる。

鮮度はどうなんだ? 俺みたいに時間停止機能のある亜空間倉庫を持つ人間がいるのか?

俺が訝しげに見ていることに気付いた店主がセールストークを始める。


「この魚は『アイス』の魔法で凍らせて持ち込まれたもんだ。ここらまでは十分に流通圏内だぞ。

ただ、魔法で保存した食物は値段が高い。そこは承知してくれ」


 高いのか。俺はそんな高い金を出してまで食べたくはないな。

まあアリマが声をかけたからには何かあるのか?


「アリマ、欲しいのか?」


「いえ、旦那様。珍しいと思っただけです」


 しかし、その言葉には半分嘘が籠っているようだ。

サラーナ達の国、キリル族の国はもっと内陸らしい。

たぶん魚は贅沢品なのだ。食べたいんだろうな。


「よし、オヤジ、六匹くれ」


「まいど。金貨6枚だ」


 めちゃくちゃ高価だった。たぶん合計6万円ぐらい。

アジほどの小魚なんだぞ?

俺は魚を受け取ると鮮度を保つために、さっさとインベントリに収納した。

これを目撃した奴らがフラグを立てていたことに、この時は気付かなかった。

美人を五人連れて、金貨を惜しげもなく買い物に使い、亜空間倉庫のスキルを持っている。

犯罪者から見たらカモだった。



◇  ◇  ◇  ◇  ◆



「待ちな」


 路地を通っていたら囲まれていた。

また強盗だ。

ニヤニヤ笑いながら俺に近づいて来た男が、プチを見て顔色を変えた。


「狂犬チワワ!」(作者注:チワワは現地語の小さい犬の意訳です)

「するとあの男が……」


 その声に男たちが一斉に逃げ出した。

プチ、狂犬と呼ばれているのかよ……。

強盗は撃退出来たけど嫌な気分になった。

こんなにカワイイのに……。



 そんな気分のまま冒険者ギルドに立ち寄る。

俺を見つけた受付嬢のクレアさんがカウンターから飛び出して駆け寄ってくる。

他の受付嬢に渡すものかという気迫が伺える。

俺は引きずられるようにしてクレアさんの受付窓口へと行く。


「クランド様、今日はどういったご用件でしょうか?」


「ちょっと素材を売ろうかと」


 クレアさんの目の色が変わった。


「それは良い廻り合わせです。今日の午後にオークションがありますよ?」


「オークションですか?」


「はい。ギルドが間に入って出品してもかまいませんが、一度見学がてら出品するのも良いのでは?」


 あら、俺が個人で出品したらギルドは儲からないのに、どうした風の吹き回しだ?


「今日は珍しい複合魔法の属性石が出品されるんですよ」


 え? それ創れますけど。


「おそらく100万Gはいくと思います。それを買えるのはクランド様のようなお金持ちだけですので……」


 つまり、出品はギルドで俺に落札してほしいと。


「いや、これでしょ? 俺は買わないよ」


 俺がインベントリから属性石を出すとクレアさんが気絶しそうになった。


「水と風の属性石! それもこんなに沢山! どうしてクランド様がそれを?

それは『ハイヒール』が付与できるので貴重なのですよ? 1000万Gはします」


「あ、そうなんだ。『クリーン』の生活魔法でしか使ったことが無かったから、そんなに貴重だとは思ってなかったよ」


「『クリーン』ですか? そんなの奴隷を買ってやらせればお釣りが来ますよ?」


 クレアさんが呆れる。

実験で作った光と聖の属性石の存在は黙っておこう。

何に使えるのかわからなかったけど、今の話からすると高レベル回復魔法が付与できそうだ。


「そうでしたか。話を戻しますが、この人数で来てますので時間がないのです。

素材はギルドへ売りたいのですが?」


 俺は受付に魔物素材を出す。

俺の言葉にがっかりした様子のクレアさんが気を取り直して対応する。


「ジェノサイドベアの毛皮が5枚に、グリーンドラゴンの鱗が2枚ですか。

ギルドで売ればジェノサイドベアの毛皮が1枚1000万G前後、これはサイズで買取値が変わります。

グリーンドラゴンの鱗が1枚5000万G前後です。状態や部位によってはもっと高くなります」


 クレアさんの目が光り査定をする。


「ジェノサイドベアの毛皮5枚で5172万G、グリーンドラゴンの鱗が2枚で1億3千万Gですね。

もったいないですね。グリーンドラゴンの鱗はオークションなら2億Gはいきますよ」


 どうしてもオークション参加を勧めたいのか、話しながらチラチラと目線を送ってくる。


「どうせ手数料で目減りするから変わらないでしょ?」


「確かに、手数料が主催者に1割、代理人を立てれば1割で合計2割取られますけど、それでも1億6千万Gは固いですよ?」


 その差がクレアさんの成績やボーナスに繋がるだろうに。

そこまで言うなら、オークション、やってみようかな?


「ニル、小型ワイバーンを呼べるか?」


「ん。主人、大丈夫。ピン子は賢い」


 あのワイバーン、ピン子という名前なのか……。


「ニルはピン子で皆を先導し、農場まで帰ってくれ。

俺は午後のオークションに参加した後でブルーに乗って帰る。

ターニャ、レッドはお前に任せる。馬と同じだ。ニルもいる大丈夫だ」


「ん」「はっ!」


「というわけで、買取はそのままでお願いする。オークションには違う物を出品する」


「それでは、買取価格は1億8172万Gということでよろしいですか?」


「ああ、ギルドカードにチャージしてくれ」


「はい」


 クレアがお金をギルドカードにチャージする。

残金はまだ4億G以上ある。


「クランド様は、ちなみに何を出品されるのですか?」


「グリーンドラゴンの頭部だ」 

「えっ!」


 クレアが驚きの声を上げる。


「つまり、クランド様はグリーンドラゴンの素材を一頭分お持ちなのですね?」


 ギルド内部が騒然とした。

それはグリーンドラゴンを討伐したことを意味するからだ。

鱗を数枚程度なら偶然手に入れることもあるが、一頭丸ごととなると討伐しないと手に入らない。

そういうことだ。

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