017 水道
朝起きると雪豹の毛皮(オークション価格1億G超)がカピカピだった。
俺の上にはサラーナが抱き着き、左脇にはターニャが、右脇にはアリマが抱き着いている。
ターニャの外側にナランが、アリマの外側にニルが寄り添って寝ていた。
ちなみにプチは頭の向こうだ。
俺はこっそり全員と毛皮に『クリーン』の魔法をかけ『ライト』を点けた。
早急に風呂を造らなければならないと決意する。
「どしてこうなった?」
放牧民三人を奴隷として買った翌日、俺は残りの二人も奴隷商から連れてきてしまった。
それがナランとニルだ。ちなみに二人の身体情報はこれ。
ナラン:人 17歳 茶色のポニーテール 黒眼 褐色肌 155cm Bカップ
ニル:人 15歳 銀色のサイドテール 薄い赤眼 薄い褐色肌 146cm Aカップ
これで奴隷商ダンキンに紹介された五人全員を引き取ったことになる。
俺は孤独が寂しかったのだろうか?
嫁になると息巻いて、好意を寄せてくれる女性の存在が嬉しかったのだろか?
純粋な好意をぶつけられ、その女性が悲しむところを見たくない、その思いで二人も引き取ってしまったのだろうか?
ハーレムという異世界ならではの非現実的な状況に溺れてしまったのだろうか?
結果はこの通り。大きな責任を抱え、それが少し嬉しくもあった。
ハーレムといえば個人の趣味に走って様々な種族を揃えるものなのかもしれない。
だが、俺のように放牧民、しかも同族ばっかり五人集めるって、どうなんだろう?
きっかけが家畜の世話が出来るという条件だっただけで、他のことに秀でた別の種族の女性を連れて来た方が良かったのではないかとも思う。
まあ全員が良好な関係で文化的な諍いが無い分、やりやすくもあるのかもしれない。
放牧民のキルト族と言うと、小さな部族単位で放牧をして彷徨って暮らしているかのように思っていた。
しかし、実態は全然違うらしい。
先祖が放牧民であり、生業も放牧なのでそう名乗っているだけで、定住して都市を築くほどには文明的らしい。
サラーナも王城に住んでいたらしいし、キルト族が国家として覇権をなしていたのは間違いない。
そんな王宮に詰めていたような三人に家畜の世話をさせるのもどうかと思ったのも、二人を追加しようとした理由かもしれない。
そんなことをつらつら考えていると、俺の上に抱き着いて寝ていたサラーナが起き出した。
「おはようございます、主様」
とびっきりの笑顔で朝の挨拶をしてくれた。
長い金髪が俺の胸まで垂れ、『ライト』に照らされて輝いている。
なんでサラーナが俺の上に抱き着いていたのかというと、これが正妻のポジションだからだそうだ。
妻の序列に関してはターニャが口を酸っぱくして意見具申して来た。
サラーナを値切って買ったのが良くないらしい。
新しく来たナランとニルがサラーナを低く見る可能性があるんだそうだ。
つまり購入価格=妻の価値という認識らしい。
嫁家への結納として牛何頭を持って行ったという風習に起因するものらしい。
購入価格的にはターニャとアリマが1000万Gで、ナランとニルが800万Gだった。
つまりサラーナの500万Gは蔑まれる可能性があるんだそうだ。
知らなければ良かったのだが、ダンキンが残った奴隷の教育のために割り引くことになったことを告げたらしく、サラーナの売値は知れ渡っていた。
それだけの価値しかなかった女、そんな評価になってしまうらしい。
そこで主である俺が明確に序列を示す必要があるんだとか。
その結果、このような配置で彼女たちと寝ることになったわけだ。
「おはよう。主君」
「おはようございます。旦那様」
「おはようございます。ご主人様」
「おはよ。主人」
ターニャ、アリマ、ナラン、ニルも起き出した。
全員薄布一枚なので眼福だ。
これでは何が目的で奴隷を買ったのか本末転倒な気がする。
彼女たちはこの後上階の個人部屋に赴き、着替えて各々の作業をすることになる。
そう個人部屋。簡易トイレのようだった塒の出入口を潰して屋敷を建てた。
寮じゃなく屋敷だ。相変わらず俺は遺跡を主寝室にしているのだが、妻も娶ったしきちんとした家を構えたのだ。
一階はキッチンダイニングとリビング、風呂場、洗面トイレ、倉庫。
地下が遺跡の主寝室。二階に個人の部屋8部屋と洗面トイレという間取りだ。
各々の作業だが、ターニャとナランが主に家畜の世話。
アリマが食事の支度と服飾仕事。街で買ってきた布でいろいろ作ってくれている。
ニルが果樹園の管理とワイバーンの世話。
サラーナは俺の横だ。
うん。サラーナは正妻なので仕事をしない。いや俺の横に侍るのが仕事か?
元王家の姫なので、見目麗しく気品もあるが、ここ農場だぞ?
今日の俺の作業はお馴染みの畑の管理。
人も増えたし、作物を増産するために畑を拡張する。
次に生活水を井戸を掘って屋敷に水道として引くこと。
今は甕に生活魔法の『ウォーター』で水を満たしているのだが、これを井戸水を汲んで蛇口を捻れば即水が出る状態にしたい。
そしてその水で風呂を完成させるのだ。
畑の拡張は慣れたもんで、塀や空堀も含めてサクッと魔法で終わらせる。
今後の拡張性も考えて塀と空堀を大幅に広げておいた。
この中の土地をその都度畑に変えていく予定だ。
畑にする前は一応そのまんま森なので、そこに住む獣まで取り込んでいるかと思われる。
なので、今ある塀と空堀はそのまま維持して、畑化したところから取り払う感じだ。
今ある畑は便宜上最初の畑の大きさを一面として三面分ある。
畑の他に果樹園が一面分。牧場が二面分だ。
牧場の面積が増えたのは、ターニャの要請による。
仕事が楽すぎるから家畜を増やせというご所望だった。
そこで羊と牛と鶏を倍に増やすことにした。
さらに、牛を追うために馬が欲しいというので馬も召喚した。
牧場に馬が三頭増えた。この馬がどうやら魔物だというのは内緒だ。
合計牛十頭、羊二十匹、馬三頭、鶏四十羽になった。
あ、それとワイバーン二頭。
ニルとワイバーンが意気投合してワイバーンがニルの乗騎になった。
体格の小さなニルにワイバーンは丁度の大きさだった。
そしてその姿を見たサラーナもワイバーンを欲しがって乗騎にした。
こっちは最初から乗騎として召喚したので、俺とサラーナの二人で乗れるほど大きい。
そのためニルがワイバーンの世話係に任命されたわけだ。
最初の畑の区画は屋敷と時間停止貯蔵庫になった。
取り入れた作物は俺のインベントリか時間停止貯蔵庫へ入れて保管する。
忘れていたが、旧従業員のゴーレム。
この二体も今まで通りの仕事は継続で、追加で塀の警備を仕事に加えた。
これは俺がやっていた仕事なので、少し楽が出来るようになった。
いや、他にもやることが多くて楽じゃないんだけどね。
「主様、これが畑仕事なのですか?」
サラーナがあまりの出鱈目ぶりに疑問の声をあげる。
「ここではそうだが、他所ではこうはいかないよ」
「さすがです。主様」
サラーナの目に♡が浮かぶ。
また惚れられてしまったようだ。
この力に愛情を示すという習性は何かに操作されてるわけじゃないよね?
奴隷契約の魔法式にあった性奴隷の記述が気になる。
本気で惚れていてくれないと、少々後ろめたい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
午後からいよいよ水道工事。
井戸を掘り、水を屋敷の屋根にあるタンクに揚水して屋敷内に水道を供給する。
これで行こうと思ったのだが、ポンプを作るならその動力の燃料石と制御の魔宝石で、水を出す魔道具が作れるんじゃないかと思い至った。
すると生産の極さんが仕事をして属性石のイメージが頭に浮かんできた。
属性石は燃料石に単一属性の魔法を記述し、その属性の仕事をさせるというものだ。
高価な魔宝石を使う必要がないので安価であることと、水や火(熱)を出すのはお手の物という便利グッズだ。
つまり水道の蛇口に水の属性石を使えばそのまま水が出る。
蛇口を捻るのではなく、起動の魔力を少し流すだけで水が出るのだ。
さて燃料石を手に入れてと思ったら、また生産の極さん。
あれだけ探索して手に入れた燃料石も錬金術でサクッと作れてしまった。
属性石も簡単に作れた。水の属性石と火の属性石をある程度の数作る。
水の属性石をキッチンから風呂、トイレ、洗面の蛇口まで取り付けていく。
水道管なんていらんかったんやorz。
そして風呂には火の属性石を取り付け、お湯を沸かせるようにする。
キッチンの竈もこれで魔導コンロにする。
生活の水準がぐんと上がった気がする。
「よし風呂の試運転だ! サラーナ、やってみろ」
俺はずっと横にいて役に立っていなかったサラーナに風呂を入れるよう指示した。
「主様、水が出てきます」
「よし、魔力はサラーナでも十分足りるな?」
水が溜まったら次は湯沸かしだ。
「主様、水が温かくなって来ました!」
「よしよし、頃合いだな。入るぞ」
俺は湯の温度を手で確かめて風呂に入ろうと服を脱ぎ始めた。
「はい」
え? サラーナさんなんで頬を赤く染めてるの?
ちょっと! 脱ぎ始めたってことは一緒に入るの?
俺は人生初混浴を堪能した。
これが幸せなスローライフか。(違う)
プチがやきもちを焼いて風呂に飛び込んできた。
石鹸、買い忘れたな。




