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フェニックス ⑤

 かわいらしく鳴き声をあげるフェニックスを見てネノが目を瞬かせる。

 ネノは、そのフェニックスを可愛いと思っているのだろう。そんなネノの表情に俺は笑った。何だろう、可愛いネノが可愛いものを愛でているってだけで嬉しくなるものだ。

 だけどただそれを愛でているだけというのは出来ない。

 その場に大きな鳴き声が響いた。

 ドスンドスンという大きな音もする。――そこには、一体のドラゴンがいた。わざわざドラゴンがフェニックスを食べに来たのだろうか。それにしてもこれだけの巨体が何時の間にこんな傍にやってきたのだろうか。

 なんて考えていたらそのドラゴンから声をかけられる。

『ふん、人間か。そのフェニックスをよこせ』

 その赤色の鱗に覆われたドラゴンは、知性を持つドラゴンらしい。そのドラゴンはわざわざこのフェニックスを食べたいと望んでいて、此処にきているようだ。正直言ってドラゴンなんて不老に近い存在で、圧倒的なこの世界での強者であるのに、フェニックスを食べようとするなんて何を考えているのだろうかなんて呆れてしまう。

 まぁ、弱い者が強い者に食べられるのはある意味当たり前のことだから、俺がどうこういうことではないけれど、俺とネノはこのフェニックスを助けることを決めているので、このドラゴンと敵対することを決める。

 バーナンドさんたちは腰を抜かしている。ドラゴンというのは自然災害のような恐ろしい存在である。遭遇すれば死ぬと言われている。

「煩いなぁ。レオ様とネノ様がこいつのこと、食べちゃ駄目って言ってんだよ? 駄目だよ」

『む、お主は俺の同類か』

 ドラゴン同士、相手がドラゴンであるというのが分かるのだろう。

 メルの言葉にそのドラゴンが答える。何だかメルが相手にする気満々なので、俺とネノはのんびりとフェニックスと戯れる。

「《勇者の盾》」

 ネノは《勇者の盾》を出現させて、ドラゴンたちの戦いの巻き添えを食らわないようにしてくれた。

「『勇者』様……ど、どうしたら」

「大丈夫。メルはとっても強い。貴方達が心配するようなことは何もない。安心していい」

「で、でも」

「あのドラゴン、見る目ない。ちゃんと見る目があれば、メルが自分よりも上位種であるって分かるはず」

 まだ若いドラゴンなのか、それともドラゴンとして生きてきたからだろうか……圧倒的強者であるという余裕があって、そのドラゴンはメルのことも侮っているように見える。

 人間である俺たちと一緒にいるからというのもあるかもしれない。ああいう知性のあるドラゴンは人間のことを見下しているやつが多いしなぁ。

「こいつ、可愛いなぁ」

 俺はフェニックスの赤ちゃんの頭を撫でる。俺の手が燃えないようにしてくれているのが分かって、余計に可愛いなぁと思った。

 それにしてもフェニックスって不思議な生物だ。こんなに小さくても力強い生命力を持っているのが分かる。産まれなおす前の記憶も残っているのか、俺たちに対して人見知りなども全くしていないようである。

 その産まれなおしたばかりのフェニックスは、メルたちの方を興味深そうに見ている。

 自分を食べに来た恐ろしいドラゴンがいるというのに、フェニックスは恐れている様子は全くない。これは俺たちが傍にいるからなのだろうか。それとも本能的にメルがあのドラゴンに負けないと思っているからなのだろうか。とても落ち着いた様子を見せている。

 バーナンドさん達は腰を抜かしたままなのと比べると、何とも落ち着いている。

 俺は膝の上にフェニックスを乗せて、その小さなフェニックスと一緒にメルたちの方を見る。

「あのさぁ、弱いものほどよく吠えるっていうよね? 僕のことを馬鹿にしているのもむかつくし、何よりレオ様とネノ様のことをタダの人間なんて見る目が全くなさすぎるよ! レオ様、ネノ様、こいつ、僕が食らっていい?」

「うん。どうぞ」

 ネノが許可を出す言葉を口にすれば、メルはにっこりと笑って、本来の姿に変化していく。巨大なドラゴンがその場に姿をあらわす。フェニックスを食べに来たドラゴンよりも少し小さいだろうか。まぁ、メルはまだドラゴンの中では幼いのでそれも仕方ないだろう。

 でも身体の大きさが違ったとしても、俺もネノもメルが負けるなんて思っていない。ドラゴンも、メルの本来の姿に一瞬怯んだようだ。メルのドラゴンとしての種族は、ドラゴンたちの中でも特別な意味を持つのかもしれない。

 でもネノがまだ子供だからこそ、勝てると思ったのだろうか。

 そのドラゴンは、メルへと襲い掛かった。

「メルも久しぶりにがっつり食事を取れそうで良かったな」

「うん。それにこれだけ思いっきり運動出来たら、メルも楽しいだろうし」

 メルはそのドラゴンを食べる気満々である。俺とネノも別にそれを止める気はない。というか、フェニックスを食らおうとしているのだから、誰かに食べられる覚悟もしているべきだよな。

 食べるからには食べられる覚悟を。倒すからには倒される覚悟を。

 そういうのって大事だと思う。



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