フェニックス ③
バーナンドさんたちは、俺とネノが躊躇いもせずにフェニックスと触れ合っているのを見て驚いていた。
バーナンドさんたちにとって、フェニックスは神聖な生き物である。だからこそ、フェニックスを触るのは恐れ多いと思っているのかもしれない。それに下手な気持ちで触ればフェニックスの炎で焼かれてしまうことを考えて、恐怖しているというのもあるのかもしれない。
正直なところ、俺とネノはフェニックスが俺たちを燃やす気がないと言う確信をもって触っていた。もし燃やそうとしていたとしてもそれはそれでどうにでも出来ると思っている。だからこそ簡単に触れた。メルに関してはドラゴンなので、燃えたとしても問題がない。
だから俺たちは躊躇いもせずにフェニックスと接している。
「それでバーナンドさん、フェニックスはいつ頃生まれ変わりそうなんですか?」
「そうだなぁ。あともう少しだとは思うが、明確にどのくらいで産まれるのかは分かっていないんだ」
「そうなんですね……。となると、生まれ変わったフェニックスを狙う魔物も襲い掛かってくるだろうし、このフェニックスって移動できないんですかね。店の近くにまで連れていけた方が……」
途中までいいかけただけでギロリとバーナンドさんの後ろにいた人に睨まれてしまった。神聖な存在であるフェニックスのことを連れ出そうとしているように見えたのかもしれない。
フェニックスは俺の言葉に反応を示して首を振っていた。
フェニックス自身は俺の言葉に怒ったりしているわけではないが、卵は此処で温める必要があるのかもしれない。
そうなると、俺たちが見ていない間にフェニックスが生まれ変わって、魔物に喰われてしまったらちょっと寝覚めが悪い。
「じゃあネノ、どうする? 店もお客がほぼ来ないとはいえ、放置しっぱなしってのは嫌だしさ」
「交互。順番に此処を見守る。そしたらどうにでもなる。とりあえず、メル、この子、守って」
「いいけど、この生意気な鳥、僕の事、嫌がってるじゃん! 僕が触っても熱いし」
俺の問いかけに、ネノが答えて、その後、メルが言う。
というか、メルが生意気な鳥とかいうからバーナンドさんの後ろの人が怖い顔をしているし。メルがドラゴンだとしてもフェニックスにそういう言い方をするのが嫌なのだろうか。それともちゃんとメルがドラゴンだって伝わっていないのか。
まぁ、どちらでもいいか。
でもやっぱり彼らからしてみれば俺やメルがフェニックスを守れると思っていないのかもしれない。何だかんだ、『勇者』であるネノだからこそフェニックスを守れると思っているのかもしれない。
やっぱり『勇者』って肩書は、周りから信用を勝ち取る重要な肩書ではあるんだよな。
「メルはどんな魔物にでも負けないから、大丈夫。メルに勝てるような魔物はこのあたりにはいない」
ネノがそう言い切ったら安心はしてくれたようだ。あとメルだけでは心配だからとバーナンドさんたちも守るために残るんだそうだ。
メルは「えー、人間がいると余計に邪魔だよ」なんて口にしていた。
メルは力の強い魔物だから、人間が周りにいてもやりにくいのだろう。
「レオ様、ネノ様、僕、フェニックスをちゃんと守るよ。だから褒めてね!!」
「ちゃんとフェニックスのことを守ったらな」
「うん。少しでも傷ついたら駄目。それ、メルの仕事」
メルはおおざっぱな性格をしているから、少しぐらいならいいかとそういう守り方をするかもしれない。だから二人してそう言っておく。
そしたらメルは「はーい」と少し不満そうにしながらも頷いた。
「じゃあ、ネノ、一回帰るか」
「うん。一度、戻る」
ネノは俺の言葉に頷く。
俺とネノはフェニックスの頭を撫でてから、その場を後にすることにする。
バーナンドさんたちを置いて、下山していった。
宿に戻ってから、ネノとのんびり過ごす。
フェニックスが生まれ変わった後に、フェニックスの事を食らおうとしている魔物をどうにかする。それは別にいいのだけど、それだけやっていると退屈かもしれない。
「ネノ、俺、明日からしばらく小屋作りでもする。そのうち肉や卵も育てたいからそれ用の小屋作っておく」
「うん。了解」
そういうわけでしばらく俺たちは順番にフェニックスを守りながら、小屋の制作に励むことにした。
メルは想像通り、フェニックスとは仲良くはならなかった。でも仲が悪くもないらしい。バーナンドさん曰く、メルがフェニックスの傍にいる時はハラハラしたらしいけれど、喧嘩仲間といった感じらしい。
逆に俺とネノがフェニックスの傍にいる時は、落ち着いているんだどな。まだ生まれる前の卵にも触らせてくれたし。卵は冷たかった。
というかフェニックスが生まれなおすということは、今、この卵の中の身体には魂がないってことなのだろうか。フェニックスは不思議な生物だよなと改めて思った。
そしてそうやって過ごしているうちに、フェニックスが生まれなおす日が近づいてきた。




