フェニックス ②
燃えるような赤――いや、真実燃えていると言えるのかもしれない。強烈な赤がそこにある。火の鳥と呼ばれるだけあって、フェニックスは炎を纏っている。炎に包まれているというのに巣が燃えることはない。その炎は敵対者にのみ牙を剥くということだろうか。
大きな卵――その卵から、新たなフェニックスが産まれるのだろうか。
何だかそう考えるとわくわくとした気持ちが芽生えてくる。隣にいるネノとメルを見る。ネノもフェニックスの生態に興味津々な様子である。メルに関しては卵に対して食欲がわいているっぽいが……まぁ、とりあえずそれはおいておこう。
フェニックスは一瞬、俺たちに警戒するような目を向けたが、バーナンドさんを見て大人しくなった。バーナンドさんたちが自分を傷つけないことを知っていて、そんなバーナンドさんたちが連れてきた俺たちだからこそそういう態度をしているのだろう。
フェニックスは、強大な力を持つ魔物のように思える。
フェニックスは、こうして生まれる子供へと自分を引き継ぐ時期だからこそ、弱るということなのだろうか。
「バーナンドさん、フェニックスはとても強大な力を持つ魔物に見えますけど、それだけフェニックスを狙っている魔物は危険な魔物なんですか?」
「ああ。そうだ。暴食の魔物と呼ばれている虫型の魔物で、鳥系の魔物が好物らしい。本来の住処は此処ではないのだが、フェニックスが生まれ変わることを何処からか知ってか、やってきている。その魔物に釣られて他の魔物も沢山来ているんだ」
――魔物の世界では、そういう兆候を知ることが出来るということなのだろうか。そう思いながら、俺はメルの方を見る。
「なぁ、メル、そういうの感じられるものなのか?」
「ん?」
「……って何を食べているんだ?」
バーナンドさんと話していたら、気づけばメルが何か食べていた。黄色の果物のようなものをもしゃもしゃと食べている。
「そこに落ちてたの! 美味しい!!」
「そうか……。それで、メル、魔物は他の魔物が生まれ変わる時期とか分かるものなのか?」
「んー……、知ろうと思えば分かると思うよ。魔力の流れとか、環境の変化とか、そういうの気を付けていれば分かるし。特にその魔物がフェニックスのことを狙っていたっていうのならば、ずっとフェニックスの住んでいる周辺の魔力の流れを観察していたんじゃない? 強い魔物がいればそれだけ周りに影響を与える力は強いしね」
メルはそんなことを簡単に言ってのけた。
でもまぁ、そう考えると確かにそうなのかもしれないと思った。俺も食材を集める時には、その魔物を狩りやすい時期を考えるわけで、その該当の魔物がフェニックスを獲物として目をつけていて狩ろうと思っているのならばこういう時期を狙うのは当然である。
……この世界は弱肉強食。自然界は特にその傾向が強い。
俺たちはバーナンドさんに出会って、バーナンドさんたちに頼まれたからフェニックスを守る立場に今はいるが、そうでなかったのならば俺たちはフェニックスを食べるために狩っていたかもしれない。
一つ一つの出会いが、俺たちがどのように選択していくかを決めていくのだ。
「だからレオ様たちの故郷の村も、僕とレオ様っていう強敵がいなくなったからそれなりに魔物が集まってきているかもね。魔物除けおいてきたから村は問題ないだろうけど。レオ様とネノ様が鍛えた村人もいるし」
……なんかその言い方だと俺も魔物枠みたいなんだが。
何とも言えない気持ちになりながらその話を聞いていた。
それにしてもよっぽどそのフェニックスを狙っている魔物は、フェニックスを食べたくて仕方がないのだろう。こうしてバーナンドさんのようにフェニックスを守っている存在がいることを知っていても狙ってくるのだから。
そんなことを考えている間にネノがフェニックスに近づいていた。
「貴方、もうすぐ生まれ変わるの?」
そう言いながらまじまじとフェニックスと巨大な卵を見ている。近づいてきたネノのことをフェニックスが警戒していないのは、ネノが『勇者』という立場にあるからというのもあるだろうか。
神聖な生き物は、『勇者』という存在を特別に感じると言うのも聞いたことがあるし。それにしてもこれだけ特徴的な魔物はあまりいないから、俺もフェニックスを見て楽しい気持ちになってくる。
もしフェニックスが魔物に食べられてしまったら、このフェニックスという美しい魔物はいなくなってしまうのだろうか。ただ一匹しか存在しないのか、それともここには一匹しかいないけれど、他の場所にはフェニックスがいるのか。
そのあたりは分からないけれど、こういう美しい魔物がいなくなるのは嫌だなと思ったので、俺はすっかりフェニックスが食べられないようにする気満々である。
それはネノも一緒だったのだろう。フェニックスの身体を撫でるネノは、無表情に見えるけれど楽しそうだ。
俺も撫でたくなってフェニックスに近づく。撫でれば、フェニックスは嬉しそうに鳴き声を上げる。
熱いかと思ったが、燃えているように見えても熱くない。それはフェニックスがこちらに敵対心がないからということだろうか。
ちなみにメルはフェニックスが美味しそうと思っている本心を悟られているのか、撫でようとして「あつっ」と手を離していた。




