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男の話 5

「フェニックスというのは? 火の鳥だとは知っているけど、それがどうして危機なの」

 ネノはフェニックスというその名前を聞いても淡々としていた。ネノは基本的にそういう子である。何を聞いても落ち着いているというか――あまり取り乱すことはない。

 ネノにとってフェニックスという存在に興味がないわけではないだろう。ネノは俺と一緒で色んなものを見に行くことに興味を抱いているから、フェニックス自体には関心がないわけではない。

 だけど、ネノの態度に彼らは焦ってしまったらしい。ネノが話を聞いてくれないと思ったようだ。

「『勇者』様!! どうか、どうか本当に助けてください。私たちは『勇者』様が望むものならばなんだってお渡しします。だから――」

「……それはいい。それよりも私は聞いているの。何が危機なのか」

「ネノ、多分、この人たちはネノが話を聞いてくれないと必死なんだよ」

「そう言われても。私は関心がないわけではない。でも答えてくれないなら判断もつかない」

 ネノは淡々とそう告げる。

 本当に表情が分かりにくい。でもだからこそ、ネノらしい。こういうネノを見て、愛おしいなと俺はいつだって思ってしまう。

 ネノの言葉に彼らははっとなる。その中で一番冷静だったのはバーナンドさんである。バーナンドさんが説明するために口を開く。

「俺たちが神として崇めているフェニックスは、火に包まれ、不死の特性を持つ鳥です。そのフェニックスの不死というのは、生まれ変わり続けることを指します」

「生まれ変わり続ける?」

「はい。フェニックスは、百年から数百年に一度、生まれ変わるのです。卵を産み、その卵から産まれかわった瞬間、元のフェニックスは燃えて消えていきます。――ちょうどその時期を迎えております」

 バーナンドさんの言葉を聞いて、俺は初めて知った事実だったので驚いた。

 俺は人から話を聞いたり、本を読んだりして、それなりに魔物についての情報を知っている。魔物退治もよくやっている。けれどやっぱり実際に見て、実際に赴かないと分からないことは沢山あるのだろうと思った。

 こうして知らない情報を知り、見た事ない風景を見るためにこうして旅をしているのだから、少しだけ楽しい気持ちになった。

 まぁ、危機に陥っているというのは、楽しんでいい話題ではないわけだけど。メルもへぇ……って表情だ。

 バーナンドさんたちは必死だが、俺もネノもメルも、世間話を聞いているような態度で聞いている。――でも俺はまだ詳しくは聞けていないけれどバーナンドさんを助けてもいいかなとは思っている。ただ頼まれているのはネノだし、そのあたりはネノが判断をすることだけれど。

「それで、どうして危機なの?」

「生まれ変わる時のフェニックスは、いつもよりも弱ってしまうのです。フェニックスは元々不死鳥として、人や魔物に狙われているものです。人は不死鳥を食らうことで不死になれると信じ、魔物は何故かはわからないがフェニックスを食すことを望んでいるのです」

 不死鳥、火の鳥――そう呼ばれるフェニックスは、その名前からしてもとても強大な魔物に思われる。実際にフェニックスは強い魔物だろう。――それでも生まれ変わる時は、弱弱しくなるらしい。

「その時期を狙っているものがいます。人は今の所見られておりませんが、魔物はフェニックスが生まれ変わることを知っているのか、フェニックスの巣の周りで、フェニックスを狙っているのです。その魔物を俺たちは撃退しています。しかし……、日に日に魔物が増え、強大な魔物は俺たちが倒すことが出来ないほどです。だから、フェニックスを守ってほしいのです」

 彼らはフェニックスのことを本当に大切に思っているのだろう。欲深い人間は、フェニックスを食らおうとするだろう。自分のことしか考えていなければ、それを食すことを望むだろう。だけどそういう魅力があっても、バーナンドさんたちはフェニックスを守ろうとしている。

 まぁ、魔物の世界は弱肉強食で、フェニックスが食べられるなら食べられるのも自然の摂理だ。とはいえ、結局のところ、どっちの味方をしたいかどうかだよな。

 ネノをちらりと見る。

 ネノは無表情に見えるけれど、少しだけ興味を惹かれた顔をしている。その顔を見ているだけで、ネノがどうするのかはすぐにわかった。

「――いいよ。助けてあげる。フェニックスに興味もあるし」

 ネノがそう言えば、バーナンドさんたちはほっとした顔をした。

 それにしてもフェニックスかぁ。俺たちはフェニックスを見たことがないし、見るの楽しみだ。ちなみにメルがぼそりっと、「……そんなに美味しいの?」と呟いていたのは、俺にしか聞こえなかったようで良かった。

 まあ、メルも魔物だから美味しいものだったら本能のままに興味を抱くのも当然だろう。それに俺たちが止めればメルは食べようとはしないだろうから、いいかと思った。




 ――そして俺たちはフェニックスの巣にその後向かうことになった。





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