男の話 4
メルにバーナンドさんたちを迎えに行ってもらっている間に、俺は料理を準備した。この場所は今は人が中々来ないとはいえ、宿なのだから、出来ればもてなしをしたい。
色んな場所で宿をするのが俺たちの目標で、だからこそこういう場所に来ているけれどお客さんになってくれるならば幾らでもなってほしい。
そういえばネノはいつ戻ってくるだろうか?
獲れるものを見てくると出かけて行ったけれど。……というかバーナンドさんたちは俺と話したいっていうよりも、ネノと話したいって気持ちの方が強そうだしな。『勇者』なのはネノであって、俺はあくまで『勇者』であるネノの旦那でしかないから。
でもまぁ、ネノを待ちたいというのならばその間のんびりしてもらえばいいか。
そんなことを考えながら料理の準備をしていった。
しばらくしたらメルがバーナンドさんたちを連れてきた。
「レオニードさん、こんにちは。『勇者』様はいらっしゃらないのか?」
「ネノはちょっと出かけてます」
俺がそう口にしたら、バーナンドさんがつれてきていた者たちはがっかりした表情をした。バーナンドさんはそういう表情をしてはいなかったけれど……。ちなみにそれを見てメルは不満そうな表情をしていた。
「レオ様に――」
「メル、いいから。ちょっと静かにな。それで、バーナンドさん、ネノが戻ってくるまでご飯でも食べますか? 初回ってことで安くはしますが」
「では、頼みたい。そうだなぁ、何なら出せるのか?」
「そうですね」
バーナンドさん以外の人たちは俺のことを胡散臭い目で見ていたりするけれど、バーナンドさんは料理を食べてくれるらしい。
まぁ、俺がネノの夫だとしても、俺のことを信用出来ないのも仕方がないだろう。
そういうわけでバーナンドさんに注文を受け、料理を出す。バーナンドさん以外は、バーナンドさんが食べてから、食べ始めた。毒とか入ってないけれど、こんなところで宿をやっている時点で彼らにとってみれば、怪しいのかもしれない。
だけど食事を取ったら、「美味しい」と口にしてくれて俺は嬉しかった。メルも食べたそうにしていたけれど、一応バーナンドさんたちはお客さんなので、お客さんが帰った後に食べるように言い来るめておいた。
食事を終えてもまだネノは戻ってきていないので、しばらくはゆっくりしてもらうことにした。
椅子に座ってのんびりしてもらっている間、バーナンドさんたちは難しい顔で話し合いをしていた。
そうしている間に、ネノが戻ってきた。
「ただいま」
ネノの姿を見てバーナンドさんたちが椅子からばっと立ち上がる。そしてネノの前で頭を下げる。
「『勇者』様!! 私たちをどうか助けてくれませんか」
「何、突然」
ネノはそう言いながらひとまず俺とメルの方へとやってきた。ネノとしてみれば、帰宅したら沢山人がいて意味が分からないといった状況なのかもしれない。無視された形のバーナンドさんたちは少し固まっていた。
「ネノ、バーナンドさんたちはネノに話しがあるんだって」
「ふぅん」
ネノはそう言いながら俺のすぐ傍の椅子に座り込んで、バーナンドさんたちを見る。
「それで、助けてほしいっていうのは。何? 聞いてから考えるけれど」
ネノは相変わらずの無表情である。その淡々とした口調にバーナンドさんたちは少し怯んでいた。ネノは基本的に人に優しいわけではない。それでもネノはバーナンドさんたちを邪険に思ってこういう態度なわけではない。
『勇者』と聞くと、誰にでも優しくて、どんな人でも助けるようなそういう人を想像する人は多いけれど、ネノは『勇者』としての一面よりもネノというただの女の子としての一面の方が強い人間だしな。
「……え、えっと、『勇者』様。実は……俺たちの神を助けてほしいのです」
「神様?」
神と聞いて、ネノは不思議そうな顔をする。一見すると無表情だけど、ネノの心が少し動かされているのが俺には分かる。
この世界では神様というのは身近な存在だ。『勇者』であるネノも神様から力を与えられている存在であるし。
あらゆるものを神様として信仰するものたちだって世の中にはいるので、一概に神様といえど何を指しているかは分からないけれど。
世の中には、特定の村でだけ信仰されている神様なんてものもいる。それは周りからしてみれば神様と呼べる存在ではなかったりする。
こういう場所に住んでいるバーナンドさんたちの神様というのは、そういう神様なのではないかと思った。そもそも『勇者』に加護を与えるようなそういう誰にでも知られている力のある神様ならば、危険に扮することなんてありえないだろうし。
「――神様っていうのは?」
「……この山に住まう俺たちの神様――火の鳥フェニックスが危機に陥っているんです。だから、助けていただきたいのです」
バーナンドさんはそう言い切った。
火の鳥・フェニックス。
それがバーナンドさんたちが大切にしている存在らしい。




