連れてこられた男 1
「メル、何処から拾ってきた?」
「ん? そこだよ?」
メルは男を並べた椅子の上に寝かせる。そして俺の問いかけににこにこと笑いながら答える。
そことだけ答えられてもそこが何処かは俺には分からない。とりあえずこの気絶している男は気絶しているだけのようだ。それにはほっとする。これでメルがショック死でもさせていたりしたら目覚めが悪い。
「そこってどこだ? 山の中だよな?」
「うん。そうだよ」
その言葉に俺は男に視線を向けながら考える。
この男の服装は、冒険者という感じではない。普通にここで生活をしているようなそういう服装である。そう考えると俺が見て回って見つけられなかっただけでこの山に住んでいる人がいるということか?
だけれども、こんな山の中に、それも火山にわざわざ住む理由はなんだろうか。
俺だったら――いや、俺とネノならばこうしてこんな山奥で暮らすことは造作でもない。やろうと思えば幾らでも出来るだろう。だけど、普通ならこんな場所にはすまない。
「レオ様? 何か考えているの?」
不思議そうにメルが首をかしげて俺のことを見上げる。
こいつは本当に何も考えてなさそうでいいなぁ。
メルはまだ精神的には子供だからこそ、そういう無邪気さがあるのだろう。
「何でこんな場所に住んでいるんだろうってそれを思ってさ」
「んー? でも誰でも大丈夫じゃない?」
「いや、それは無理だからな? ドラゴン基準で考えるな」
「レオ様とネノ様なら余裕だよね? あ、でも二人だからか……。でもそう考えるとなんでこんな所いるんだろうね? 不思議だよね」
「そうだよな。何か此処に住まなきゃいけない理由があるのか。他の理由があるのか」
此処に住まなければならない何かしらの理由があるのか。
それとも普通の場所には住めなくなったという何かしらの理由があるのか。
そのあたりが分からない。とりあえずこの人が目を覚めたら、メルが何かやって気絶しただろうから、まず謝らないと。それから情報を聞き出そう。この山奥に住んでいるのならばお客さんになってくれる可能性も高いし。
来ないなら来ないでのんびりするけど、来るなら来るでお客さんは嬉しいからなぁ。
でもこういう山奥で住んでいる人だと警戒心も強そうだから俺たちの事をまず信じるかどうかだよな。『勇者』のネームバリューがここまで広まっているのならばどうにかなりそうだけど。
言ってしまえばこんな山奥で宿を突然運営始める存在なんて変人である。自分達ではなければ驚くことだろう。
そんなわけで俺としてもどうやってお客さんになってもらえるかなと思案中である。ネノが戻ってきたら是非とも一緒に考えたいな。
「人間って不思議だよね。別にそういうことを考えずに自分がしたいようにしたらいいのにさ」
やっぱりメルは人化していても考え方がはっきりとしている。
そんなこんなメルと話している間も、全く気絶している男は起きる気配がない。この人が起きた時にご飯でも食べてもらおうか? それで俺の料理を気に入ってくれて、追加でまた来てくれたら一番良いな。
「メル、何か食べたいものあるか?」
「わ、レオ様、何か作るの? えっとねー、じゃあね、僕、この辺の魔物を使った料理食べたいかな。あの街で魚系のもの沢山食べたし、違うのも食べたいなーって」
「この火山でとれたものか……まだまだ全部は見てはいないから食材も少ないけれど、とりあえず作るか」
正直言って、まだまだ食材は少ししか手に入っていない。でも折角だからここでとれた魔物の肉で新しく色々作ってみようかなと思う。
ネノもこの辺の山菜とかで炒め物を作っていたから俺も作ってみたいしな。
とりあえずお肉を煮詰めてみるか。味付けはこのあたりで採れた木の実とかを使って行う。お肉を煮詰めるのもいいよなぁ。水は魔法具として作ってあるからすぐに新鮮な水がくめるしな。でもこの山の中で良い水が手に入る場所があったら繋いでおきたい気もするな。そのあたりも考えないと。
お肉を煮込むのは時間がかかるけれど、美味しそうな匂いがしてきてお腹がすいてくる。メルが「食べたいなー」っていう目で俺を見ている。
出来てからな、と口にしたらちょっと不満そうだが待ってくれるらしい。ちなみに米も今回は炊いている。ご飯があった方が美味しそうだからな。
それにしてもこれだけ匂いがしているのに、男の人は目覚める気配がいない。本当によっぽど衝撃を受けて気絶したのだろうか。よく分からないが、起きるまで待っておこう。
そんなこんなしていると、ネノが帰ってきた。
「ただいま。その人、誰?」
「おかえり、ネノ。メルが見つけたって連れてきたんだよ。中々目が覚めないんだ」
「そっか。ふぅん。ここ、住んでるっぽい?」
「そうだな。多分、住んでいるんじゃないか?」
「話聞くの楽しそう。あと、美味しそうな匂い」
ネノも俺と同じで、話を聞くのが楽しみなようある。
それからまたしばらくご飯の準備をしたり、ネノとメルと話していればようやく男が目を覚ました。




