火山への道中 2
火山の麓へとたどり着いた。
麓から頂上を見上げる。どこまでも高く伸びる火山は――、何か強大な力があるように見えてくる。頂上が見えないようなそんな巨大な山脈……、基本的に人が登ることを想定していない山なのだろう――そこに道というものはほとんどないと言えるだろう。
そもそも自然豊かな場所というのは、魔物が多く現れる場所である。魔王が倒されて魔物の活性化が収まっているとはいえ、魔物がいないわけではない。
そう言う場所には魔物退治に向かったり、素材を収集する仕事をする者たちぐらいしか行かないのである。
「ネノ、このまま登るか?」
「……もう夜だから、少し休んで登る」
「そうだな。一旦、此処で一休みするか」
ゆっくり周りを見渡しながら火山の麓まで向かっていたので、すっかり時刻は夜である。街中から見上げる星空も良いものだけど、こうして誰もいない所で見上げる星々も美しい。
家を取り出して、その場に出す。魔物に襲われないようにもしている。
家の中に入ったからといって、すぐに眠るわけではない。これから登る山頂では、客というものはほとんど来ないだろう。でもだからといって、宿業をおろそかにするつもりはない。
それに予想外の客も来るかもしれないしな。山頂でどんな日々を過ごせるか、楽しみで仕方がない。
今、少しずつ作っているのは、空調を整える魔法具や火山の場で飲むとすっきりするような冷たい飲み物を作っていこうと思っているのだ。
山頂に近づけば近づくほど、周りの気温も高温になり、そこで生身の人間が過ごすのは難しいのだ。俺やネノは魔法を使ってどうにでも出来るけど。
自分たちで過ごしやすいようにと、それらを整えておくことは良いことだろう。今後、もっと色んな環境の場所に店を構えることもあるだろうから、色んな準備をしておかないとな。
そうやって作業していたら、ぴたりと後ろからネノが抱き着いてくる。
「ネノ、どうした?」
「くっつきたかっただけ」
俺が魔法具や飲み物の準備に熱中していて、寂しくなったのかもしれない。俺のネノが本当に可愛い。俺もネノが俺に構うことなく作業していたら寂しいしな。
ネノはあまり人に触れられるのも、人と接するのも好きではない。だけど、俺のことを好いてくれているから、こうして自分から触れてくれるのだ。
作業を中断して、ネノにキスを落とす。可愛いなぁ、とそのまま、ネノのことを抱き上げてベッドへと向かった。
……朝になってからメルに「いちゃいちゃしすぎ!!」って顔を真っ赤にして怒られた。俺とネノは夫婦なのだからいちゃいちゃして当然だろう。それに此処は人がいない歯止めもきかなくなっていくものだ。
「ネノ、朝ごはんは何にする?」
「レオが作るものなら、なんでもよい」
朝からネノは嬉しいことを言っていた。
ネノは少しだけ眠たそうだ。それに対して、メルは朝からすっかり目を覚ましているのか、元気である。
「レオ様、ネノ様、ご飯食べたら山頂目指すの?」
「そうだな。ご飯食べてからな」
メルは今すぐにでも山頂に登りたいとうずうずしているようだ。メルは竜だし、一食ぐらい抜いても問題はないだろうけど、人である俺達は食事を抜くと大変だ。
俺とネノが幾ら強かったとしても、食事を抜いてしまったら空腹で倒れてしまうだろう。《時空魔法》で食材を確保してあるから問題はないかもしれないが、それでも一食一食を大事にしたほうがいいだろう。
朝から用意したのは、港街で手に入れた魚を使って、おにぎりを作った。朝からそんなにがっつりしたものを食べられないしな。
「おいしい」
「レオ様、これ美味しいね!!」
ネノとメルが美味しいと口にしてにこにこと笑ってくれるのを見ると何だか嬉しくなった。
やはり誰かに美味しいと言ってもらえるのは嬉しいものだ。
「火山の山頂は何があるのかなー。というか、地面が平らじゃないから家や店を建てるのも大変そうじゃない? どうやって建てるの?」
「平じゃないなら無理やり平にする。魔法でどうにでもなるからな」
「山頂の宿屋……って、響き良いね」
メルの言葉に俺が答えて、ネノが楽しそうに呟く。
山頂にある宿屋、というその響きだけでも何だかどんな場所だろうかと楽しみになるようなものだと思う。
客が来なかったらのんびりと次の宿の設営場所に向けて、宿の設備の強化をしたり、ゆっくり過ごす。
客が来たらその客をもてなす。ついでに言えば、そういう客がいるのならば是非ともどうしてこんな場所にいるかも話を聞いたら楽しいかもしれない。
『勇者』として旅をしていたネノはともかく、俺は外の世界というものをそこまで知っているわけではない。色んな話を聞いて、視野を広めていければなと思っているのだ。
折角だから、誰か客が来たらいいなーとそんな風に思いながらおにぎりを食べた。




