火山への道中 1
「こっちであってる?」
「多分、あってると思うけれど……、まぁ、違ったら違ったで目的地を変えるだけだしな」
ネノの言葉に、俺は答える。
港町を後にして、俺達は火山へと向かっている。港街を後にしてからしばらくネノとメルと一緒に歩いている。
もっと素早く移動する事も出来るのだけど、折角だからゆっくり周りを見て回りながら歩くのもまた良いものだ。
ネノと一緒に、また色んな景色が見て回れると思うだけで何だか楽しみになってくる。ネノもきっと同じ気持ちでいてくれているだろう。
「僕もどこでもいいよ。僕はレオ様とネノ様とならきっと楽しいもん!!」
メルはそう言って、こちらを振り向く。
ちなみにメルは俺やネノよりも張り切っているのか、楽しみで仕方がないのか……一人で先に進んでいたのだ。メルはドラゴンというのもあり、その体力は計り知れない。
「ん。でもたどり着けるなら火山行く」
「火山だとどういう客がくるかな?」
「旅人とか?」
街と違って火山の近くで宿を行うというのならば、客層も全く違うことになるだろう。そもそも宿の客というものがいるのかさえ分からない。
まぁ、例えそういう客がいなかったとしても問題はない。港街で金銭は稼げているし、そもそもただ生活するだけならば自給自足も出来るから問題はないのである。
火山というのを見るのは俺は初めてだから――どんな場所なのだろうかとわくわくする。
「火山は斜面になっているから、家出す時、考えなきゃいけないかも」
「あー、そうか。確かにな。麓の方に宿と家を出すならともかく……、どうせなら上の方に店をやりたいもんな」
「うん。そっちのが楽しい」
ネノも俺と同じ思いだったようで、頷いてくれる。相変わらず表情は微かにしか動かないけれど、嬉しそうな様子だなと分かる。ネノも俺たちと一緒に火山に行くのが楽しみなのだろう。
しばらく道中を歩くと、途中で一つの馬車とすれ違った。
その馬車は何処か作りが豪華で、身分の高い者が乗っているのではないかと思わせるものだった。その馬車の御者は、ネノを見ると驚いた顔をする。そして中にいた人に話しかけていた。
「『勇者』様ではないか!!」
馬車の中にいた若い男性が、ネノに話しかけてくる。なんというか、着ている服とかも貴族が着るようなもので、明らかな貴族である。
「侯爵子息、何?」
ネノは面倒そうだが、話しかけられたので答える。
「『勇者』様、何処に向かうのか? 一緒に乗らないか?」
「いらない」
ネノはそう言うと、そのまま俺の手を引いて去ろうとする。ネノからしてみれば、目の前の侯爵子息は正直言ってどうでもいい存在なのだろう。ただ貴族側からしてみれば、その態度は気に食わなかったのだろう。
「『勇者』様とはいえ、私に対してその態度はいけないのではないか? それに『勇者』様であるのだから、付き合う相手はもっと選ぶ必要があるだろう」
などといいながらその男はこちらを馬鹿にしたような目で見る。テディは少しアレだが、そういう所はなかった。俺のことをしればそういう目を向けてはこなくなった。けれども目の前の男はそういう風でもなさそうだ。
「貴方に、関係ない。レオは私の自慢の旦那さん」
「は? テディ殿下というものがありながらそんな男を夫にするだと?」
「第二王子は関係ない」
ネノは結局面倒になったのか、風魔法を行使して、その場から去ることにしたらしい。とびだった時に、「テディ殿下に報告するからな!!」などという事を言っていたが、テディは俺とネノのことも知っているし、問題はないだろう。
「ねー、ネノ様、ああいうのも殺しちゃ駄目なの?」
「駄目。面倒なことあるから」
「そうだな。ああいうのを殺すと面倒なことになるな。よっぽどの時は仕方がないけれど、それ以外だとやらない方がいいだろうな」
本当にどうしようもない時に、王侯貴族と敵対することはあるかもしれない。だけど、仮にそういう相手を殺したとしたら色々とややこしいことになる。
「ん。最終手段。セゴレーヌ姫も面倒だからなるべくやらないでほしいって言ってた」
「そのお姫様は面倒にならなきゃいいって言ってたのか?」
「うん。セゴレーヌ姫、私のこと分かっている。私がそういうのやるなら、理由あるって。だからそういうのあったら、助けてくれるって」
セゴレーヌ姫というテディの姉は、随分良い性格をしているらしい。ネノとも仲よくしてくれているみたいだし、いつかちゃんと挨拶したいなと思う。
しばらくネノの魔法で浮遊した後、あの貴族たちから距離が空いたのでまた地面に降ろしてもらった。
「じゃ、また歩くか」
「うん。歩く」
「歩いて色々見て回るのも楽しいよね!!」
そして俺達は引き続き、まずは火山の麓まで歩き始めた。




