訪れた時にはもういない。
「な、なんだと……もうネノフィラーとレオニードがいないだと?」
俺、テディ・アリデンベリはネノフィラーとレオニードに会いたいと、港町に顔を出した。王子としてやることが色々たまっているのだが、なんとか会いたいと思ってやってきた。
だというのに、ネノフィラーとレオニードはもうこの街にはいないのだという。
こんな風に折角俺が会いに来たのに。もういないなんて……とショックを受けてしまう。
「はい。ネノフィラーさんとレオニードさんはもうこの街を去りました」
「急すぎないか? 友人である俺に何も言わずにどこかにいくなんて――」
俺は正直言ってショックを受けていた。
だってネノフィラーもレオニードも、そしてメルセデスも俺の友人である。友人である俺に何も言わずにどこかに行くなんて、会いにいけないではないか!
「テディ、そんな風に民に当たり散らかすな」
「く、分かっているぞ。しかし、あの二人がもうこの街にいないんだぞ!」
「テディ様、そんな風に焦る必要はない。ネノフィラー様とレオニードさんならば、すぐに見つかるだろう。あの二人が噂にならないことなんてない」
そんな風に俺に言うのは、ドゥラである。ドゥラがやれやれと言った様子で呆れたようにこちらを見る。くそ、こいつは幼馴染だからといって俺に容赦がない。そういう相手がいることは王族としては良いことだと分かっているが……。
ドゥラになだめられて、俺とドゥラはネノフィラーとレオニードが宿をたてていた場所を見に行った。すっかり空き地である。何一つ残っていない。
「……これはあれか、レオニードの《空間魔法》で持っていったのか?」
「そうだろう。レオニードさんならば店も家も持っていくぐらいできるだろう」
「本当になんとすさまじい。何であんな男が……今まで表舞台に出てこなかったことが不思議だよな」
「それだけレオニードさんが目立つことに対して関心がなかったのだろう。それを言うならネノフィラー様もだろうが……。あの二人は周りの評価を気にしていない。どれだけ力があろうとも、そんなことはどうでもいいと言わんばかりに自分がやりたいようにやっている。ああいう柵もなにもない生き方は憧れるな」
――ネノフィラーとレオニードにとって、『勇者』という肩書は何も関係がない。彼らには何の肩書もない。例えば、その肩書がなかったとしても、あの二人の関係性は何も変わらないのだろう。
俺は王子という肩書を持つ。それは生まれながらに持っていた肩書だ。そして王子として、肩書を持たなければ俺の今の人生はないだろう。
第二王子であるということは、色々と民よりも恵まれた生活を送っていると言えるだろう。だけど、その分、第二王子としての責務はあるのである。
そういうことも含めたら王子という地位を投げ出せたら楽そうだなと思うこともあるが、まぁ、俺は生まれてから王子として生きてきたからそれ以外の生き方が出来るかどうかそれも分からない。
「きっとネノフィラー様も『勇者』に選ばれることがなかったら、こんな風にレオニードさんと同じようなタイミングで有名になったんだろうな」
「『勇者』としてではないネノフィラーか……。ネノフィラーは『勇者』の肩書がなくても変わらなそうだな」
「きっと変わらないだろうな。ボリスたちもネノフィラー様たちに会いたがっていたんだが……、あの二人は自由だから例えばどこにいるか発見したとしても長い間留まり続けることもなさそうだし」
「あいつらに引っ越しをしたら連絡をするようにいっておけば、連絡を入れてくれるだろうか」
「頼めばレオニードさんはやってくれるんじゃないか?」
「……よし、次会った時には頼んでおこう」
レオニードたちとこのまま会わないままというのは困る。今度遭遇した時は、連絡をしてくれるように頼んでおこう。
ボリスとジュデオンもネノフィラーとレオニードに会いたがっていた。
「……よし、ネノフィラーとレオニードが此処にいないことは仕方がない。この街で思いっきり遊んで帰るぞ」
「テディ、折角来たのだから遊ぶではなく、もっと国のためになることをしよう」
「全く、ドゥラは堅物だな? 少しぐらい気を抜いてもかまわんだろう。第一、俺達が遊ぶということはそれだけお金を落として、経済を回すという事だ。別に問題はなかろう。それに民と触れ合うことは良いことだろう」
俺がそう言えば、ドゥラはやれやれと言った様子を浮かべる。それでもドゥラは俺の言葉に頷いてくれたので、しばらくこのあたりを楽しむことにするのだった。
――そしてはやくネノフィラーやレオニードがいる場所が分かればいいなとそう思うのだった。




