これからのことと旅立ち 2
港町を後にすることを決めた俺達は、早速店をたたむための準備をすることにした。お店自体は、持ち運びをするので解体などをする必要はないが、それでも別の場所に移動するというのならば周りに報せを出したりなどをちゃんとしておいた方がいいだろう。
「ネノ、一週間後ぐらいでいいか?」
「うん。そのくらいがいい。告知出す」
今すぐにでも出ていくというのも出来ると言えば出来るが……、周りとの兼ね合いも含めて、一週間後に街を出ていくことにする。早速メルに一週間後に移動することを告知するチラシを作ってもらうことにした。
まぁ、場所を移動するとはいえ、俺たちの生活は何も変わらないけどな。
商業ギルドのギルドマスターの元にも顔を出して、俺達が違う場所に移動することも報告をしておいた。
「この街を去るのか……。それは寂しくなるな。もし他の街に行くようだったら、その街の商業ギルドには顔を出してもらいたい」
「それは構いませんが、俺たちは次は人がいない場所に行く予定なので」
「……人のいない所に宿を建てる意味はあるのか?」
「俺達は行きたい場所に気ままに向かうだけですから」
「……それが出来るのは、レオニードさんが《空間魔法》を使いこなせているから出来ることだな。普通の人は、店舗を移動させるというだけでも膨大なお金がかかるし、まずはそんなことは無理だ。稼ぎのない場所に店を建てれば破産するだけだしな」
「俺とネノだからこそ出来る宿ですからね」
俺とネノだからこそ出来る宿――なんて良い響きだろうか。どうせなら、このまま誰にも再現できない宿にして、お客さんが増えて有名な宿にしてしまいたい。というのが俺の現在の願望である。きっと俺とネノの宿であるのならば何処でだって宿として機能させることが出来る。それはきっと強みになることだろう。
商業ギルドのギルドマスターと会話を交わした後は、街で親しくしていた人たちに一週間後に場所を移動することを知らせて回る。
もうメルが作ったチラシを配ってももらっているが、報告は早めにしておきたかったのだ。
一緒に遊んでいた子供たちは「えー」「もっといてよ」なんて言われてしまったが、それでもずっとこの街に留まりたいという思いよりも、ネノと一緒に様々なものを見ていきたいという気持ちの方が強いのだ。
中には泣いている子もいて、少しだけ心が痛んだ。
「――大丈夫だ。また会えるから。そんな風に泣くな。俺達は色んな場所にいるから近くに来れば食べにくればいい」
「うん!!」
これでもう二度と会えないというのは、いきている限り言えない。生きてさえいれば、会おうと思えば会えることだろう。
それにこの港町は俺とネノにとっては初めて店を出した場所として、思い出に残る場所になる。また来たいとも思っている場所なので、いずれまた此処にも訪れるだろう。
ネノが『勇者』に選ばれて、『魔王』退治に向かってしまったから旅に出るのが遅れていたけれど、俺達は元々村から飛び出して沢山の場所を見て回ろうとしていたのだ。これからまた新しい場所に向かうのだと思うと俺の心はわくわくしている。
一通り、一週間後に店を去ることを告げて宿へと戻れば……、メルのチラシ効果なのか既にお客さんが並んでいた。
この街に住んでいる人たちが多いらしい。さっき挨拶をした知人たちもいた。話を聞いたところによると、此処が移動することを知ればもっと街の外からも人が集まるだろうから今のうちに食べておこうとしているらしい。
結構な列が出来ている。
宿に泊っている客にも既に一週間後には移動することを伝えてある。ずっとこの宿に泊まっていてくれていた冒険者の客には「残念だ」と言われてしまったが、とりあえずまたのご利用をお待ちしておりますと告げておいた。冒険者ならまたどこかで会うこともあるだろう。
「レオ、おかえり。お客さんいっぱい!!」
「ああ。残り一週間頑張ろう」
「うん」
「火山の方に行くなら、こんなにお客さんも来なくなるだろうしな」
「うん。一週間、忙しいの乗り切る」
二人で笑いながらそんな会話をしていれば、チラシを配ったりしにいっていたメルが戻ってきた。メルも色んな人に「え、いなくなるのか?」といったことで引き留められたらしく、疲れた様子である。
人に囲まれて疲れていたメルは、宿に戻って人が列をなしているのを見て「えー」と口にする。忙しいのは良いことだと思っているようだが、それでもこんなにいるとびっくりしたようだ。
「メル、お客さんの誘導頼む」
「はーい」
でもなんだかんだメルは、一週間頑張るぞと気合を入れるのであった。
その日から予想通りというべきか、どんどんお客さんは増えて行って大変なことになっていた。こうして店を移動するからと多くの人が訪れるぐらいの宿にこの短期間でなれたことが俺は嬉しかった。
店に入り切れずに帰る人も続出しだしたので、外のスペースに即席で飲食スペースを作り、軽食を出すことにした。中で食べるよりは簡単なものだけど、それでも喜んでくれる人がいることが嬉しかった。




