港街の日常 4
街に戻って、魔物が集まっていたことを報告をした。
冒険者ギルドのギルドマスターには、「やっぱり冒険者ギルドに入らないか」などと言われてしまったが、丁重にお断りをした。
それに対して冒険者ギルドのギルドマスターは落ち込んでいたが、冒険者を使って調べさせると言っていた。
宿に戻ってからは、メルに
「えー、そんなに楽しそうなことになってたの? 僕も一緒に行きたかった」
などと言われてしまった、
大量の魔物の襲来も、メルにとってみれば楽しいことらしい。まぁ、それも仕方がないことであると言えるだろう。
メルはドラゴンであるし、ドラゴンであるメルからしてみれば数十体ほどの魔物といっても特に問題はないのだ。
人型の時はただの綺麗な少年にしか見えないし、メルがそれだけ強いと思えないという人が多いけれど、メルはやろうと思えば街を壊滅ぐらいなら簡単に出来るような生物である。
宿に戻って、宿の仕事を進めていく。
夕食の時間帯が訪れ、多くのお客さんが訪れた。俺は注文されるがままに料理を作っていく。何かイベントがあるわけでもないが、全席が埋まるほどに繁盛している。外にも列が出来ているしな。ネノ目当てで来ているお客さんも多いけれど、俺の料理目当てで来ている人もいるんだと思うと嬉しいものである。
外から来たお客さんだけではなく、この街に住んでいる常連さんも多くいる。
「レオニードさんの料理はおいしいな。酒が進む」
常連客はそう言って俺に沢山話しかけてくれる。常連の中ではネノに話しかけていくぐらいまでこの宿に慣れている者もいるぐらいである。
そんな感じで夕食の時間帯をいつも通り終えて、店を閉めようとした時、冒険者ギルドのギルドマスターがやってきた。
俺は彼を中へと入れる。
「――魔物が集まっていた原因が分かったぞ」
どうやら昼間に俺とネノが倒した魔物があれだけ集まっていた原因が分かったらしい。
俺とネノとメルが座る向かい側に腰かけるギルドマスターは、俺達をまっ直ぐに見て告げる。
「あのあたりにミロクレアが咲いていたらしい」
「ミロクレアって、魔物を引き寄せる性質のある花ですよね?」
ミロクレアというのは、魔物を引き寄せる性質のある花である。この花の厄介な点は、何処に咲くか分からないことだろうか。鳥型の魔物と一緒に移動し、咲ける条件の揃ったところでその花を咲かせる。
その花の匂いが魔物を引き寄せる性質があると言われている貴重な花である。
丁度、この街の近くの森でその花が咲く条件がそろっていたようだ。それであれだけの魔物が集まっていたらしい。
「そうだ。近くの森でミロクレアが確認されるとは思っていなかった。助かった」
どうやら冒険者ギルドのギルドマスターはお礼を言いに来たらしい。いらないと言っているのに報酬までくれた。
俺とネノが魔物を倒さなければ、少なくとも街の人々が被害にあっただろうということだった。それはそうだろう。俺とネノはともかく、戦う力のない人々ではあれだけの魔物を前にすれば殺されても仕方がない。
ミロクレアは密封するための魔法具の中に入れて、輸送されることになったらしい。ミロクレアは薬の材料にもなるし、良い素材だからな。
それだけ話してギルドマスターは去っていった。
「ミロクレア。『勇者』やっていた時に見た」
「確か、『魔王』城の近くに咲いていたっていってたっけ?」
「うん。『魔王』のところ、ミロクレアが結構咲いてた。そして魔物が沢山いて、天然の城塞みたいになってた」
『魔王』の住んでいた魔王城の周りにはミロクレアが咲いていたそうだ。そしてそれに引き寄せられた魔物が沢山いて、それらの魔物を倒せるだけの強さがなければ魔王城に近づくことさえもできなかったのだという
「ミロクレア、凄く綺麗。レオも、魔王城見に行こう」
「そうだなぁ。いつか見には行きたいな。ネノが見た景色だし。魔王城って今どうなっているんだっけ?」
「魔王倒したら崩壊した。今は城はない。跡地。でもミロクレアはまだ咲いているはず」
考えてみれば『魔王』というのも不思議な存在である。『魔王』は世界に時折出現し、『勇者』によって倒されるまで魔物が活発化し、人々が危険に晒される。
『魔王』の出現と共に魔王城が現れ、その魔王城は『魔王』の討伐と共に崩壊する。魔王城の出現する場所も、毎回違うようだし、よく分からないものだ。
最も『魔王』が倒されてもミロクレアは咲いたままのようだから、魔王城の周りが危険なことには変わりはない。崩壊した魔王城は、月日が経つにつれ、徐々に危険ではなくなっていくのだという。
過去の『魔王』のいた魔王城の跡地はすっかり様変わりしていると聞くし。そっちも見に行ったりしたいな。
「ミロクレアだけではなく、もっと珍しい植物も沢山みたいな」
「私が見た事ないのも、沢山。レオと一緒に見るの楽しそう」
「だよな。珍しい植物がどこにあるか聞いてそっちに次は行ってみるか?」
「うん」
そんな会話を交わして、その後俺達は眠りにつくのだった。
――港街の日常はそんな風に過ぎて行った。




