港街の日常 1
祭りが終わって、アルバイトとして雇っていた者たちはそのまま雇用終了となった。ヒアーたちは継続して働きたがっていたが、それは断った。他の従業員を雇っていると、家族で自由に動けていいが、やっぱりこの宿を人に任せるのはあまり好きではない。
お祭りが終わってから、海の神様に向けての魔法の打ち合いをやったりしたというのもあって、この宿は益々有名になった。
元々、『勇者』のやっている宿として有名だったが、祭りを経て益々この宿は繁盛した。
流石に『勇者』の経営している宿だから面倒事を起こすものがいないのは助かる。
すっかりここでの生活も慣れてきていた。故郷の村をネノと共に飛び出して、三か月ほどが経過している。
「レオ、今日はどうするの?」
「そうだな。今日は海鮮焼きそばを販売店に卸しに行ってくる」
祭りで出した海鮮焼きそばは、好評だった。それ目当てで多くの人たちがこの宿に押し掛けたレベルである。それでいて、街の人々からの希望があり、お店で海鮮焼きそばを委託販売することになった。俺としても一生懸命作ったメニューを気に入ってもらえてうれしい限りだ。それ以外のメニューも希望があれば、販売店に卸すようにしている。その売り上げも含めて、結構良い調子だと思う。
「いってらっしゃい」
ネノは俺が出かけるときには、いってらっしゃいと笑いかけて、口づけをしてくれる。
「いってらっしゃいの、チュー」
なんて口にするネノは、可愛いと思う。こんなに可愛いネノが俺の奥さんであることは幸せで仕方がない。
そのまま俺はお弁当を卸している販売店を巡ることになった。俺の名も大分、この街で有名になったと思う。『勇者』の夫としてではなく、レオニード・レアノシアの名が広まってきている。——ネノの名に釣り合うぐらいになりたいというのが正直な感想だから、もっと有名になればいいのにと思う。
「レオニードさん、こんにちは」
「レオニードさん、今日はどうしたんだい?」
街の人々とも仲良くなれて、俺は充実した日々を送っている。
あの祭りに参加したからこそ、前よりも俺もネノもこの街に受けいられていったと思う。
やはり何か行事に参加してみるというのは、その土地に馴染む一番の手段だと思う。他の場所にもこれからも行く予定が幾らでもあるから、その時もこうして祭りなどに参加していこうと思う。進んで参加していくことで、『レアノシア』の名も広められるだろうし。
接客業というのは、それだけ評判と言うのは大事なのだ。最初の内はネノのやっている宿として有名になるだろうが、きちんとしていかないとその評判が地に落ちてしまう可能性もある。だからこそ着実にいかなければならないのだ。
お弁当をお店に卸すのもその一貫である。
実際にお弁当を卸すようになってから、宿の評判も上がっている。席が限られている宿のレストランを食べられないものも、お弁当で俺とネノの料理を食べる事が出来ると喜んでいるらしい。
「レオニードさん、お疲れ様」
「お疲れ様です。こちら、今日のお弁当です。海鮮焼きそばと、あとは日替わりでハンバーグ定食を持ってきました」
海鮮焼きそば以外のお弁当は、その日その日の気まぐれで決めている。日替わり弁当というものにしたほうが買ってくれる人も楽しめるのではないか、とそんな風にネノが提案してくれたのだ。それもそうだと思って、お弁当は少量だが、日替わり弁当にしている。日持ちするように魔法もかけてあるので、冒険者に重宝されているらしい。
まぁ、あまりにも便利にしすぎても本人達のためにならないだろうから一日持つようにしているだけだけど、それでも冒険者たちには助かるものらしい。
「レオニードさんは凄いね。これだけのお弁当を簡単に持ってこれるなんて。流石だよ」
「ありがとうございます」
俺の《時空魔法》で運んでいるわけだが、そのことを皆感心してくれる。ネノにおいつくためだけに磨いてきた魔法がこうして役に立っていることは嬉しい限りだ。やっぱりやってきたことというのは何一つ無駄にはならない。
子供の頃の俺はネノに追いつくことだけを目標に強くなろうと努力し続けたけど、それ以外のことでも手に入れた強さは役に立っている。
少し前は『勇者』様の夫という認識でしか俺も呼ばれていなかったが、ちゃんと最近はレオニードと皆名を呼んでくれていて嬉しい限りだ。
その後、何軒ものお店に向かった。《時空魔法》に収納していたお弁当を次々とおろして、その分の料金を受け取る。俺がお店に卸した後にすぐにそのお弁当を購入している人も見かけた。俺の作った弁当をそこまで楽しみにしてくれていると思うと嬉しくないはずもない。
それが終われば俺は宿に戻ることにした。
ネノとメルに何か買って帰ろうか、などと思いながらぶらぶらしていたら、声をかけられた。




