祭り 9
色とりどりの魔法が、その場を鮮やかに彩っている。
周りを楽しませるための魔法――、それが俺とネノとメルの手によって、行使されている。水面に映るというのも中々綺麗なものだ。こうやって海の上で思いっきり打ち合いをするのも初めてで、こうしているだけでわくわくした気持ちになる。
花を模した形に魔法をしてみたり、王冠のマークを彩ってみたり、魔法を使って形作っていくのは楽しいものだ。
海岸に立つ見物人たちは、こちらを見てきゃーきゃーと声をあげ、盛り上がっている。俺たちの魔法によってあれだけ盛り上がってくれると思うと、何だか嬉しい。これだけ楽しんでもらえると、海の神様も楽しんでくれるんじゃないかと思う。まぁ、実際に海の神様がこれを見ているかは定かではないけれど。
まぁ、俺の場合は割と《時空魔法》でしまっている魔法を出して、そのまま操作しているものが多いけれど。《時空魔法》以外は俺はそこまで得意ではないのだ。ネノはある程度色んな魔法が使えて、流石だと思う。
「楽しい」
「思いっきり遊べるの、楽しいねー」
ネノもメルも笑みを浮かべて、こうして力を行使できることがうれしいらしい。これだけ思いっきり魔法を使える機会というのもそうそうないしな。俺もネノやメルと一緒にこれだけ思いっきり遊べるのは楽しい。
海の神様を楽しませたいというのが一番の理由だけど、それに次ぐ理由としてこうして思いっきり魔法を使えるのも楽しいというのもある。
小一時間ほど、魔法を行使した後、ネノが言う。
「レオ、最後、派手にやる」
「ああ」
メルは光の弾を生み出す。大きな大きな光の弾だ。その巨大な光は、太陽と見間違うほどのきらめきを持つ。その巨大な球体上の魔法だけでも派手だけど、もっと派手にするために俺はその周りに魔法を飛ばす。中々綺麗だ。
メルがネノの隣で、「わーすごい」と喜んでいる。メルは最後は完全に見物人のつもりらしく、手を出す気はないようだ。ただキラキラした目を向けている。
そしてネノはその球体を少しずつゆっくりと、海の中へと沈めていく。——そうすれば、海が割れる。球体上の魔法が海を割り、幻想的な風景がそこに広がる。
あ、もちろん、海水が海岸に飛ばないようにはちゃんと対処済みだ。何も考えずにやると、あふれた海水が街の方を覆ってしまうだろうから。
そして光の球体は、海の中へと飲まれて消えていった。
その様子にパチパチパチと海岸の方では拍手がなっている。やっぱりネノの扱う魔法の威力はすさまじいものだ。それに操作能力も。魔法をこれだけ操れる人間は早々いない。これはネノだからこそ出来る海の神様を楽しませるための魔法なのだ。
「よし、これで、終わり。戻ろう」
「ああ。そうだな」
「ねーねー、帰りにもなんか食べようよ」
ネノ、俺、メルと言葉を発して、俺達は街の方へと戻る。
三人で海岸に降り立てば、「流石、『勇者』様夫婦」「凄い!!」「こんな魔法初めて見た」といった声が聞こえてくる。こんな風に自分の魔法を褒められるのは悪い気はしない。
ちなみにメルに関しては「メル君凄いね」「メルくん、かっこいいー」「お姉さん所にこない?」とか変な絡まれ方もしていた。……メルは見た目がいいからなぁ。しかし子供のメルにこれだけ色々言う大人がこんなにいることには驚くけれど。
「僕はレオ様とネノ様と一緒にいるの!! 二人とも、行こう」
メルは変な絡まれ方をして嫌だったのか、俺たちの手をとって、行こうと口にする。……なんか、「可愛い」「自分から手を繋ぎに行くメルたん可愛い」とか変な盛り上がり方をしていたが放置することにした。そういう思考はよく分からないからな。メルのファンみたいな連中はよくわからない。
海の神様を楽しませる魔法の打ち合いが終わったので、もう少しだけ祭りを楽しむことにする。
「祭り、楽しいね、レオ」
「ああ。楽しいな。ネノ」
「僕も楽しかった。人間ってこういうお祭りやって面白いよね」
俺とネノの言葉に、メルもそう言って笑う。
こういう大きな祭りに参加するのは初めてだったけれど、想像以上に楽しかった。もちろん、それはネノが隣にいてくれたからというのも大きいだろう。ネノが隣にいてくれる。それだけで俺はどうしようもないほど幸せで、こうしてネノと祭りを楽しめるだけで幸福を感じてならないのだ。
「ねーねー、レオ様、あれ食べようよ。美味しそう」
メルは魔法の打ち合いでお腹がすいたのか、すぐに食べ物の屋台へと向かっていく。俺とネノはその様子に呆れながらもメルを追いかける。
それからは屋台を見たり、祭りで出ているゲームを三人でこなしたりと、楽しく過ごした。
――そして祭りの最終日は、そんな風に過ごして過ぎて行ったのだった。




