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祭り 5

「メル、結局昨日は何であんなに酔っていたんだ?」

「……うー、なんか進められて飲んだとこまでしか覚えていない」

 メルは結局、翌日の朝になるまで目を覚まさなかった。目を覚ましたメルは、よっぽどお酒が弱いのか、いまだにぼんやりした表情を浮かべている。

 本当にこいつ大丈夫だろうか?

「他に覚えていることは?」

「んー。話しかけられて、飲んだら記憶ない」

「誰に話しかけられたんだ?」

「なんか男の人? 遊びに行こうとか言われた」

 ……こいつ、自覚ないだけでナンパか誘拐されかかってたんではなかろうか。ちょっとだけ心配になってしまった。

「メル、これから気を付ける」

「うん……僕、お酒とか飲まない」

「うん。それがいい。メル、まだ子供」

 ネノがそう注意をすれば、メルは素直に頷いた。自分が迷惑をかけてしまった記憶も何となく残っているらしい。

「……ごめん、レオ様、ネノ様」

「反省しているなら良い」

「うん。反省しているなら、いい」

 俺とネノがそう答えれば、メルは安心したようにふぅーと息を吐いた。

「メル、大丈夫? 今日、働ける?」

「うー、大丈夫。ネノ様、屋台行っていいよ。僕、頑張る」

 メルは少しふらふらしているものの、接客はちゃんと出来るらしい。そんな風に言われてネノは「じゃあ行く」と口にして屋台に向かっていった。

 今日は屋台に出るのはネノが係なので、ネノの分まで料理を作ったり頑張ろうと思う。

 ネノが出かけていったあともメルは顔色はそこまでよくなかった。メルに聞いた限りはお酒も一杯しか飲んでないらしいのに……。

 それにしてもメルはドラゴンだから人間よりは丈夫だし、酔っ払っても問題ないかもしれないけど……、下手にドラゴンを葬れるような強い存在がいたのならば危ないと思う。少なくとも俺とネノが生きている間はメルが危険な目に遭わないようにはしようと思っているけど。

 今日はウリアが屋台の方の手伝いに向かい、後の二人は接客をやってくれることになっている。朝から話をつけて、ネノと一緒に出掛けることも出来るようにしているし、楽しみだ。



 そんなことを思いながら昼食の時間を迎えた。




 昼食の時間帯の込み具合は、普段よりも凄かった。外で「何で入れないんだ」みたいな喧噪になりかけていたけれど、メルが対応していた。まだ酔いがさめないといいながらも何だかんだ対応していたようだ。

 少し手加減が難しかったみたいで、一人を教会送りにしたようだけど、まぁ、すぐに治したようだし問題はないだろう。

 あとは「今日は『勇者』様はいないのか」「『勇者』様に会いにきたのに」と文句を言っている客もいた。この街の住民たちはともかくとして、外の街の人たちは俺のことを侮っている節がやはりあるらしい。『勇者』のやっている店だから、問題を起こす奴はいなかったけどネノのネームバリューからしてみればただの一般村人でしかないしなぁ。

 と、そんな風に思いながら注文に応じて次々と料理を作っていたら……「ただいま」とネノが帰ってきた。

 まだ昼食の時間なんだが……もう売れたのだろうか。はやくないか? と思いながらネノに「おかえり」と声をかける。

 ネノが現れた瞬間、店の中で食べていたお客さんたちはネノの登場に興奮した様子を見せる。

「ネノ、はやかったな」

「うん。すぐに売り切れた」

「流石、ネノだな」

「うん」

 ネノは頑張ったよ、と言いながらずかずかと俺のいる厨房へとやってくる。ネノは本当にマイペースだと思う。

「ネノ、お疲れ様」

「ん」

 頭を撫でればネノが幸せそうに微笑む。やっぱりネノは可愛い。それでざわめきが起きていたが、俺も気にせずにネノに話しかけた。

「ネノ、これから接客できるか?」

「うん」

 ネノは俺に褒められて、満足したようで着替えるために奥へと向かっていった。

 ネノが着替えて戻ってくれば、益々、店の中はざわめいている。特に女性三人組の冒険者パーティーは、ネノのファンなのかきゃーきゃーいっている。その中の一人は、俺を睨むように見ているし……。ちょっとめんどくさい。

 などと考えていたら、ネノにその冒険者は話しかけていた。……かと思えば、ネノが急に不機嫌になっていた。

「私、接客中。それに私のこと、言われる筋合いなし」

 ネノはそれだけを告げて彼女たちと話すのをやめた。少し不機嫌そうだが、接客中なので、放り出すことはしないようだ。

 ……それにしてもネノをこれだけ不機嫌にさせるとか、何を言ったんだか。ネノが追い出すと決めるほどではないにしろ、不機嫌になることをいったんだよな。

 などと考えながら、昼食の時間を乗り切った。ネノを不機嫌にさせたからか、それ以上ネノには絡んでいなかったし。



 昼食の時間帯が終わってから、ネノに話しかける。

「ネノ、何を言われたんだ?」

「私にはもっと相応しい場所がある、みたいなの」

「そうか」

「うん。悪気なしに言ってる。タチ悪い」

 ネノはそんなことを言う。

 どうやらネノに憧れているらしい女性三人組の冒険者パーティーは、良かれと思ってネノに色々話しかけたようだ。

 なんだろう、悪意があって話しかけてくる人よりも悪意なしに良かれと思って行動を起こす人の方が何を起こすか分からないものだしな。変な行動を起こさなきゃいいけど。

「ただいま……変な人に絡まれた」

 メルが外から戻ってきて、うんざりしたようにそんなことを告げた。

「メル、どうしたの?」

「なんか絡まれた。……『勇者』様によろしくお願いしますとか、『勇者』様には世界のために行動してほしいとか言ってた」

 それを聞いて益々、ネノの機嫌が悪くなった。さっきネノに絡んでた女性パーティーたちは、メルにも絡んでいたらしい。

 見た目が子供のメルに対してお菓子をあげようとしていたようだが、流石に昨日お酒をもらって酔った後だしもらわなかったらしいけど。

「ネノ、祭り見て回るか?」

「うん」

 ネノに機嫌を回復してもらうためにも、元から予定していた祭りを見て回るデートに向かうことにした。ネノの手を取れば、ネノは微笑む。

「またいちゃいちゃして……。僕達で店はちゃんとするから、お出かけ楽しんできてね!」

 メルにそんな風に送り出されて、俺とネノは祭りを見るために宿を後にするのだった。




 

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