来訪者 1
村に戻ったら、村が少しだけ騒がしかった。
「どうしたんだろ」
「……そうだな、どうしたんだろう」
『ネノ様関連じゃないの? ネノ様、仮にも『勇者』なんだし』
何で騒がしくなっているのだろうかと、俺とネノが呟けばメルがそんな事を言う。ちなみにメルは俺とネノの近くで翼を広げてパタパタと飛んでいる。
メルの言葉に俺は確かにと思った。
『勇者』であるネノ関係ではなければこの村が騒がしくなる事はないだろう。
俺達が戻った事に気づいた村長がこちらに声をかけてくる。
「おお、ネノ、レオ、戻ったか。お、そのドラゴンはもしかして山に住んでいるというドラゴンか? ようやく連れて帰ってきたのだな」
村長は俺達がドラゴンであるメルを連れて帰っても気にした様子はなかった。寧ろ、ようやくかという雰囲気を出している。他の村人達もそうである。俺やネノがやらかすことに慣れきっている。
ただ、村が騒がしい原因であるこの村への来訪者はメルの事を見て大きな声をあげていた。
「なななな、ドラゴンですと!!」
「流石は、『勇者』様です!!」
声をあげている者達は、鎧を着ていた。白銀に輝く鎧は、質がよさそうだ。また腰には長剣が下げられている。
『勇者』とネノの事を呼んで、駆け寄ってくる。と、同時にすぐ側に居る俺の事を怪訝そうに見ている。面倒そう、というのが正直な感想だった。
「ん? 何それ、ドラ吉の事は、私とレオ、両方。私だけじゃない」
『あのさぁ、ネノ様? 僕の真名知ったでしょ? いい加減、ドラ吉やめよう?』
「じゃ、メル」
『うんうん、それでいいよ』
ネノとメルがそんな会話を交わしている。
その会話に加わろうとしていると、騎士が声をあげた。
「レオ? その男の事ですか?」
「『勇者』様! 『魔王』退治を終えてすぐに帰られてしまったので皆心配しているのですよ!?」
「ん? 私、陛下と約束した。『魔王』退治したらすぐ帰るって。あとレオは私の旦那さん」
ネノは『勇者』として『魔王』を退治すると決まった時に、国の一番偉い人間——要するに王様といくつもの約束をしている。そしてその約束はネノの希望により、国内に広まっている。加えて神官長の誓約魔法まで使って、王様が約束を破らないように徹底していた。
それはネノが『勇者』の聖痕を持つとはいえ、庶民だからだ。王侯貴族に命令された場合、拒否するのは色々と面倒だ。拒否するのならば最悪この国には居られらなくなるだろうし、不敬罪に問われる可能性も高い。まぁ、俺とネノなら本気で嫌な命令してきたら国外に出るか、それとも誰も住んでないようなところでひきこもって生活するかとか出来るけどさ。でも面倒だから、ネノはそういう所への対処をしていた。
その約束の一つに『魔王』退治を終えたらすぐに俺の元へ戻るというのもネノは約束していたのだ。ネノ、頭の回転が速くてそういうのもさっさと対処しているのだ。流石、俺のネノ。
それにしても、俺の事を「私の旦那さん」と言ってえへへと笑っているネノ、本当に可愛い。
「は? 旦那?」
「うん」
「は!? 『勇者』様、ご結婚されたのですか!?」
「いや、結婚は、もうしてた。『勇者』なる前から。セゴレーヌ姫は知ってる」
「え!? テディ様は御存じなのですか、それ?」
「言った。でも、信じてくれなかった。だから、放置」
セゴレーヌ・アリデンベリは、この国の第一王女である。ネノと一緒に『魔王』退治に出かけていたテディ・アリデンベリの姉にあたる人物だ。ネノの手紙にも時々出てきていた。それを見るに、王女様はネノにとって親しい人物に分類されているのだと思う。
ちなみに第二王子に関してはネノが俺の事を言っても、「断る口実だろう」と全然信じなかったらしい。
「そ、そうなのですか……」
「それにしても、『勇者』様の夫が……言ってはなんですが、普通の方ですか」
『何ほざいてんの!? レオ様が普通の訳ないじゃん!!』
メルが何か叫びだした。
『レオ様を馬鹿にするなよ! 普通の人が僕の尻尾を料理にするわけないからね!? しかも初対面の時、僕にビビってたのにどんどん強くなるし! この夫婦おかしいんだから、普通な訳ないから!! そもそも普通の人と、僕が契約するわけないじゃん!』
おかしいとか、失礼な奴だな。そう思っていたら、ネノも加わる。
「うん。メル、よく言った。レオは、凄い。レオは、かっこいい。……私にとって世界一」
「ネノ、俺もネノが一番可愛いって思ってる!」
「ふふ」
かわいらしく笑うネノは本当に可愛い。可愛くてネノと見つめ合って、笑い合ってしまう。
『って、また二人の世界はいってるし! もう、ネノ様に求愛している雄が居るみたいだけど、無理だから! あの二人、凄いバカップルなんだから! 大体、無理やり引き離したりなんかしたら僕も暴れるからね!?』
なんかメルはネノが王様と約束をしているという情報までは知らないからか、無理やり引き離す気なのではないかとハラハラしているのか声をあげていた。威嚇するように口を開けてメルは騎士達を見ていた。