祭り 1
祭りが始まった。
街中がお祭りムードへとなっている。
その熱気と、お祭りの雰囲気に俺まで楽しくなってきた。何よりもネノと一緒に、祭りを堪能することが出来るのだと思うと、楽しい気持ちが湧いてきて仕方がなかった。
「じゃあ、ネノ。俺は今日は屋台に行くから」
「うん。私、宿を守る。料理、する」
俺が屋台に行くと告げて、宿を出る時にネノは頑張ると言った表情を浮かべた。
表情はあまり動いていなくても、やる気を見せていることが分かって、可愛いなとそんな気持ちが芽生える。ネノは本当に、いつでも可愛い。
なんて思っていたら、ネノが近づいてきた。そして俺の頬に手を伸ばして、口づけをした。
口を離したあと、ネノが至近距離で微笑む。
「いってらっしゃいの、ちゅー」
「可愛いなぁ、ネノは!!」
「ふふ」
可愛い。本当に俺のお嫁さん可愛い。こんなに可愛いネノと一緒だから、俺は宿を営むのも本当に楽しんでいる。
メルが「またやっているし」とあきれた目を向けていたけれど、それはスルーしておいた。
今日は俺とヒアーが屋台の方に出ることになっている。どのくらい屋台の方に客がやってくるか分からないから、とりあえずそういう風にした。
ちなみに俺とネノの魔法の打ち合いに関しては祭りの最終日に行うことにしている。
ヒアーとは、屋台の設置場所で落ち合うことになっている。一応海鮮焼きそばの材料はかなり多めに補充してある。どのくらい忙しくなるかは分からないが、なるべく多く売ろうと思っている。
そんなことを考えながらヒアーとの待ち合わせ場所に向かった。
ヒアーは俺がくる前から「此処で『勇者』様と『勇者』様の旦那様の屋台が行われますよー」と宣伝をしまくっていた。
初日からやる気満々である。
この祭り目当てに街の外から多くの人が訪れるから、その客も呼べたらいいんだけど。宿の方はネノに任せているから、問題はないだろう。ネノも宿で頑張っているのだから、俺も頑張らないと。ネノに相応しい夫でありたいし。
屋台を《時空魔法》で取り出すと、周りで見ていた人々から「うわあああああ」という歓声があがった。
これで目立って、客が増えたらいいが。
折角の屋台なので、この場で注文を受けて料理することにしている。作ったものをそのまま《時空魔法》から取り出す形も出来たけど、それだけだと折角の屋台って感じしないしな。
ヒアーと一緒に準備を終えてから、屋台が開店する。
そのころにはもうすっかり、周りには人が集まっていた。商業ギルドのギルドマスターの計らいでよい場所に屋台を構えることが出来たのもだろうが。屋台には、『レアノシア』の文字と『勇者』の文字が描かれている。
屋台を開店すると同時に、沢山の人が並びだす。
中には割って入ろうとした客もいたが、それに対しては俺が魔法を使って対応をした。ヒアーに良からぬことをしようとした人もいたので、それに対する対処も。うん、幾ら屋台が忙しかったとしても、従業員に対してのそういう態度は見過ごすわけにもいかないし。
ちゃんと並ばない相手も水属性の魔法を使って対応した。俺が一番得意なのは《時空魔法》だけれど、水属性の魔法は使えるのだ。《時空魔法》が一番得意なので、それほどは使えないけど。
ネノは『勇者』としての力だけではなく、魔法も得意だ。俺は《時空魔法》以外はそこまで出来ないけど、ネノは風魔法とかも得意で簡単に使いこなす。やっぱり俺のネノは凄いなと思う。
「これ美味しい」
「この街の特産物を使ってるのね」
「焼きそばだ!」
此処が『勇者』に関連する屋台だから人が集まっているのもあるだろうけれど、こうして食べた感想が聞こえてくると嬉しい気持ちになる。
やはり、こうして作ったものを楽しんでもらえるのは良いなと思う。会計をヒアーに任せられたのもあって、俺は作る方に専念しているし。
ずっと屋台で売り続けていれば、驚く事に一日の屋台の想定量がもうなくなった。思ったよりも沢山人がやってきたらしい。翌日の分を使うことも考えたけれど、一旦今日は屋台を閉めることにした。
並んでいたお客さんには悪いけれど、祭りを目一杯楽しみたいからな。でもこれだけ一日で売れるのならば、祭りの間毎日ずっと屋台を出すのではなく、適度に屋台をやらない日をはさみながらやった方がいいかもしれない。そのあたりはネノと相談だな。
朝から屋台をあけたけれど、四時間ほどで屋台は全部売れ切れてしまった。まだ昼時だ。夕方まで屋台をやるのならば一度昼に屋台をしめて、昼食を食べて再開しようと思っていたけれど思ったより売れるのがはやかった。これは昼過ぎから始めた方がいいだろうか?
初めての屋台だし、色々とどのようにすべきかをきちんと考える必要がある。
俺はそんなことを考えながらネノの待つ宿へとヒアーと共に戻るのであった。




