祭り準備 9
「ネノ、魔法の打ち合いどうする?」
「海の上でやる。私がレオも浮かせる」
「それで派手にやるか」
「うん」
魔法の打ち合いの催しをやっていいと許可をもらったので、二人で派手にやることにする。海の神へと捧げるものだからな。神は派手好きってイメージが強いし、やってみたら喜んでくれそうな気がする。
ちなみにギルドマスターたちが帰って、メルは眠くなったのか先にすやすやと眠っている。なので、俺とネノで二人で話している。
「私もそう思う。海の神、性格分からない。でも伝承で伝え聞く神、大体が派手」
「だな。ド派手にいこう。実際に神が見ているかどうかは分からないが、気に食わなかったとしても何かあるわけじゃないし」
「うん。あと、ヒアネシア様も楽しませる」
「そうだな。『勇者』の力をネノにくれた女神だしな。それに一夫一妻制を推奨しているありがたい女神だし」
「うん。結婚神聖視、助かった」
「だよなー」
折角なので、『勇者』であるネノのことを見守ってくれているであろう女神・ヒアネシアにも向けて魔法をささげたいというのが俺とネノの共通の思いである。
ネノが『勇者』だと発覚した時はマジかとは思ったものの、この『勇者』の力はネノの助けになっている。『魔王』を倒した後も奪い取るわけでもなく、そのままネノが使ってていいよとしてくれているあたりとても太っ腹な女神だと思う。期間限定で貸すのではなく、一度与えた『勇者』は力はそのままくれるというのは凄いよなと思う。
「お祭り、楽しみ」
「俺もネノと一緒に思い出を作れるの楽しみだよ」
「レオとずっと一緒、沢山、思い出作る」
祭りの日は、着々と近づいてきている。屋台の準備に、祭りのためにやってくる客が宿に泊まるかもしれないからそのあたりの対応もするとして、魔法の打ち合いもやる。こう並べてみると、色々手広く俺もネノもやることになるなと思う。
全ての準備をするのは大変な部分もあるけど、やっぱり楽しいから俺たちは色々やっているのだ。
「テディまた来るかもな」
「第二王子、煩い。来なくていい」
「ネノが嫌なら来たら俺が相手するよ」
ふと、テディがまた来るかもしれないと俺は思った。王子であるのだから忙しいだろうけど、テディなら祭りだと喜んで此処までやってきそうな気もする。
「一緒に二人でも時間ある時、楽しむ」
「ああ。一緒に見て回ろう」
「美味しい屋台料理、食べたい。レオとあーんとかしあいたい」
なんだかネノが可愛いことを言っている。こういう可愛い部分を見せるのが俺だけにだと思うと、本当にネノのことが愛おしい気持ちになる。俺もネノにあーんとしたい。きっと可愛いだあろう。
「そういえば、冒険者ギルドのギルドマスターは大変そうだったな」
「うん。でも冒険者、ならない」
「その辺はギルドマスターなのに要領が悪そうなのも問題だよなぁ……。俺たちが冒険者登録しないのは何故だって責められているのは悪いなとは思うけど、それ以外には何も思えないし」
「うん。私たち、関係なし」
冒険者ギルドのギルドマスターの話を聞いて、ちょっと悪いなーとは思うものの、俺たちのせいではないなと思いなおす。冒険者になるもならないも俺たちの勝手だし。『勇者』とその夫だからとそんな干渉される筋合いはないし。
ただ冒険者ギルドのギルドマスターなんてものをやっているにも関わらず、要領が悪すぎないかとは思うけど。
もっと周りへの対応とかきちんとすれば、そういう訳の分からないことで責められるなんてことはないだろうに。それかそういうことを言わせないほど特別だったりしたら別かもしれないけど。
「こっちから何かする気はないけど、もしそういう場を見たら行動はするけどな」
「レオは、優しいよね」
「いや、俺は優しくないだろ。俺はネノが幸せで過ごせればそれでいいんだよ」
「私も。『勇者』だけど、レオのために、『魔王』倒した。レオの元へはやく帰る。それしか考えてなかった」
ネノと二人で肩をくっつけあって座って、そんな会話をする。
俺ももし責められている現場を見たら口出しするかもというだけで、すぐにどうこうしようなんて意思はない。見かけなければそのまま放置する気満々だ。
ネノも人族の希望として、人族を守るために半年で魔王を倒したと言われているのにその台詞は『勇者』らしくはないだろう。でもこういうぶれないネノが俺は好きだなと思う。
「俺の元へ帰ってきたいと思ってくれてありがとう、ネノ」
「当然。レオの元へ帰るため、私は戦った」
「俺はネノが傍にいてくれて、今幸せだよ」
「ん、私も」
メルがすっかり眠っているのをいいことに、俺とネノは自室にこもって思いっきりいちゃいちゃした。
それから、しばらくして――ついに祭りの始まる日がやってきた。




