祭り準備 4
海産物の焼きそばを作ることを決めたので、その準備も着々と進めている。魔法を使いながら進めていくと、効率が良くていい。魔法が使えなければもっと屋台の準備は大変だっただろうし、こんな少人数で進められなかっただろうから、魔法が使えて良かったとほっとする。
でもネノに出会わなかったら、俺はあの村でのんびりと村人をして暮らしていたのかなとは思う。魔法を使いたいと願ったのも、強くなりたいと願ったのも――全て俺はネノに追いつきたかったからだったから。最もネノがいない人生なんてものは想像できないけれど。
「レオニードさん、祭りで屋台を出すんだって?」
「はい。出す予定ですよ」
「その間、宿はどうするんだ?」
それは開店してからずっとここに泊ってくれている冒険者の言葉だ。俺とネノとメルしかいない宿で、屋台までやるということで宿を営業してくれるのか心配になったのだろうか。
「それは安心してもらっていいですよ。その間は商業ギルドから人員を回してもらいますから。食事は俺とネノが作りますし」
「そうなのか。よかった。もし宿を休業するならどうしようかと思った」
そんな風に言ってくれるということは、この宿を気に入ってくれているということだろう。そう思うと何だか嬉しくなった。やはり自分たちの経営している宿を気に入ってもらえるというのは嬉しいことだと思う。
今は朝食の時間で、宿に泊まっている客以外は食堂に姿はない。
朝食の時間以外はぶっちゃけ忙しくてこんなにゆっくり宿泊客と話すことは出来ないから、こうしてゆっくり宿泊客と交流を深められる朝の時間は有意義な時間だ。昼や夜は宿泊客以外のお客が沢山来るからな。
「屋台にも是非よらせてもらう」
「ありがとうございます」
俺がお礼を言って笑みを浮かべれば、冒険者も笑った。
それからしばらくして、宿を訪れる人物がいた。
昼食の時間が終わって、少しだけゆったりと出来る時間帯。その時間帯に、俺とネノとメルは屋台の準備に精を出していた。
こういう時間じゃないと進められないからな。宿泊客の対応もあるだろうから、現在はカウンターにネノが立ってくれている。
宿の外でせっせと屋台を作っていたりしていたら、声をかけられる。
「レオニードさん」
「あ、ギルドマスター。こんにちは」
声をかけてきたのは、商業ギルドのギルドマスターである。その後ろには二人の若い女性と一人の若い男性がいる。
「レオニードさん、少し時間良いだろうか。それとネノフィラーさんは?」
「時間は大丈夫です。ネノは中です。中に入りましょう」
俺はそう言って、ギルドマスターたちを連れて中に戻った。それにしても連れてきた三人は、祭りの間の増員人員かな? 祭りはまだ先だけど、いきなり接客をさせるわけにもいかないしな。
中に入ればネノは、ギルドマスターの後ろにいる三人を見て少し不思議そうな顔をする。
「ギルドマスター、こんにちは」
「こんにちは。ネノフィラーさん。突然押し掛けてすまない。今回、祭りの増員のメンバーとして三人ほど連れてきたんだ。今回は顔合わせのために連れてきた」
やはり増員のためのメンバーらしい。ギルドマスターに促されて、三人がそれぞれ自己紹介をする。
「私はヒアーといいます。よろしくお願いします。『勇者』様、『勇者』様の旦那様」
「あたしはウリアです。よろしくお願いします。『勇者』様、レオニード様」
「俺はキドエードだ。よろしくお願いします」
それぞれ頭を下げてそういう。ネノのことをキラキラした目で見ている。俺のネノは人気者だなと嬉しい気持ちになる。ネノはやっぱり俺にとって自慢の奥さんだ。
「私、ネノフィラー。……よろしく」
「俺はネノの夫のレオニードです。よろしくお願いします」
「僕はメルセディスだよ。よろしくね!!」
俺たちもそれぞれ自己紹介をした。
若い男性はネノに恋慕などの感情は向けていないみたいだし、問題はないだろう。まぁ、向けていたとしてもネノは相手にしないだろうから問題はないだろうけど。女性二人に関してはネノをキラキラした目で見て、メルの美少年ぶりにぽーっとしている。ちなみに俺は普通の顔だからそんな目で見られることはない。
「この三人を祭りの間手配する予定だが、問題はないだろうか?」
「ん。問題なし。問題あったら、言う」
「ああ。そうしてもらって構わない」
「費用は?」
「ああ。三人分で――」
と、話はとんとん拍子で進んでいって、彼らを祭りの間と祭りのためにその前に宿で接客をしてもらうことになった。
俺もネノも人を雇うことは初めてだし、どうなるかなとちょっと不安はあるが、まぁ、頑張ろうと思う。
その日は顔合わせだけなので、翌日以降から三人がこの宿の接客になれるために実際に接客をするということになった。




