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『勇者』の帰還 4

『きゅう……』

 ドラゴンはしばらくネノの魔法を必死に避けて、ネノが満足するとそれは終わった。

 ドラゴンはおしりを地面につけて座り込んでいる。

「ドラ吉……元気そう、良かった」

『う、うん。ネノ様も元気そうで何よりだよ。でも、急に魔法放つのやめようね。僕は死にはしないけど、びっくりするから』

 ドラゴンはそんな事を口にして、ネノの事をじっと見た。

 ドラゴンはネノに少しは怯えているけれども、それでもネノの事を嫌っているわけではない。本当に俺達の事が嫌いだったらさっさと山から出ていくだろう。

「大丈夫、ドラ吉、このくらいじゃ死なない」

『いや、そうだけど!!』

「そうだ。お肉、美味しかった。……ありがとう」

 ネノがお礼を言えば、ドラゴンも答える。

『……それは何よりだよ。それにしてもレオ様はご機嫌だね。ネノ様いない時の五割増しぐらい機嫌いいね』

「当然」

 ネノがいれば正直どんな所でも機嫌がいいのは当然だ。ネノが傍に居てくれたらどんな状況でも俺はきっと幸せだと思う。俺の幸せの最低条件はネノが傍に居るかどうかなのだ。

 ネノが居ないと何というか、こう、世界の色が変わるというかそんな気分になった。半年も離れてて、浮気とかは心配していなかったけれどネノが居ないのは正直寂しかった。でも半年離れたからこそ、ネノの事が大切だという気持ちをより一層自覚出来たから俺は嬉しかった。

「ふふ……私も……レオが居なかったから不機嫌になってた」

「ネノ……」

『……あのさ、隙あらばいちゃつこうとするのやめてよ!』

「ふん、羨ましいならお前も番を見つければいいだろ」

『そんな簡単じゃないから! それに僕、まだ成体じゃないから!』

 そういえばそうだった。人間からしてみればドラゴンは大きな存在だけど、このドラゴン、まだ成長しきってないのだ。人間よりも寿命の長いドラゴンは成体になるまでも時間がかかる。

「ああ、そうだ。俺達はもうしばらくしたら村を出るから」

『え。……あ、でもそっか。元々ネノ様が『勇者』に選ばれなければさっさと出て行くって言っていたもんね』

 何だか少しだけしゅんとしたドラゴン。

「……うん。他の所行くの。レオと一緒ならどこでも嬉しい」

『だろうね。……でもそっか』

 ドラゴンは神妙な顔をして頷いている。ふと、ネノが言った。

「……ドラ吉も、一緒、行く?」

『え』

「ドラ吉、居た方が私、嬉しい。ドラ吉、小さくなったり、人化出来るでしょ?」

 このドラゴンの小型化や人化した姿見た事がないけれど、出来るとは昔言っていた気がする。魔力の扱いが上手く出来るからそういう事が出来るらしい。

『そ、そうだけど』

「ね、レオも……別にいいでしょ?」

「俺はネノがいいなら別にいいけど。定期的にドラゴンの肉が手に入るし」

『……ああ、うん。尻尾肉はすぐ伸びるからいいけどさ』

 ドラゴンは諦めた顔で言った。

「ドラ吉、一緒、行く?」

『ええっと……そ、そうだな。行こうかな……二人が居ないの、寂しいし』

 ボソッと言った言葉はしっかりネノと俺の耳に届いていた。いつ殺されるのだろうかと少しびくびくしている時もあるドラゴンだけど、なんだかんだで俺達の事を好いていると思う。

「嬉しい」

『ええっとさ、ネノ様さ……人里行くなら流石に僕野放しじゃ、駄目じゃない?』

「ん? 何が」

『いや、あのさ。僕、母様に聞いた事があるんだけど人里に行くなら、何か契約したほうが良いって言ってたよ? 野放しのドラゴンとか入れられないからって』

 そういえば、そんなことを聞いた事がある。村長が言っていたっけ。俺達がドラゴンと仲良くなった事を告げた時にそういう事を言っていた。

 ドラゴンを含む魔物と共にあろうとするときに人と魔物は契約を交わす。その契約を結んだ相手は街にも連れ込めるとか。

 まぁ、俺もネノもドラゴンが人を害さない事を知っているけれども、他の人からしてみれば野放しされているようなものになってしまうからな。人を簡単に殺せる存在が街に野放しで来たら警戒もするだろう。そう考えると確かにその契約というのをしたほうがいいのだろうか。

 でもそれだとドラゴンの事を縛ってしまう事になる。正直、そういうのはあまり好きじゃない。

 ネノもそういう気持ちなのか、微妙な顔をしている。

「んー、ドラ吉、一緒がいいけど、契約とか縛るのやだ」

「だよなぁ。諦めるか?」

『え』

「……うん。そう。私は、嫌」

「だよなぁ。じゃあ、残念だけどドラゴン、また来るから」

『え、ちょ、待って!』

「……どうしたの」

「……どうした?」

『もう、どうしたのじゃないから! というか、僕から言ってるんだよ? 僕から契約の話出してるんだよ?』

「「ん?」」

 二人して、慌てて声をあげるドラゴンの方を見る。

 じっと見つめればドラゴンは慌てたように言う。

『あのね、ん? じゃないから! 僕から話してるんだよ。僕が契約してあげてもいいって言ってるって事だからね!? 気づこうよ。なんで変な所で察しが悪いの』

「そうなの?」

「そうなのか?」

『そうだよ! だからね、縛るとか気にしなくていいから!!』

「そう?」

「なら結ぶか?」

『だから、結んでもいいって言っているじゃん』

「片方だけ?」

「両方出来ないのか?」

『多分、出来るから! いいからやろうよー』

「そんなに、ついてきたいの? 嬉しい」

「ふぅん、えっと、どうやるんだっけ」

『ああ! もう、僕が母様にならってるから続けて!』

 なんだっけ、確か、村長が言うには名前を持っているような魔物だとその名前を教えてもらってからやるんだったか。名前がない魔物だとまた違うらしいけど。このドラゴンは知能があるし、名前があるはず。

『僕、メルセディス・ドラゴアージはネノフィラーとレオニードと契約を結ぶ事をここに誓う』

 このドラゴン、家名あったのか。ドラゴンの中でも家名ありとなしがあるんだろうか。ドラゴン社会は正直よく分からない。

「私、ネノフィラーはドラ吉……」

『そこは本名言ってね!!』

「メルセディス・ドラゴアージと契約を結ぶ事をここに誓う」

「俺、レオニードはメルセディス・ドラゴアージと契約を結ぶ事をここに誓う」

 と、そこまで誓ったら何だか俺とネノとドラゴン—―本名メルセディスか——の魔力が絡み合っていくのが分かる。

『我ら、対等の絆を結び、共に歩む事を誓う』

「「我ら、対等の絆を結び、共に歩む事を誓う」」

 それで続けたら、完全に魔力が結ばれた。契約とはこのような感じなのかと不思議な気分になった。魔物と契約を結ぶのは初めてだし、変な感覚がする。


 それから小型化したドラゴン——メルも連れて村に戻った。




 

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