祭り準備 2
「いつも出ている屋台のメニューか? そうだな。ここは港街だから魚を使ったものが多いな。たこ焼きなんかも人気だぞ」
商業ギルドの方に顔を出したら、商業ギルドのギルドマスターが出てきた。
別に俺が『勇者』であるネノの旦那であろうとも受付で話を済ませてもらっていいのだが、どうにも俺とネノの事を商業ギルドの受付嬢が相手にするのは荷が重いらしい。何度も来たら慣れてくれるだろうか? というか、ギルドマスターは暇なのだろうか。
商業ギルドでは街のありとあらゆる商業の情報が集まっている。なので商業ギルドに来たら祭りの事がもっと詳しく分かるだろうと思ったわけだ。漁業が有名な街なのもあって屋台に出るものは魚類を取り扱ったものが多いらしい。
たこ焼きってあれか。小麦粉の生地の中にタコ系の魔物を入れて焼いた奴。あれ前に食べた事あるけれど美味しかった。宿では出してないからな。今度出してみるか? っていうか、そういうのもネノと食べ歩きしたいな。
この街で出されるのが魚介類のメニューばかりだということで、俺たちもそういう魚系で攻めるのか、それとも全く違うものを出すのかというのは悩みどころだ。魚を使ったものを出すにしても、普段から街で売りに出されているようなものは出したくない。となると、どうするか。
ギルドマスター室で話を聞きながらそんな風に悩んでしまう。
「そうですか」
「何か悩んでいるのか?」
「屋台でどういう料理を出そうかっていうのを悩んでいるんですよ。そのために祭りがどういうものなのかもっと知った方がいいかと思って」
「どんなものでも『勇者』の宿が出す屋台なら人は集まると思うけどな」
「まぁ、それはそうですけど。俺もネノも『勇者』のネームバリューだけで商売するつもりはないですからね。それにやるなら不真面目にはやりたくないですし」
「……なんというか、『勇者』の夫と『勇者』っていうならもっとこう調子に乗っていてもおかしくないと思うんだが。特にレオニードさんの場合は結婚していた相手が『勇者』なんてものになったわけだろ? それでネノフィラーさんとの関係が変わらないのも凄いと思うが」
なんか、まじまじとこちらを見てそんなことを言われた。
確かにそういう風に特別な存在になった伴侶が出来て変わってしまう関係があることは知っている。村長が昔話でそういう話があったって言っていた気がする。
相手が特別になった。だから自分も特別なようにふるまう。
相手が特別になった。だから自分では釣り合わない。
そんな風に考える人って多いらしい。ぶっちゃけなんだそれって思う。
特別になろうがならまいが、その人自身である事には変わらない。確かにネノは『勇者』としての力を手に入れているけれど、だからってそれでどうして俺とネノの関係が変わるって話になるのか。
それにその特別になった本人も変わる事もあるらしいけど、特別になったとしてもその人はその人自身だ。
もしネノが『勇者』になったからって変わってしまっていたとしたら――そんなことはネノならありえないけど――その時は話し合いをしただろう。俺がどれだけネノを好きか伝えて、ネノとじっくり話して。そうだよな。もし俺が『勇者』になって変わってしまったらネノもまず俺と話そうとすると思う。それでどうにもならなかったら破局した可能性もあるだろうけど。
「ネノはネノでそれ以外ではないからかな。俺が惚れたのはただのネノであって、『勇者』ではないから。まぁ、『勇者』っていう称号も今はネノの一部だけど」
俺はネノが好きなんだ。だから、『勇者』っていう称号はネノの付属品でしかない。その付属品が『村人』であれ、『職人』であれ、ネノがネノなら俺はそれでいいのだ。
「はぁー……かっこいいこというなぁ、レオニードさんは。そういう性格だからネノフィラーさんの旦那をやれるんだろうな」
なんか感心された。
俺にとって当たり前のことだけど、ギルドマスターからしたら当たり前の感覚ではないらしい。
「っと、話がそれてしまったな。それで祭りについてだったな。こちらで話をすることは幾らでも出来るが、本としてまとめているものもあるからそれを見てもらっても構わない。この街の歴史をからめて祭りについて解説をした本も商業ギルドの方でまとめているんだ。お勧めの屋台特集なんてものもまとめられていたりするから、役に立つと思うぞ」
「ギルドマスターが構わないなら話をもっと聞いた上でその本も読みたいんですが」
幸いまだ忙しい夕食の時間まで時間はある。ギルドマスターの話をもっと聞いてから、本を読んで戻っても間に合うだろう。
ギルドマスターが了承してくれたので、その後俺はギルドマスターの話を聞き、商業ギルド内で目的の本を読んでから戻るのであった。




