誘い 2
「ごちそうさま。美味しかった。レオニードさん。良い、腕だな」
「ありがとうございます。それで、ギルドマスターは何の用ですか?」
満足したように笑うギルドマスターに俺は問いかけた。わざわざここにやってくるということは用があるということだろうし。悪い事だったらいやだなと身構えていたが、言われたのは予想外の言葉だった。
「ああ、そうだ。今回、此処に来たのは誘いに来たのだ」
「誘い?」
「この街でもうすぐ祭りがあるのは知っているか?」
ギルドマスターにそんな風に問いかけられた。そういえば街の住民たちがそんなことを言っていた気もするが、そこまで詳しくは知らない。俺たちはこの街に来て間もないし、なんとなくそういうのがあるんだなと知っているぐらいだ。
まぁ、祭りだと観光客も増えるかもしれないが、忙しくはなるかもしれないが……客室は満室だから泊めることは出来ないかもしれないが。影響があるとすれば、昼食や夕食の時間帯に人が増えるぐらいだろうか。
でも折角の祭りだから少しぐらいメルに任せて、ネノとぶらぶらしてもいいかもしれない。
「あるのだけは知ってる。それが?」
「それで屋台を出すことになっているんだが、折角なので屋台を出してみないか? と思ってな」
祭りでは屋台がいくつも出されるらしい。飲食店を経営している者達は、総じて屋台を出しているそうだ。また他の街からも稼ぐために祭りの時期だけ屋台を出したりしているらしい。
「ここも軌道にのってきているが、もっと宿の名を広めるには屋台を出すのは効果的だと思う」
ギルドマスターはそう言って、続ける。
「屋台か……楽しそう」
ネノがそう言って、俺の方をちらりと見る。
屋台をやってみたい気はするけど、どうしようかとそういった視線だ。そういう表情をするネノも本当、可愛いと思う。
「俺も楽しそうだとは思うけれど、屋台を出すとしたら人手が足りないだろ。ただでさえ三人でやっているから下手に行動しにくいし」
宿は俺とネノとメルだけで経営している。経営を始めたばかりだから屋台とか考えてなかったしな。ただ屋台をやるのに興味はあるんだよな。
「そこで提案なんだが、祭りの間だけでも人を雇わないか?」
「人を?」
「ああ。『勇者』のやっている宿に興味を持っている住民は多くいる。流石に食事を作ることに関しては任せられないかもしれないが、接客ならば雇った者たちでも出来るだろう。屋台の接客を任せてもいいだろう」
ギルドマスターはそう言って、笑った。
その話を聞いて俺とネノは顔を合わせる。隣にいるメルは「誰か雇うの? 屋台って前に食べた奴?」と目を輝かせている。
「誰か雇うの、あり」
「そうだな。祭りの間ぐらいならいいか」
「……祭りが終わった後でもそのまま雇ってもらってもいんだぞ?」
「んー、たまにならいい。でも、ずっとはやだ。あの宿は私とレオがやっている私たちの愛の巣。関係ない人、あんまり入れたくない」
ギルドマスターはずっと雇ってもらって構わないというが、それは勘弁してほしかった。この街にいるだけでも雇っておくのは構わないかもしれないが、折角家族経営の宿なのだから下手に人を入れたいとは思わないんだよなぁ。後々もっと大きくするとかなら考えなきゃだけど。
というか、ネノが愛の巣とか言ってくれるの可愛いな。ネノにとって俺と一緒に作ったこの宿が大切な場所だと思ってくれているだけでも嬉しいものだ。
「だよな。ネノ、俺も俺とネノの大事な場所に人はあまりいれたくない」
「うん。レオと私の大事な場所だから。そしてメルはマスコット」
にこにことネノが笑ってそう言う。ああ、可愛い。思わず抱き寄せてしまった。
「あー……仲が良い事は良い事だが、そういうのは俺がいない所でやってくれ。そこまで言うならずっと雇わなくても構わない。それで屋台はどうする?」
「そうだね。屋台の間だけ雇うのはあり。私かレオがいれば、食事はなんとかなる。私はレオほど食事作るの得意じゃないけど、なんとかなるはず」
「ネノの料理もおいしいから問題ないだろ」
「レオには負けるけどね……。祭りの間だけ、接客をする人を雇って宿と屋台の方にそれぞれ一人か二人置くでいいと思う」
「じゃあそうするか」
俺とネノの間でそんな結論に至った。
そしてギルドマスターの方を向き合って、言う。
「祭りの間だけ雇うための募集って商業ギルドで頼めますか?」
「ああ。それは構わない。条件は何かあるか?」
「人として問題がない人。それなら良い。変なのじゃなければ」
「まぁ、変なのでも僕がどうにでもするけどね」
ネノの条件に、メルは自分がどうにでもすると言ってにこにこしている。まぁ、雇うのは短期間だけだし人として問題がなければ何も問題ないか。変な人ならどうにでも出来るし。
「分かった。なら募集しよう。『勇者』の宿に変な人材をやる気はないからな」
ギルドマスターはそう言って去っていくのだった。




