王子と騎士 5
それからテディとドゥラさんは数日、『レアノシア』に滞在していた。
『魔王』を倒した第二王子であるテディと騎士団長であるドゥラさんが王城をこんなに離れていいのだろうかと思うが、まぁ、『魔王』が退治されたからこそ比較的世界は平和なのかもしれない。
それにしてもこんな風にテディとドゥラさんが楽しんでくれたのは良かったと思う。王族が泊まったってことで、王族が満足する事が出来る宿だって宣伝出来るだろうし。テディにはちゃんと許可をもらった。
テディは「是非、俺の事を使え!!」って喜んでいたのでメルにそういうチラシを作ってもらおうと思った。
開店してから数日間、『レアノシア』は盛況だった。まだ『勇者』が始めた宿ということでとても評判になっている。宿の部屋は全て埋まったままなので、申し訳ない事にお断りしなければならなかったけれど。もうしばらくしたら部屋も少しは空いて希望者を入れることも出来るだろう。
そんな感じで『レアノシア』は良い感じだ。
さて、そんな中でテディとドゥラが話している。
「ドゥラ、何でもう帰らなきゃならないんだ!!」
「……そろそろ帰らなければならないからだよ! なんでも何もテディは第二王子だからな。仮にも。第二王子が勝手にほっつき歩いてたら問題だろう。それに俺も仕事を部下に任せている状況だからな」
「ならドゥラだけ帰ればいいだろう!!」
「駄目に決まってるだろう!!」
……流石にもうそろそろ帰らなければならないというドゥラともっと此処に居たいというテディで口喧嘩をしている。
「どっちでもいい……とりあえず、宿で騒ぐの駄目」
「ネノ様、追い出す? 出禁?」
ネノは騒いでいる二人にお怒りの様子で、メルは最近覚えたばかりの出禁という言葉を使って楽しそうにしているし。中々カオスな光景な気がする。まぁ普通の宿に第二王子と騎士団長がいるだけでもおかしいのかもしれないけれど。
「すまん。ネノフィラー、メルよ。出禁はやめてくれ。俺はまた来る!!」
「はい。じゃあ帰るぞ、テディ。テディも第二王子としてやることは色々あるんだからな? そして婚約者候補が首をそろえて待っているぞ」
「俺はもっと強くて俺と対等の人間としか結婚はしないぞ」
「……あのなぁ。テディ、結婚する気はなかったとしても色んな所から縁談が舞い込んできているんだから会ってから考えよう。物理的にもテディより強い女性は早々居ないかもしれないが、セレゴーヌ姫のように精神的にはテディより強い女性はいるかもしれないだろう? 物理的にも精神的にもテディより強い存在なんて早々いないからな?」
「……そうだな。高望みしてはならないな。しかし、姉上のような女性も良いな。姉上は強い女性だからな!!」
テディは王城に帰ったら婚約者候補と会わなければならないらしい。テディも年頃だし、結婚していてもおかしくない年だからな。
多分ネノも結婚してなかったらテディみたいに「結婚してくれ」って求婚者がおおくて大変だったかもしれない。ネノは結婚していても魅力的だからそういう人は少なからずいるけどさ。
テディは姉思いな要素もあるのかもしれない。
「レオニード、ネノフィラーよ、俺様は花嫁探しに行ってくる! 第二王子としての責務もきちんとこなす! だからまた来たらもてなしてくれ!!」
さっきまで帰らないと口にしていたのに、ドゥラさんの言葉に花嫁探しのやる気が出たらしい。
「ああ。ただこの宿、時々移動させる予定だから移動させてなかったらな」
「移動?」
そういえば移動させる事をテディに言っていなかったと説明すれば、テディは目を輝かせていた。
「やはり、レオニードは凄いな!! 流石だ!!」
おもちゃを見つけた子供のように目をキラキラさせていた。テディは本当に王族らしくないと思う。
「まだこの街にいるうちに来る!! 移動先とかは決まってるのか?」
「いや、行きたいようにいくから決まってない」
「しかし移動式の宿とはいずれ噂になるだろう。噂が出たらすぐにいくことにしよう」
……そんなに暇ではないだろうにそんなに来るつもりなのだろうか。王城の人たちは大変かもしれない。俺には関係ないことだけど。
「あとジュデオンとボリスもそのうち来ると言ってたぞ!!」
誰だっけと思ったが、すぐに思い出した。ネノと一緒に旅に出た魔法使いと神官か。
「それとレオニード様、ネノフィラー様、『魔王』が倒されたことで宗教団体などが動いているようですので、お気をつけください。『魔王』を崇拝していた頭のおかしい連中はネノフィラー様を逆恨みしてますから」
そしてドゥラがそんな言葉も続ける。
その忠告には素直に頷いた。どんな相手が来たとしても俺とネノがいればどうにでも出来るだろうけれど、知っていれば対処の仕様があるから。
それにしても『魔王』を倒した『勇者』という立場だからこそネノは目立つ。良い視線も悪い視線も、沢山向けられるのだ。——なら、夫としてネノの事を何が何でも守らなければって思った。俺とネノは対等だけど、やっぱ好きな子は自分の手で守りたいって思うから。
そして、「じゃあな!」と口にしてテディとドゥラは帰っていったのであった。




