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開店 1

 『レアノシア』。——それが、俺とネノがやることになった宿の名前だ。

 そして、準備を重ねてようやくレアノシアは開店日を迎えた。

 メルに人型に変化してもらってチラシを配ってもらっていたりしていたけれども、実際どのくらいの客が来るのだろうかと不安も少なからずあった。

 『勇者』というネノのネームバリューがあるし、此処は人の行き来の多い街だから大丈夫だろうとは思っているけれども、何分、俺もネノも戦闘はともかく、こうやって何かを運営するというのは初めてである。

 こうして初めての経験をネノと一緒にしていけて、思い出を作っていけるんだと思うとそれだけでも俺は幸せな気分を感じてならない。ネノが隣にいるのは、俺にとって当たり前の日常だけれども、その日常が本当に愛しいと思う。

 まぁ、ちょっと心配していたわけなんだが、まったくもって問題はなかった。だって何時からやるか告知はしていたのだけど、開店前から並んでいた。これは入場制限つけなきゃダメじゃね? って思うぐらいの人数が居た。

 これは『勇者』効果なのか、メルが綺麗な見た目しているからなのか。並んでいる中にはメル目当てっぽい女性も何人も見られる。大丈夫だろうが、不審者がいたら気を付けておこう。メルはドラゴンだから強いが、人間社会にはなじんでいないのだから。

「多い……」

「八部屋しかないからな。どれだけ宿泊希望者がいるかだな」

「……今、朝。食堂希望者は昼前から入れる予定。食堂開けるのは、泊っている人は朝もだけど、それ以外は昼のはず。なのに、こんな並んでるの? びっくり」

「ああ、びっくりだな。やっぱ、『勇者』のネームバリューかな」

「……今は、私だけ。でも、私のレオは凄い。きっとレオの名前も有名になる。私だけ名が知れるより、レオも一緒がいい」

 そんな可愛いことを言うネノが本当に可愛いと思った。色んな人に俺の嫁可愛いって自慢したいぐらい可愛いと思ってる。

 それにネノも俺と一緒が良いと言ってくれることが嬉しい。

「まず開けたら、ネノは宿泊客の受付を頼む」

「うん。私、頑張る」

「レオ様、僕はー?」

「メルは誘導してくれ。こんな大勢、宿には入れられないからな。入場制限などだ。出来るか?」

「大丈夫、僕頑張る!」

 メルもやる気満々の声をあげていた。見るからに冒険者などもいるみたいだが、メルなら少し乱暴な客が居たりしてもどうにでも出来るだろうしな。まぁ、見た目が小さな美少年だから、下に見られて威圧的な態度はされる可能性もあるが。

 この後、人気がないところに店舗を移動させたりもするかもしれないのだから、稼げるうちに稼いでおかないと。お金がなくても自足自給すれば問題はないが、どうせならとことんやって有名な宿にしたいしな。

 俺とネノの名が、これから広まっていくと思うと何だか妙にドキドキする。これは期待も、不安も含めての胸の鼓動だ。

「……ちょっと、ドキドキするね」

 じーっと外の列を見ているネノは口を開く。

 『勇者』として『魔王』を倒したネノ。ネノを噂でしか知らない人は、ネノが完璧な少女と思っている。何でも出来て、特別な存在だと。

 でも傍でこうして過ごしていると、『勇者』であろうともネノは普通の女の子なんだと実感する。ネノの近くにいない人は、こういう宿の開店に緊張しているネノのことなんて想像さえも出来ないだろう。そう思うと、ネノの事を知れるこの位置に入れる事が嬉しい。

「だな。魔物退治ならさっさとやってしまえば終わりだけど、宿をやるなんて初めてだもんな」

「うん。でも、良かった。私が『勇者』やったから、こんだけ人集まってる」

 ネノは『勇者』をやったから人が集まると嬉しそうに笑う。ネノにとって、『魔王』を倒すことはそこまで難しいことではなかった。緊張することでもなく、出来るだろうとやる前から確信していることだった。

 だけど、こういう宿をやるということはネノにとっても俺にとっても初めてのことなのだ。ネノは『魔王』退治よりも緊張しているのかもしれない。

「大丈夫だよ! ネノ様とレオ様がそろってて出来ないことなんてきっとないもん。それに僕もここが上手くいくように頑張るもん!!」

 メルはネノと俺の言葉を聞いて、自信満々だった。その様子に思わず俺とネノは二人して小さく笑ってしまった。

「もー、なんで笑うの!?」

「気にするな。そうだな。何も問題はないな。もし問題が起きてもどうにでもするだけだ」

「うん。私と、レオなら何でも出来る」

 何で笑うのかと文句を言うメルに俺とネノはそう言って笑いかけた。



 そして開店時間を迎えた。







 


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