開店準備 4
「レオ様、ネノ様、出来たよー!! 見て見て、自信作!!」
しばらく俺は料理を作ったり、ネノとメルにどんな服を着せようかと試行錯誤していた。ネノも同様である。そうしていたら、メルが満面の笑みを浮かべてやってきた。得意げに見せてくるのは、一枚の紙だ。
どうやらチラシが出来たらしい。
ネノと一緒にメルの作ったチラシを見る。
『宿屋・レアノシア開店です!』とデカデカと書かれている下には、宿とネノのイラストが描かれているって、なんか無駄にうまいんだが……。ドラゴンなのに絵が上手って不思議な気分だ。まぁ、イラストのネノより実物のネノのが可愛いけど。
食堂の開店時間や、宿の説明も簡単に書かれている。食堂を常時やるわけではないこともきちんと書いてくれている。『勇者夫婦の宿!』とも書かれている。……メルの要素は一切ないな。人を呼ぶならメルがドラゴンだって書いた方がいいんだろうか。でもそれはそれで面倒なことになるか? まぁ、どちらにせよ、隠しているわけでもないしメルがドラゴンって悟られるだろうし、『勇者夫婦の宿! ドラゴン付き』みたいな書き方とか、なんか、まぁ、メルもいるってこと書いてもいいんじゃないかと思ったりした。
そんなことを考えていれば、チラシを一緒に見ていたネノがメルに向かって言う。
「メル、レオとメルのイラストも書いて」
「え、僕とレオ様のも? そんなスペースあるかなぁ。あと自分書くのってなんか恥ずかしい」
「私だけだと、何か寂しいから。メルのはドラゴンの姿でいい」
「竜の時の僕? まぁ、そっちの方が書きやすいか。じゃあ、それも書く。それより、全体的には良い出来でしょ!!」
「うん。上手」
ネノは満足気に笑って、メルの頭を撫でた。撫でられたメルは気持ちよさそうだ。そんなメルに俺も口を開いた。
「なぁ、メル。勇者夫婦って響きはすごくいいんだけど、メルもいるってこと書いておこうぜ。ドラゴン付きみたいな感じで」
「ドラゴン付きって、僕、付属品じゃないし! 他の書き方する! 出来たら見せるね!!」
ドラゴン付きは却下された。
メルは新しいの作ってくると言って、チラシ作りに戻った。
「レオ、食事はうまく、出来そう?」
「ああ。色々作っているからネノ、試食してもらっていいか?」
「うん」
「ネノの方は?」
「レオの服、大体出来たところ。完成させたら細かい部分の調整していく予定」
料理に関しては片っ端かた試作していって、《時空魔法》でしまっている。試作品だから一先ずこうして作り置きしているが、食堂をやる際は作り置きではなく一つ一つ作っていこうと思っている。他にやることある時は別だけど。
魚料理や肉料理など様々なものを作ってある。流石にドラゴンステーキはメニューにはない。メニューにするほどメルの尻尾もらうわけにもいかないし。
「美味しそう!!」
試作品を《時空魔法》で取り出せば、ネノは目を輝かせた。本当、可愛い。
ネノはそんなに多くの量は食べられないので一口ずつ食べているが、口に含むと顔を破顔させていて、見ていてが緩む。
刺身もある。生で魚を食べるのは忌避する人が多いけれど、ちゃんと魔法で消毒しているから問題はない。クリームコロッケにしたものや、煮つけにしたものなど色々ある。沢山手に入れたからしばらく在庫も問題ないし、メニューとして十分出せるはずだ。本当に《時空魔法》をずっと使ってきて良かったと思う。こういう時に保存するのに便利だ。
「レオ、これ、全部、美味しい。メニューとして出すの、良いと思う。流石レオ」
「良かった。じゃあこれらのメニューで審査してもらう」
ネノに流石とか言われると、言われ慣れていてもやっぱり嬉しい。
「レオ様、ネノ様、書き直したよーって、なんか食べてる! 僕も食べたい!!」
「食べていいぞ」
「わーい、じゃあ食べる! あ、レオ様、これ書き直した奴!」
チラシを書き直したらしいメルは、チラシを俺に渡すとネノの横に座って試作品を笑顔で食べ始めた。バクバクと勢いよく食べて、「レオ様これ美味しい!」と笑顔を浮かべている。
そんなメルの声を聞きながら、作り直されたチラシを見た。
メルが直したチラシの出来は結構良かった。ネノが希望したように俺やメルのイラストも追加されていて、良い感じになっている。
これを印刷するためにはまた商業ギルドに向かわなければならない。自分で印刷用の魔法具作ってもいいけど、安い値段で印刷が出来るシステムが商業ギルドにあるのだ。
「良い出来だな。メル、食べ終わったら商業ギルドに行って、これを印刷してきてもらっていいか?」
「うん、わかった。食べてからね」
メルはにこにこと笑ってそう言った。
それから、試作品を食べたメルは「行ってきます!」と元気に言って出て行くのだった。




