開店準備 3
家へと戻れば、ネノが「看板出来た」と満足気に笑っていた。
ネノの作った看板は、木でできていてとても良い出来だった。褒めるように頭を撫でれば、ネノははにかむように笑った。ああ、可愛い。
「レオ、魚とれた?」
「ああ。結構とれたよ」
「ふふん、僕も頑張ったんだよ!!」
ネノの問いかけに答えていれば、なぜかメルも得意げに笑っていた。
「宿で出す料理の準備をしなければ」
「うん」
「あと、給仕服作った方がいいし。可愛い服、ネノに着せたい」
ネノにはこの宿の中で給仕などの仕事をやってもらうつもりだから、それにふさわしい服を着せたい。どんなものでもネノは絶対に似合う。何色がいいだろうか。あれだな、作るならとことん可愛く、ネノにぴったりのものにしたい。
あまり可愛くしすぎると、ネノに惚れてしまう男が出てくるかもしれないが、敢えて可愛くないものを着せるわけにもいかない。というか、俺のネノはどんな服を着ていようが、可愛いし。
まじまじとネノの事を見つめてどんな服が似合うだろうかと考えていたら、「どうしたの?」とこてんとネノは首をかしげた。
「ネノにどんな服着せようかなと思って」
ネノに似合うものを一から作って、俺が作ったものを身に纏ったネノを見るのもいいと思う。そうしたほうがなんか、ネノが俺の物って感じが余計にして何だかよいと思った。
「ネノの衣装、俺が作っていい?」
「うん。……レオのは?」
「俺の? 俺のは特に考えてなかったけど」
「レオの、仕事服、じゃあ私が作る」
「ネノが?」
「うん。私の、レオ、世界一かっこいいって見せつけるの」
ネノがなんかすごく可愛い事いった。可愛すぎて、胸がキュンッてなった。
「ネノ、あんまり可愛い事を言うと、日も出ているうちからネノの事、食べたくなるんだけど」
「……召し上がれ。まだ、準備中だし、いつでも、私はいい」
「ネノ……」
「って、何言っているの!? まだ明るいからね!? あと、僕の服は!? 僕もお手伝いするから、服欲しいよ」
ネノが可愛い事を言っているので、そのまま寝室に向かいたかったけどメルに遮られた。
そうか、ネノの服のことばかり考えていたけれど、メルの給仕服に関しても考えなければならないか。あまりにもばらつきがあるのはおかしいだろうし、そろえた方がいいよな。
「じゃあ、ネノの作ってからメルのも作るよ」
「本当!? ありがとう、レオ様! 僕、楽しみ!!」
にこにこと笑ってお礼を言うメルを見ながら、とりあえずネノとイチャイチャするのは夜になってからにしようと思った。
「あと、宿の時間と食堂の時間、考える」
「そうだな。今の所、俺とネノとメルだけでやるしな。食堂の時間も決めておかないと」
「うん。朝、昼、夜の皆が食事をする時間に開けておけばいいと思う」
「あとは、泊っている人だけ朝を出すとかでもいいか。『勇者』のネノがいるなら街中で宿をやるなら、混むかもしれないしな」
「うん。誰も来なさそうな場所なら、常にやっててもいいかも。その辺は、場所によって、考えるといい」
「少なくともこの街だったら、それなりに人は入るだろうからな。昼食と夕食の時間は外からの人でも食事が出来るようにするか。三時間ずつぐらいそれで食堂に人を入れるようにしておけば、それなりにいい感じか?」
「うん。一先ずそれでいいと思う。やってみて、後から変えていけばいいと思う」
ネノとどんな風な宿にしていくかを、さっさと決めていく。
この宿をやるにあたって、従業員は俺とネノとメルだけである。今の所、誰かを雇うといった事は考えていない。どうせ、この宿は俺達が移動するのと共に移動するわけだし。まぁ、期間限定でこの街に滞在している間だけ、短期で働いてもらうとかならありかもしれないけれど。
今、宿がある場所は街中だけど、場合によっては街の外に宿を出すこともあるだろうし。その場合はネノが言うように、どんな風にするか臨機応変に、考えるべきだろう。
でも最初はまず、こんな宿があるのだというのを示さなければならない。
そうすれば、外に突然宿があっても「これが噂の宿か!」と皆が知る所になるかもしれない。まぁ、移動していく予定だから、常連客というのは中々作れないかもしれないけれど、いろんな場所にネノと共に行きたいからこういう経営体系をしていくことに決まっている。
「チェックインとチェックアウトとかについても考えていたほうがいいよな。何時までに帰ってこなければ宿に入れないとか、そういう決まりとかも」
「うん。あと、私たちは眠るのは隣の家でだから、もし宿の方で何か起こったら分かるシステムを作ったりもいる。呼び出し出来るようにしておくのも必要。盗難防止も。宿の備品とられないようにとか」
「そうだよな。とられないように魔力でたどれるようにしておいた方がいいよな。色々細かいことは開店してから整える事も出来るけど……今、思いついたものは開店前に整えていった方がいい」
「うん。レオが、食堂のメニューとか、私たちの服作る。私は、レオの服作る。あと、気になった所、整えていく」
「ああ。それがいいな」
ネノと打ち合わせをしていれば、ずっと黙っていたメルが口を開いた。
「レオ様、ネノ様、僕は? 僕は何したらいいの?」
「えーっと、開店前に徹底的に掃除はしておいた方がいいのと、開店したって事を大々的に広めるためのチラシとかも作っていたほうがいい気もするから、そのあたりをとりあえずやってもらえれば」
「うん。あとは、思いついたら頼む」
一先ず、思いつかなかったので掃除とチラシ作りをメルに俺達は頼むのだった。




