開店準備 2
海の中に垂らした魔力を、その強い魔力を持つ魚の元へと向かわせる。
その魔物は、頭の部分が尖っていて、その鋭くとがった部分を船に突き刺そうとしているようだった。突き刺されてしまったら、この船に穴が開く可能性もあるだろう。さっさと終わらせよう。
魔力を圧縮させて、その魔物を殺す。
うん、これで問題なし。
その巨体を持ち上げる。思ったよりでかかった。四メートルぐらいある、先のとがった魚である。それを俺は《時空魔法》でしまう。
「でか……っ」
「……流石、『勇者』様の夫」
「凄い」
周りは沢山の声をあげている。
「レオ様、流石だね!!」
「この位当然だろ」
メルは隣で目をキラキラさせて、俺の方を見ている。そんなメルは「僕も頑張る」と気合を入れて、大きな魔物がいないのか探しているらしい。対抗しなくてもいいんだが。でもまぁ、メルが頑張ろうとしているのならば特に止める必要もないので放っておく。
俺はある程度、食料を手に入れる事が出来たので椅子に腰かけてのんびりしている。メルは海の方を見てはしゃいでいる。何か強い魔物が出ないかなと期待して出てこなかったので、あきらめて海を見ているようだった。
魔力感知は続けているので、強い魔物が出てきてもすぐに対処できるようにしている。
それにしてもこうして海に出て見て、空を見上げるのも中々気分が良い。生まれ育った村にいた頃は、海なんて見た事がなかったけれど、これだけの大量の水が広がっているのは不思議な気分である。
いつか、他の大陸に行ったり、島に行ったりもしてみたいなという願望も出てくる。
ネノと一緒ならどこにだって、どこへでも行ける。
そう思えるから。
今頃、ネノは看板作りを終えているだろうか。そのあと、何をしているだろうか。ネノなら、ナンパとかされたとしても軽くあしらうだろうけれども。ネノは可愛いから異性の注目を浴びるしな。
ネノは昔から注目を浴びていた。顔立ちだって整っているし、『勇者』だと判明する前からあの村で一生を終わるような人材ではないと言われていた。
幼い頃、ネノの事を好きになって、ネノに置いて行かれたくないと頑張って本当に良かったと思う。もし俺が昔頑張らなかったのならば、今のようにネノと夫婦になんてなれなかっただろうから。
「『勇者』様の夫様」
「……俺はレオニード。その呼び方呼びにくいですよね?」
「ええっと、レオニード様、『勇者』様との話を聞いてもいいですか?」
傍によってきた冒険者は、ネノの事が聞きたいらしい。幸い、波も落ち着いていて、危険な魚は近くにはいない。俺や冒険者達の仕事はしばらくないだろう。
「いいですよ。何を聞きたいんですか?」
「『勇者』様とはどうやって出会ったんですか?」
いかつい外見の冒険者の男が俺に敬語を使っているのは俺が『勇者』であるネノの旦那という立場だからだろう。多分、その肩書がなければこんな対応はされないだろう。そう考えると『勇者』であるネノの影響力は本当に大きいと言える。
「幼馴染なんですよ。生まれた時からずっと一緒の」
「幼馴染……!? 『勇者』様は昔からあれだけ強かったのですか?」
やはり冒険者として生計を立てている者達にとって、『勇者』とはいうのはあこがれの的なのかもしれない。
ネノはそれだけ強くて、美しい。あと可愛い。
ネノってある意味最強だと思う。だってあれだけ強くて、可愛い存在なんて他にいない。俺がネノの事を好きだからこそ、そんな風に思ってしまうのかもしれないけれど。
「そうですね。ネノは昔からああでした。昔から、それこそ『勇者』だと判明する前からずっと強かったですから」
小さい頃のネノもそれはもう可愛かった。俺に心を許していなくて、今のように俺に笑いかけたりなんかしなかったけれど、ネノは昔から可愛かった。
ネノを好きにならなかったら、今の俺はいない。
俺はネノを好きになったからこそ、これだけ強くなろうとしたのだ。
それを思うと、ネノを俺と同じ村に生まれさせてくれてありがとうと神様に感謝したくなる。
「そうなんですか。流石、『勇者』様です! ところで――」
それからもネノの事を沢山聞かれたので、ネノが嫌がらない範囲でネノの事を冒険者に語った。ネノの事を知って、驚きの声をあげたりして、本当にこの冒険者はネノに憧れているんだなと思った。
俺の自慢のネノが、人に憧れを抱かれている事は嬉しい。
俺のネノはこれだけ凄いんだと自慢したくなってしまう。
冒険者たちと話しながら、手に入れた魚でどんな料理を作ろうかと頭を働かせる。魚料理はそこまで詳しいわけではない。本などを読んだりして、学んでからサンプルを作るべきだろうか。ネノが喜んでくれるような美味しい料理が作れればいい。そう思ってならない。
それから、冒険者たちと話しているうちに漁師たちも漁業を終えたようだった。
そのまま港へ戻るまでの間、特に脅威はなかったので俺とメルはのんびりと海を眺めていたのだった。




