商業ギルド 3
「さて、宿の名前どうしようか」
「こういうの考えるの、苦手」
「うん。俺もあんまり得意じゃない。宿の名前って大切だし、下手な名前はつけたくないしな」
「うん」
折角宿をやるのだから、下手な名前はつけたくない。そう思うからこそ余計にどんな名前にしようかと悩んでしまう。
その場の勢いとノリで決めてしまえば、後から後悔する事になりそうだし。
「僕が考えようか!!」
「……メルは、どんなの思いついてるんだ?」
「レオ様とネノ様の宿!」
「……それ宿の名前じゃないだろ」
「えー、分かりやすくていいと思ったんだけど」
メルの言葉に何言っているんだと思わず、突っ込みを入れる。
それにしても本当にどんな名前がいいのだろうか。そう思って頭を悩ますが、正直言って思いつかない。
「『勇者』様達は、家名はないのか? 家名をつけている宿も結構あるが」
頭を悩ませている俺達に、ギルドマスターがふと思いついたかのように言った。
「家名ですか……。俺もネノも平民ですからね」
「うん。家名、ない」
「……つけたらどうだ? これからのためにもなると思うが。『勇者』様であるのならば、家名をつけていてもおかしくないだろう」
確かに、何かを成し遂げた者は平民でも家名をつけていたりもする。
『勇者』として『魔王』を倒したネノが家名をつけていてもおかしくはない。考えた事はなかったが、これを機に家名をつけてもいいかもしれない。俺とネノが夫婦だって表すものになるわけで、家名を作った方が夫婦という感じがより一層してなんか良い気がした。
ネノも俺と同じ考えだったようで、
「家名、いい。つけたい」
と嬉しそうに声をあげていた。
そのため、まず、俺達は家名を考えて、それを店名にすることにした。家名と聞いて俺が思い浮かべたのは一つだ。
「なぁ、ネノ。ヒアネシア様をもじって家名をつけるのはどうだ? 『勇者』を選別する女神で、ネノとのかかわりも大きいし、何より、結婚を神聖視していて、浮気を許さない点も共感が出来るしさ」
「それ、良い。私もヒアネシア様は好き。どうもじろうか?」
俺がヒアネシア様の名をもじった家名をつけるのはどうだ、と言えばネノも笑みを溢して頷いてくれた。可愛い。
ヒアネシア様を少しもじるとして……、どんな家名がいいだろうか。
「レオと私の名前、少し入れる。私とレオの家名っぽい」
ネノがそういうので、俺のレオニードと、ネノのネノフィラーを入れたもじった家名を考えてみる。
「ヒレネシラー、ヒアネード、レアノシア、オノネニード、オノネニラー、レアニラーア……」
「うーん……。どうしよう」
「よし、くじでもするか。うだうだ悩んでも決まらなさそうだし」
ギルドマスターから不要な紙をもらって、それを細長く均等に分ける。その先に候補の家名を書いて、家名が書いてある方を俺が手で握る。そして混ぜてから、ネノに一つだけ引いてと頼んだ。
「……家名選ぶの、くじなの? いいの、それで??」
メルが何か言っているが、どれがいいか本当に分からない。こうやってくじで決めてしまった方がすぐに決まる。
ネノが一つの紙を引き抜いた。
「ネノ、どれになった?」
「レアノシア」
「うん。じゃあ、それにしようか。今日から俺はレオニード・レアノシア」
「うん。私、ネノフィラー・レアノシア」
「一緒の家名、何かいいな」
「うん。良いね」
レアノシア。
俺とネノの家名。俺とネノの夫婦の証の一つ。
何だかいいなぁと思った。
思わず、ネノの手を握ればコホンッとギルマスターが咳ばらいをした。
「……家名が決まったのなら、記載してもらっていいか? いちゃつくのは二人の時に頼む」
そんな風に言われてしまったので、お言葉に従ってネノといちゃいちゃするのは家に帰ってからにすることにした。
店名にレアノシア。
責任者は、俺でもネノでもどっちでもよかったのだが、ネノに「レオが責任者」と言われたので俺の名前を書く。
従業員の一覧には、ネノとあとメルも記載する。
お店の位置を書く欄は……、移動させる気満々なのでギルドマスターに聞くことにした。
「ギルドマスター、店の場所だけど今はあそこですけど、街から出る時に持っていく予定なんですけど」
「持ってく?」
「はい。《時空魔法》で店ごと持っていく予定です。それで次にしばらく定住する場所を決めたらそこでまた宿をやります」
「は?」
何だか理解不能という顔をされたので、きちんと説明をした。俺の言っている事を理解したギルドマスターは「えー……」といった顔をしていたが、「ならば、ひとまず現在の場所を書いてくれ。そして移動式店舗とでも書いていてくれ」と言われたのでそう書いた。
あとは開店前に商業ギルドからの審査もあるらしい。飲食も出来るようにするから、そのあたりの事もだ。不衛生だと客が病気にもなったりするから。審査をクリアしてから、開店となるらしい。
それまでに宿で出す食事についても一通り準備しておかねばならないようだ。
今日は申請書だけを商業ギルドに提出をして、きちんと開店準備が万全になったら審査を頼むことになった。




