商業ギルド 2
商業ギルドの中に入れば、騒がしかった場が一瞬で静まった。
やはり、『勇者』であるネノは目立つ。まぁ、俺もこの街ではそれなりに有名になっているだろうけど。とはいえ、やはりネノのネームバリューには勝てないだろう。
俺達は視線を感じながらも、商業ギルドのカウンターへと向かっていく。
いちいち視線を気にしていたらやってられない。
「すみません。登録したいんですけど」
「はっ……」
すいているカウンターへ真っ直ぐ向かえば、固まっていた女性が動きだす。まさか、声をかけられるとは思わなかったとでもいうような態度で、女性は挙動不審だ。
「『勇者』様達が、と、登録とは」
「店をやろうと思ってるの。だから、登録。お願い、します」
「お、お店ですか。えっと、りょ、了解しました」
ネノに話しかけられて緊張でもしているのか、女性は何度もどもっている。手続きの用紙を取る手は震えている。大丈夫だろうか。
あと視線を向けられているのはどうにかならないものか。彼らも何か用事があって商業ギルドに来ているだろうに。俺達の事を見る暇があるのならば、自分のやる事をやればいいのに。
「こ、この用紙に記載していただきたいのですが」
手を震わせながら女性は、用紙とペンを差し出してくる。
……震えるあまりにペンを落としてしまっている。そうしていれば、奥から誰か出てきた。その人は女性の後ろまでやってくると、「すまない。『勇者』様方、奥の部屋で手続きをしてもらってもいいだろうか」と困ったような顔で言った。その男は、青色の髪を持つ、細身の男だった。
俺とネノは顔を合わせて、頷きあった。
「そうします」
ネノがそう答えれば、その男は安心したような表情をした。そして俺とネノとメルを奥の部屋へと案内するのであった。
通された部屋は、商業ギルドのギルドマスター室だった。
この男性がこの街の商業ギルドのギルドマスターらしい。顔も名前も把握していなかったので、案内された部屋に『ギルドマスター室』と書かれていて驚いた。ギルドマスター室には、机やソファが存在している。腰かけるように促されて、俺達は並んでソファに腰かける。
「すまない。通常ならカウンターで手続きをするのだが……」
「構いません。ただ、どうしてわざわざギルドマスター室でなのかは聞いていいですか?」
「他が『勇者』様方の動向を気にして仕事にならないからというのが一番の理由だ。あとは私としてみても『勇者』様方がお店をやるというのは興味があった」
俺とネノが店をやるというだけでもそれだけ興味をそそられるらしい。まぁ、確かに歴代の『勇者』達って『勇者』として『魔王』を倒した後、姿を隠して隠居したり、冒険者として活躍したり、後は王女と結婚して王になったりとか、そういう活躍をしている者が多い。過去にいた『勇者』の中ではヒアネシア様を信仰しているが故に、数十人も妻としていた凄い『勇者』もいたらしい。
『魔王』討伐後に王族にも貴族にもならずに店をやる『勇者』はいなかったはずだから、それもあって興味を引いているのかもしれない。
「あとは、冒険者ギルドのギルドマスターが『勇者』とその旦那は登録しないのかと毎日心待ちにしているようなのだが……」
「冒険者ギルドは登録する気はないです」
「うん。冒険者ギルドの登録、必要なし」
どうやら冒険者ギルドのギルドマスターは俺とネノがギルド登録をしてくれるのではないかと期待していたようだ。残念ながら期待に応える気は今の所ない。
俺達の言葉を聞いてギルドマスターは口を開く。
「そうなのか……。それはあいつも落ち込むことだろう。ところで、その子供は何なのだ?」
「僕はメルセディス!」
「もしかしてなのだが……、初日に共にいたドラゴンがこの子だろうか」
「そうです」
「そう」
「人化出来るドラゴンと共にいるとは、流石だ」
ギルドマスターがそう言えば、なぜかメルが得意げに笑った。
「ふふん。レオ様とネノ様は凄いんだからね!! 僕は二人とじゃなきゃ契約しなかったもん」
「そうか」
ギルドマスターは笑みを溢すメルを見て、撫でようと手を伸ばしてメルに手をはたかれていた。手をはたかれたことに、ショックを受けた表情を浮かべている。
「……ギルドマスター、それより手続きしたい」
「はっ、そうだな。すまない。こちらの用紙に全て記載いただきたい」
メルに手をはたかれて固まっていたギルドマスターは、ネノの言葉にはっとして、用紙を机の上に置く。それに俺とネノは目を通す。メルは邪魔をしてはいけないと思っているのか、口を閉じて座っている。
用紙には、店名や所属者などを書く欄ある。
店名、結局考えていなかった。此処で考えてもいいだろうか。
「ギルドマスター、店名ちゃんと考えてなかったのでここでネノと話し合っていいですか?」
「考えてなかったのか……。構わない。来客予定も特にないからな」
「ありがとうございます」
許可をもらえたので、ネノと色々と相談することにした。




